三歩進んで二歩下がる
毎日投稿(一日一話とは言ってない)
鳴り響く携帯端末と、パソコンからの通知音。 それに意識を呼び起こされた光樹はまずは携帯端末に手を伸ばして応答する。
「おかけになった電話番号は現在使われておりません」
「それっぽい抑揚の無い声で言ってんじねぇよ! つか無駄にうまいなお前!」
「アプデ終わった?」
「終わったぞ、だからさっさと通話に来い。じゃあな」
お願い通りに起こしてくれたネトゲ仲間に僅かに感謝しつつ、ヘッドセットを装着してパソコンのオンライン通話に応答する。
「みんなもうダウソ終えたん?」
「現在進行系なう」
「んー? 途中から進まないと思ったら○ートン先生がウイルス判定してて止まってるんだけどどゆこと?」
「妙なところで仕事し過ぎじゃね?」
自分も遅れないように、とダウンロードを開始しようとして、画面に表示された警告ウィンドウに眉をひそめた。
「俺のもウイルス判定してるんだけど……。え、何? 公式がウイルスとか言うネタを地でやってくスタイルなの?」
「今検索かけたんだけどスレでも話題になってるわ。無視してダウソしたらHDDイカれたらしいぞ」
「公w式wがwウwイwルwスw。つかHDDバーストとか何それ怖い」
「これまたすぐにメンテ来るんじゃね? しばらく静観が無難かも知れぬ」
仲間の一人が言うようにウイルス判定されてダウンロードが出来なかった更新データは、スレッドやネットで拾った情報からしばらくは待つと言う結論を出して。 いつ緊急メンテナンスが入るか分からない為、パソコンの前からは離れない彼らは、話題をゲーム開始後に作るキャラクターについてへと変えていった。
「どんなキャラ作る?」
「前のキャラだと遊び心無さ過ぎた感じが途中からしてさ。次キャラ作るときは思いっきりネタに振り切ろうかなと思ってたんだ」
「お、いいじゃん。ネタキャラ。名前で遊ぶ? 見た目で遊ぶ? それとも、ステータス?」
「つか全キャラ消えてるなら好きな名前付けられるじゃん。すぐにキャラ作って名前取られないようにしないと」
和気藹々(わきあいあい)と話す彼ら達は、様々な自分の理想のアバターの話に花を咲かせる。
「俺はロリ獣っ娘。異論は認めない」
「あー、エルちゃんロリ好きだもんねー」
仲間からエルちゃんと呼ばれたのは光樹の事で。 彼はハンドルネームとしてエルリという名前を頻繁に使用していたからその呼び名が付いた。
「コリンちゃんはやっぱりショタっ子?」
「ん~。キャラ見てから考えるけど基本ショタかなぁ」
コリンと呼ばれたのは光樹のネトゲ仲間として通話に参加している中で、唯一の女性プレイヤー。 女性であるから周りにちやほやされたい、と考えるタイプでは無く、純粋にゲームを楽しみたい系女子である。そもそも、ゲームが好きで無ければこの仲間達と一緒に三日徹夜や四日徹夜などはしないだろう。
「うち、マンチさんのキャラで特定の見た目が思い浮かばないんだけど……」
「あんまり見た目にこだわってねぇからなぁ、俺」
また新しい名前をコリンが口にして、続いたのは低めのおじ様ボイス。 耳に心地よく残る魅惑的なボイスは、狩りの途中の癒やし担当である、等とコリンに言われた事もあるらしい。
「ごまさんは絶対奇抜な見た目にするわ。断言できる」
「結構言い方酷いと思われる。自分はフィーリング重視だから結果的にそうなることが稀によくあるだけさ」
ごま、と呼ばれた人物の声は、聞く限りでは青年の部類であった。 先ほどからネタに寄った発言の多くはこのごまという人物のものと光樹のものであり。
