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恨みが一番の原動力ってそれ一

「配信は別に、前も手伝ってたから別にいいけど……」


 ごまイワシのお願いにそう返したエルメルとマンチだったが、


「わざわざ改めて聞くって事は、なんかあるな?」


 これまでも配信自体は手伝ったことがある。

 手伝いと言っても、一緒にパーティ組んで様々なボスを周回した程度。

 それくらいならばお安い御用だというつもりだったが、それならば前みたいに、のような前置きがあっていいはずで。

 それが無かったという事は、何かしら前までと違う点があるという事である。


「まぁ、拙者がプロチームに所属しているのは知ってるでござるね?」


 その部分を説明するために、まずは前提となる自分の立場を再確認するごまイワシ。


「何だっけ……ZJKかなんか――」

Zizz(ジズ) Joy(ジョイ) Knife(ナイフ)ね。うたた寝楽しむナイフ」


 うろ覚えで、それでも正解を口にしたエルメルに詳細を補足するごまイワシ。


「拙者そこの競技チーム兼ストリーマーとして所属してるんでござるが、ぶっちゃけ最近さぼり気味なんでござるよ」

「おい」

「まぁ聞いてほしいでござる。んで、競技チームに関してはそもそも拙者バックアップ要員兼練習相手的な立ち位置なので、正直大会に出るなんてことは稀なわけで。となると配信を主として頑張らなければならないわけでござるが……」

「最近やってなかった、と」


 最後まで言わせるまいと、マンチが結論を先に口にして。


「そのたぅり!!」

「完全に身から出た錆で草」


 真顔で草と言い放つエルメル。

 その真意は笑えるかボケである。


「まぁ、このゲームを配信するにあたって公式に配信許可取って、『ソロ配信ではなくパーティ配信ならばOK』って返事貰ったから手伝って欲しいんでござるが」

「んならそっちのプロチームにいるメンバーでパーティ組めばいいじゃん。プロの配信となるとマイペースでレベリングとか出来なさそうだし嫌なんだけど?」


 それでも負けじと外堀を埋めていこうとするごまイワシに、趣味と仕事の線引きを曖昧にしたくないエルメル。

 実際の所、どれだけ好きなゲームだろうと仕事としてプレイしなければならないとなると、途端に苦痛に感じる人も居る。

 そうなってしまった場合、それはゲームからの引退を意味することになる。

 エルメルはそれを懸念していた。


「どんなにプロでも徹夜してレベリングなんてしないから大丈夫でござる。マイペースが他人のハイペースみたいなもんでござる」


 あえて最初の質問をスルーして。

 後ろの質問へのフォローをしたごまイワシの反応を、マンチは見逃さない。


「んで? そっちの面子で配信しない理由は? もっといやぁ、わざわざ俺たちを巻き込もうとしている理由は?」


 逃げ場を無くす、単刀直入な質問は、


「……断られたでござるよ」


 ごまイワシの小さな呟きによって、返される。


「断られたって……チームなんだろ?」

「間違いなく」

「何で断られたか聞いたか?」

「人望じゃね?」


 しれっと横から酷いことを言うエルメルを無視し、ごまイワシは拳を握りしめ、


「いくら避けタンクとはいえHP極はねぇよ。ネタ振りと一緒にプレイ出来るかって、一蹴されたでござるよ」


 と叫ぶ。


「やべぇ、ぐうの音も出ねぇ」


 それは、ごまイワシはおろか、エルメルやマンチ、†フィフィ†すら突き刺さる、AoE(範囲攻撃)


「でそ? んで、だったらネタ振りのエルたそマンチニキ†フィフィ†ネキでパーティ組んで配信して、ネタ振りでもこんだけやれるんだって見せつけようかなと思った次第」

「本音は?」

「バカにされてむかついたから一矢報いたいでござる」

「素直でよろしい」


 その発言は、確かに正論ではある。

 ゲームにおいて火力振りや耐久振りなど、目的のあるステータス振りではなく。

 HP極にMP極、平均振りに微動だにしない敏捷振り。

 もし仮に、大型アップデート前のエルメル達がそんなステータス振りをしているプレイヤーに出会っていたなら、驚愕していただろう。

 効率を求めていたのだから、パーティを拒否したかもしれない。

 だがしかし、そもそもVR()()()なのだ。

 その本質は遊ぶこと。楽しむ事。

 だったら、ネタ振りであろうと『ない』と言われる(いわ)れはない。

 だからこそ、


「ネタ振りにも人権があることを、配信を通してアッピルしたいでござる」

「なるほど。言いたいことは分かった」

「じゃあ!?」


 力説したごまイワシに、力強く頷いたエルメルは……、


「んで? ギャラは?」


 物凄くリアルな事を尋ねた。


「んーと、配信したら視聴者数に応じて金が入ってくるでござるから、そこからチームに一旦渡って拙者の懐に入ってきた金額を四分割して渡す予定でござる」

「なんかしょぼそう……」

「と言ってもいつメンのみんなは正直金じゃ動かないと思っているので~」


 一体いくらになるのか、見当もつかない金額を伝えられたエルメルは、露骨に期待してなさそうな表情。

 そんな表情を照らす条件を、ごまイワシは口にする。


「拙者かな~り無理を言いまして~、今拙者がプレイしているのって自宅からじゃないんでござるよ」

「マジ? どこから――まさか!?」

「ふふふのふん♪ 『バラ―ジュホテル』の部屋、急遽四つほど確保したでござ~る」

「マジか!!」

「というわけで~、拙者の配信に協力してくれるのならば、プロゲーマー御用達のホテルを提供するでござる!!」


 どや顔で無い胸を張り、お高く留まるごまイワシの右手をエルメルが。

 左手をマンチがそっととり、そのまま地面に(かしず)いた。

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