開かれた扉
天を割り、空気を震わすジョルトの一撃は、ワイバーンの翼へとヒットして。
「グギョッ!?」
その翼は、フレイムワイバーンの体を離れ、先に地面へと落ちていき。
本体も、その後を追って地面に落ちていく。
しかしそれは、まだ撃破判定になっていないという証拠であり。
フレイムワイバーンを倒せるかどうか、固唾を飲んで見守るしかなかった近接職のプレイヤーは、その落下地点へと急ぐ。
自分がとどめを刺すのだ、と。
せめて一撃は、ダメージを与えようと。
……時に、『CeratoreOnline』の仕様で、当然とも思えるものがある。
それは、ボス戦におけるNPCの立ち位置である。
特に、今回の侵攻のような、NPCも積極的に戦闘に参加する場合などに特に重要なその仕様の内容は――ボスへトドメが刺せない、というものだ。
プレイヤーの誰よりもレベルが高いNPCがボスにトドメをさせてしまうと、極論プレイヤーが必要なくなってしまう。
それを防ぐためと、やはりボスへのトドメはプレイヤーが刺すべきだ、という運営の判断から生まれたこの仕様は、まさに今発動されていて。
それはつまり、現在フレイムワイバーンの体力は、これ以上ないくらいに低くなっているわけであり。
誰かが攻撃を当てさえすれば倒せる。そんな状態。
「貰った!!」
「いただきでござるぅ!!」
そんなフレイムワイバーンに真っ先に近付けたのは、やはりというか、ジョルトの攻撃をフレイムワイバーンまで届かせる手伝いをした、エルメルとごまイワシの二人であり。
「[抜撃]!!」
「[抜け切り]!!」
全く同じタイミングで発動された二つのスキルは……。
「グォォォオオオオオッ!!」
同時ヒット判定になり、その合わさった一撃をもって、フレイムワイバーンの体が薄れていく。
「やったでござるかっ!?」
「ここまで来て暴れたらシャレにならんからフラグ立てんのやめーや」
そんなフレイムワイバーンを見据え、既に立てられ、折られたフラグを発するごまイワシと。
また戦うのは勘弁と、ため息交じりに拒否るエルメル。
すると、
『ボスモンスター:フレイムワイバーンが討伐されました。これにより、モンスターによる侵攻が終了しました』
というシステムアナウンスが。
そのメッセージを受け、歓喜の声を。
鬨の声をあげるプレイヤーたち。
さらに、
『侵攻の防衛に成功したので、以下の場所が領土として保障されます。
・始まりの町 ブルーリゾート
・砂漠の町 イエローデザート』
と、エルメル達の居る最初の町以外でも、侵攻が発生していたこと。
さらに、それを防衛出来た事を知らせるアナウンスに、プレイヤーたちの歓声は音量を上げる。
――が、
『侵攻の防衛に失敗したので、以下の場所が領土から外れます』
と表示され。
『 ・緑の町 グリーンフォレスト
・海賊と漁の町 シアンポート
・陽を見送る町 レッドグランド
・極寒の町 ホワイトイグルー
・霧晴れぬ町 パープルミスト
・弔いの町 ブラックセメタリ― 』
六箇所の町が、侵攻によって魔物達に落とされた事を伝えてくる。
「何だよ……」
誰かが呟く。
「何だよそれ!!」
誰かが叫ぶ。
自分たちの居る場所だけ守ればいい。そんな考えを――当然の考えを持っていた誰かが。
「落ち着け!!」
そんな誰かの叫びは、その後に続いた一喝によってかき消される。
その一喝を吐いた主は、先ほどフレイムワイバーンに致命的な一撃を与えた、ジョルトであった。
「数年前に戻っただけだ。守った二箇所も、失った六箇所も、元々俺たちが攻め込んで手に入れた土地だ」
周囲にいる全プレイヤーに届く様に、ジョルトは声を張り上げて説明する。
「また俺たちの手で奪い取ればいい! 何度モンスターが侵攻して来ようが、何度でも防衛し、奪取し、追い返せばいいだけだ!!」
それこそが、大型アップデート後の、このゲームの根幹。
モンスター達との、世界規模での領土の奪い合い。
そして、どこかにいるはずの神を見つける事。
それが、このゲームの目的なのだ。
「一先ず怪我人と倒壊した建物の把握だ。その後で復興を手伝うぞ!」
そうNPCとプレイヤーに通達したジョルトは、どこかへと歩いていく。
――そして、プレイヤー達全員に、
『生産職が取得できるようになりました。町にいるNPCに教わることで生産職を獲得できます』
というアナウンスの後。
『続いて、今回の侵攻で獲得した経験値を配布します。なお、この経験値の量は個人の功績によって異なります』
と流れ、
「うおっ!? マジか!?」
「結構レベル上がってるでござるぅ!」
「こっちはスキルマスタリーが来たぞ! やっぱり解釈間違ってなかったんだな!」
「私地味~」
エルメルが、ごまイワシが。
レベルが上がったと喜べば、マンチはスキルマスタリーがアップしたと喜んで。
他の三人と違い、レベルもそんなに上がらず、スキルマスタリーもアップしなかった†フィフィ†が嘆く中。
「ふぇぇ~!? 何ですか!? 何ですか~!?」
ひときわ大きな光をあげて、一気にレベルアップしたパルティが、ひたすらに困惑していた。
*
チュートリアル侵攻功績報告。
・ブルーリゾート
第一功績者 プレイヤー名 ごまイワシ
功績 ボス、フレイムワイバーンの討伐、並びに討伐補助
同 プレイヤー名 エルメル
功績 同上
第二功績者 プレイヤー名 パルティ
功績 プレイヤー、NPCの治癒。
第三功績者 プレイヤー名 猫キャラメル
功績 モンスターの討伐
・イエローデザート
第一功績者 プレイヤー名 琥珀
功績 ボス、サンドコブラの討伐
第二功績者 プレイヤー名 黒曜
功績 ボス、サンドコブラの討伐補助
第三功績者 プレイヤー名 顔s
功績 モンスターからの建物の防衛
上記プレイヤーには、特典が送られます。