中に人なんていますよ?
侵攻を終え、報酬を受け取り。
さらには功績上位という事でエルメルとごまイワシは特典を貰い。
得点の性能を見る前に、一旦寝ようという議論に落ち着く。
時間的に言えば日が傾き始めたくらいの時間であるが、何せ四人は休憩を挟んだだけで一度も睡眠を取っていない。
現状継続プレイ時間は三十三時間程度であり、普段ならば余裕で継続している時間であるが、先ほどの侵攻が思ったよりもハードであり。
だらだらとレベル上げをしたりという、いわゆる脳死でプレイできる作業ならば三徹も可能だが。
言うなれば侵攻の消費カロリーが高かったのだ。
それを飲み込むためには休息が必要と、これまでの経験から導き出した四人は。
「すまんパルティ。一旦寝てくる」
「え? あ、はい!」
一気にレベルが上がって戸惑っているパルティに一方的にそう宣言し、ゲームからログアウトした。
「え~っと……何をしたらいいんでしょうか?」
一人残されたパルティは首を傾げながらも、復興に向けてNPC達が動いている町の中へと駆けだしていく。
彼女の考えは、未だ回復が行き届いていない人が居るのではないか? とのもので。
だったら、私に出来ることはという事らしい。
根っからの治癒師の考えで動く、そんな彼女に。
「ちょっといい?」
声をかける人影があった。
*
「あー目がシパシパする。情報量多すぎて把握すんのマジで大変だったな畜生」
現実世界へと戻ってきた光樹は、まずはトイレにて用を足し。
直後、主張し始めた腹の虫を治めるべく、買い置きしていたコンビニ弁当を温める。
「んげ、着信あってるし。……何事だよ」
温めが終わる間に自身のスマホを確認すれば、そこには『羽沢陽』からの着信が。
流石に放置するわけにもいかず、すぐに電話をかける。
「あ、もしもし? 母さん? なんか連絡した?」
数度の呼び出しの後、繋がったことを確認してそう尋ねると。
「そろそろ死ぬか小僧」
と、ドスの効いた声が返ってきて。
「俺何かやらかしてた?」
恐る恐る聞いてみると。
「別に? カレー作ったけど取りに来ない?」
「あ、行く」
どうやら特に何もやらかしていなかったらしい。
どころか、料理を取りに来いとの連絡だった。
光樹は一人暮らし。ただ、両親の住んでいる部屋が、上の階にある。
なので、こうして料理を多く作ってしまったときは取りに来いと連絡が来るのだ。
最も、まともに用件だけが伝えられることは少なく、ほとんどの場合は先のやり取りのようにネタが入っているが。
光樹のネタ発言は親からの遺伝かもしれない。
*
「ん~。心地のいい疲労感でござる――って、口調はいいか」
ゴーグルとデバイスを外したごまイワシの中身――『岩橋 黄昏』は伸びをして欠伸を噛み殺す。
「マリンちゃ~ん、俺寝るから起きたら起こして~」
「意味が分かりませんけど?」
隣の部屋にいるゲーム仲間へと声をかけ、さっさと寝室へと移動する黄昏。
彼が居るのは最近話題になっているホテルの一室。
プロゲーマー御用達を目指すそのホテルには、全ての部屋に数多のVRシステムが搭載されており。
あらゆるゲーム中に必要になるであろう備品からサービスまでを厚く保証するそのホテルの新形態は、プロゲーマーはそのホテルに缶詰め状態にしとくのが一番と言われ始めるほど。
配信環境、設備、までも備え、時代の先を行こうとするそのホテルの名前は『バラ―ジュホテル』。
黄昏は、同じゲーミングチームの仲間と共にそのホテルと年単位で契約している現役のプロゲーマーであり、同室にいるマリンと呼ばれた女性もその内の一人である。
「というか、そろそろ配信しないと契約違反と騒がれても知りませんよ? 現在活動していないの、岩橋さんだけなんですから」
寝室に消える黄昏の後ろ姿へ、そう声をかけるマリンだったが。
「分かってる~。んじゃおやすみ~」
ひらひらと手を振ってそのまま寝室に消えた黄昏を見て、マリンは一人ため息を吐いた。
*
マズい。非常にまずい。仕事をため過ぎた。
そう理解したのがゲームからログアウトしてから五分後の事。
†フィフィ†の中身である『鏑木 真智』は洋服専門のデザイナーである。
それも、結構有名な。
どちらかというと日本よりも海外で評価されている彼女の元には、当たり前のように依頼が舞い込んでくる。
普段も十や二十程度の依頼は溜めていたし、それらをすぐに捌いてネトゲに勤しんでいたのだが。
「流石に三桁はしんどいかも……」
季節の影響か膨大な依頼が舞い込んできており、しかも割と納期が迫っていた。
それ故に、真智は決意する。
(うし。こっから二徹で依頼終わらせて一日寝て、三日後からネトゲしよ)
可能な限りネトゲの時間を削らない、身を削る方法を。
*
「はぁ。……脳の疲れには糖分だなぁ……」
そんな三人とは裏腹に、クラシック音楽をかけながら紅茶とケーキを楽しむ男性。
マンチの中の人、『繁里 篝』はティータイム中。
寝る前に好物のイチゴのショートケーキを食べ、好きな銘柄の紅茶を楽しむ。
それが、篝の寝る前のルーティンになっていた。
(つーか侵攻だっけ? あれ何日置きに来る気だ? 流石に連日なわけないだろうし、かといって離れすぎてても侵攻って意味なら効果は薄い。……結構な頻度で来るってことでいいのか?)
と言っても、流石に頭の中ではネトゲの事を考えているあたり、生粋のゲーマーと言える。
(そうなるとレベル上げとかをプレイヤーに促す名目にもなるし、なるほど……考えたな)
ハイペースでレベルを上げるも、スローペースでレベルを上げるもプレイヤーの自由。
ただ、全員が遅いと今回のように町を失うぞ。という運営からの警告にも見える今回の侵攻。
チュートリアルという意味において、これほど効果があることも中々ないだろう。
(しかも、先の町の名前を出すことで知りたくなるしな。早く進んで解放したいって思うプレイヤーは多いだろうさ)
締めのコーヒーゼリーへと手を伸ばし、今後の事を考えていく篝。
(まず生産職。んで、装備とか、スキルとか、レベルやステータス確認もだろ。あとは……二個目の町にもそろそろ向かわねぇとな)
紅茶を飲み終え、スイーツをすべて平らげて。
頻繁に出まくる欠伸を噛み殺しもせず、垂れ流しながら布団へと移動した篝は。
そう時間を要することなく、眠りの世界へと落ちていった。