この面子のボケ役とツッコミ役の大分けとしてそのようになっていた。最も、この四人共がスラング等を発言するため、時に混沌と化してしまい、収拾が付かなくなったりしてしまうのだが、それはそれでいい、というスタンスの彼らであった。
「ステ振りとかってあるんかね?」
「流石にその辺のシステムの根幹はいじらんでしょ。――つかいじられてたらガチで引退考えるぞ」
「ネトゲの醍醐味の一つだしね、ステ振り。あー……うちステもネタ振りしようかなー」
「ええやん、何に振るん?」
キャラの見た目の話を終えたと思えば、今度はステータス分配の話へと入る光樹達。『CeratoreOnline』 において、レベルが上がるとステータスに割り振れるポイントが一定数手に入る。 そのステータスポイントの振り方で個性などを出していくのだが、彼らがアップデート前に振っていたのは、ガッチガチの遊び無し火力特化振り――通称「火力極振り」と呼ば れるもので、足りない耐久は全て装備で補い、全力を持って最短で敵を倒すことを目的とした振り方だった。
「けどパッと思いつかないよねネタ振りって。――あ、MP極にしようかな」
「ぶっ! MP極とか使い道教えてくれ。即倉庫キャラにして新しいキャラ作る未来が見えるわ!」
閃いた! とばかりに言ったコリンの提案を爆笑しながら否定する光樹。
「あーん、マンチさ~ん。エルちゃんがいじめる~」
「流石に俺でもその極振りはねぇだろと思ってしまった。……スマン」
「素直に謝られると傷つくー! 絶対MP極でカンストまで行ってやる……」
マンチカンに助けを求めるも突き放され、何やら野望に燃えるコリンを余所に、うんうん悩んでいるのはごま。
「自分どうするかなー。ぶっちゃけネトゲって余程じゃ無きゃ死にステにならないと思うし……無難にHP極にするかなぁ」
「まずは無難の定義について詳しく。あ、ネタに無難って事か」
「MP極はまぁ……回復なしでのスキルの回転数とかで説明出来そうだけど、HP極とかもう装備固めろって言葉しか出てこねぇわ」
「MP極も拘らずにポーション飲めって話だけどな」
二人の出した極振りの意見にツッコミを入れる光樹とマンチ。 じゃあ二人はどんなネタ振りにするのか、とコリンに問われると、
「俺は実は決めてたんだ。――――均等振りするわ」
「ぶっ! 均等振りとか何も出来ない器用貧乏ktkr不可避」
「逆に需要無さそうなネタ振りだねー。ネタにすら出来なさそう」
「エルたそは?」
自信満々にゲーム初心者が陥りがちな地雷振り、『均等振り』を宣言するマンチ。
その後に、順当に話を振られた光樹だったが、返したのは歯切れが悪い答え。
「ぶっちゃけまだ決めてないんだよなぁ。まぁ……ステ見てから決めるわ」
「どうせ無難なのにするんでしょー? エルちゃん割と現実主義だからなー」
「ネトゲで現実主義とか矛盾する一文やめーや。けどまぁ、個人の自由でそ。そもそもメンテが始まらないと自分らプレイが出来ないわけで」
「「それな!」」
いい加減にメンテしろや、と一同がイライラし始め、ページの更新を連打していると、緊急メンテナンスの案内表示が出てきた。
「おっそ! やっとかよ」
「つかそもそも大型アプデも予定より2時間遅れだったからね、終わったの。運営死んでるんじゃない?」
「やっとこさアプデ終えたと思ったら即緊急メンテか……ご冥福をお祈りします」
「死んでないから! デスマーチかもしんないけどまだ死んでないから!」
「んで? メンテ終了予定はいつ?」
案内のページを開き、確認しながら好き勝手なことを言う一同の前に出てきたページには、大きな文字でこう記載されていた。
メンテナンス終了まで――――24時間、と。
「「運営の血は何色だぁぁっっっ!!!」」
その表示を見た瞬間、四人の悲痛な叫びが……響き渡った。