意思の疎通は可能である
「やってもいいけど、安くねぇぞ?」
「あら意外。てっきり断られるもんだと思ってたのに」
エルフお姉さんのお願いという名の提案は、条件次第で受け入れるとマンチは返し。
それに対し、思っても見なかったと目を丸くするエルフお姉さん。
「ま、事情があんのよ」
「結構、のっぴきならない事情がね」
「?」
主にステータス振りのせいで、他のプレイヤーよりは火力が落ちるマンチと†フィフィ†は、正直前線を抜けてきたモンスターを相手にして勝てる保証はない。
前線を抜けるにあたり、多少の消耗はしているだろうが、それでも平均振りとMP極の二人には荷が重い。
その点、魔法を使って倒して見せた目の前のエルフは火力はある。
問題は魔法を発動するまでの時間稼ぎ、と、実は利害は一致している。
――が、ただ利用されるというのも癪であり。
だからこそ、何を対価にするのか? とマンチは問うた。
「まぁ、協力してくれるって言うんなら……そうねぇ。今回の侵攻、だっけ? これ終わったら絶対報酬払われるはずじゃん?」
「まぁ、これだけやって報酬とか、表彰とかなかったら荒れるとは思う」
「だったら、その報酬を分けるってのはどう? 恐らくだけど、倒した敵の数で配分される報酬決まりそうだし」
「報酬とかが無かったら?」
「その時は、なんか別の埋め合わせを考える」
エルフプレイヤーの提案は、どれもこれも確証のないものであったが。
それでも、何かしらで協力の対価を払おうとする姿勢を見せたことに、マンチは満足した。
「分かった。俺は協力する」
「お、マジ?」
「ただ、こっちと向こうの回復職が協力するかはそれぞれに聞いてくれ。俺別にリーダーとかじゃねぇし」
故に、マンチは受けた。
が、その話を†フィフィ†やパルティが受けるかはまた別だ、と、エルフにはっきりと告げる。
「ウチは別にいいけどね。どうせ私じゃそんな成果あげらんないし」
「お、サンキュー。えっと、自己紹介だけやっとこうか。私、【マリエス】。よろしく」
「マンチだ。よろしく」
「†フィフィ†、よろしくね~ん」
そんなマンチの言葉を余所に、あっさりと協力することを示した†フィフィ†に頷いて、エルフプレイヤー――マリエスが自己紹介。
それに続いてマンチ、†フィフィ†が自己紹介したところに前線からのモンスターが乱入。
「さっきのと違うやつだな」
「外殻無いから物理の効き良さそう。[ハイキック]!!」
「あ、待て。お前にもエンチャントかけるから! ったく……[ランダムエンチャント:茶:茶:緑]!」
先手必勝と抜けてきたイビルバットの顔面に蹴りをお見舞いする†フィフィ†と。
それに遅れて†フィフィ†、自分、マリエスにそれぞれ魔法ダメージ付与を行うマンチ。
緑色に弱く光る自分の弓に一瞬ぎょっとしたマリエスだったが、それがマンチの剣や†フィフィ†の四肢も同様だと確認すると、マンチのスキルだと理解して呪文を紡ぐ。
「氷の礫を解き放て! [氷の矢]!!」
それは、先ほどまでのスキルと違い、明らかに風を纏った矢を発生させ。
イビルバットに当たった瞬間、風が爆ぜるようなエフェクトが出て追加ダメージが発生。
その一撃で、イビルバットは撃破判定となって姿が消える。
「うん? なんであんな威力出たの?」
「弱点とかなんじゃね? 知らんけど」
「結構来るよ!!」
考察を始めようとするマリエスとマンチだったが、†フィフィ†の言葉に視線を戻し。
さらに自分たちへと向かってくる、エリマキリザードを迎撃する構え。
「時間稼ぎよろ!」
「合点承知の助!!」
即座にマンチの後ろに飛んで詠唱に入るマリエスと、そんなマリエスを隠すように移動するマンチと†フィフィ†。
当然、前の二人に襲い掛かるエリマキリザードだが。
「あの二人ほどじゃねぇが、キャラコンには自信あんだぜ?」
「人力TASと比べちゃ駄目よ」
相手が攻撃モーションに入るよりも早く、あえて相手の懐に入り込み剣を振るうマンチ。
不意の一撃を喰らい、一瞬よろけるが、大したダメージもなくすぐに立て直すエリマキリザードへ。
「[エキササイズ]!! か~ら~の~、[ハイキック]!!」
顎へと綺麗なワンツーパンチがきまり、浮いた顎へと砕く蹴り上げ。
明確に動きが止まったその瞬間に、
「貫け! 冷たく鋭い氷の槍よ!! [氷結槍]!!」
矢よりも二回りほど大きく、鋭い氷で作られた槍が、エリマキリザードを貫いて。
なおも足掻くエリマキリザードへのとどめの一撃は――、
「ハイクを詠め!! カイシャクしてやる!! [ブレードスイング]!!」
首と胴体に別れを告げさせる、剣による横薙ぎ。
「ごまさんとエルちゃんがいないとネタ成分が多めになるのが玉に瑕なんだよなー、マンチさん」
「後ろにいるからてっきり強さに自信がない人たちなのかと思ったけど、普通にやるじゃん」
そんな美味しい所を持って行ったマンチへの†フィフィ†の評価は、ネタさえ言わなければ……と惜しむもので。
そんな二人へ、当てが外れたような言い草のマリエスが近付いてくる。
「自信がないって言うか、弁えてるだけ?」
「前線に行った回避に絶対自信ニキ達よりは動き悪いしなぁって感じ。激戦区に降り立つと死ぬだけなのは理解してるし?」
ゲームにおいても、現実においても。自分の力量を把握するというのは、重要であり、難しい。
ましてや、その把握した力量で、何を、何処まで出来るかと判断するのは、一朝一夕で出来るものではない。
それをまるで当然とでも言いたげにやっているマンチと†フィフィ†のゲームの慣れ方に、マリエスは密かに心を躍らせる。
もしかしたら、実はすごい人たちに声をかけたのではないか、と。
……平均振りやMP極でキャラ育成をしていることを考えれば色々な意味で『凄い人』であるため、その考えは間違っていないのだが。
「二人が言ってる前線に行った知り合いさんがどれほどなのか、気になってきた」
「酔うよ。見てるだけで。慣れてないと」
「あ、そこまでなんだ」
「パルクールって分かる? 街中飛び回るやつ。常時あんな感じ」
「うわー。超気になるー」
さらにヤバい奴もいる事を教えられ、一先ずはこの人たちでよかったと、マリエスはこっそり胸をなでおろした。