一方その頃……
ジョルトに続いて突撃していったエルメルとごまイワシを見送った†フィフィ†とマンチは、きょろきょろと何かを探し始める。
そんな二人へパルティが問いかけ。
「あのぉ、私たちもついていかなくて大丈夫なんでしょうか……?」
それは、前衛である二人についていかなくて大丈夫なのか? というものだったが、
「ん? ああ、あの二人ならほっといていい」
返ってきたのはマンチの素っ気ない答え。
「そうなんですか?」
「うん。危なくなったら下がってくるだろうし、その辺の判断が出来ないわけじゃないしね」
なおも聞くパルティに†フィフィ†が答え、
「それに、あいつらについていったら私たちが大丈夫じゃないし」
と付け加える。
「?」
首を傾げるパルティだったが、
「恐らく一撃で体力をごっそり削るようなモンスターばっかだぞ。あいつらが向かっていったのって」
というマンチの言葉でようやく納得したようだ。
ではマンチ達は前線に行かずに何をしようとしているのか。
それはもちろん後衛を全うしようとしている。
……と言っても、後衛と呼べる職はパルティのみであり、モデルも魔法戦士もどちらかと言えば前衛寄りの職なのだが。
――と、そこへ。
「すまん! 誰か回復頼めるか!?」
フラフラと走ってきたかと思えば、そう叫ぶ鎧をがっちり着込んだ戦士が一人。
「パルティ、出番だぞ」
「え? ……あ、はい! [微治癒]!!」
それを確認したマンチは即座にパルティへと指示を飛ばし、指示を受けたパルティは一瞬何のことか分かっていなかったが、理解してその戦士に回復魔法を施す。
「悪い。助かった」
「ポーション買い忘れた系? それとも消耗で使い切っちゃった系?」
「両方だ。敵は固いし被ダメがデカい」
お礼を言ってくる戦士に対し、先ほどの状況に陥った原因を尋ねるマンチ。
「補給直前でモンスターの襲撃が来た。アイテム屋は店畳んで避難してるし、武器屋と防具屋は前線で戦ってる。……あと教官係も前線で見かけたな」
「NPC総出って感じか。見た感じ物理に耐性ありそうなモンスターばっかなんだよな」
「ぶっちゃけその通りだぞ。……俺はタンクをやってたんだが、数が多いうえに味方の攻撃が全然通らなくてな。倒すのに時間がかかって被ダメが増えるって感じだ」
「魔法職何してるの?」
「いるにはいるが……恐らく敵の数が多いから詠唱を妨害されてるんだろう」
その原因と一緒に、前線の状況――どころか戦場の大雑把な状況を話し始めるタンク戦士。
「やっぱ詠唱中の護衛役は必要か」
「まぁ、後衛やってた身からすれば、喉から手が出るほど欲しいよね。……大抵前衛って突っ込むけどさ」
その話を聞き、マンチと†フィフィ†がエルメル達についていかなかった理由がはっきりする。
二人は、詠唱という魔法を発動するために必要な時間のかかる行為、その行為の為に時間を稼ぐ目的で、あえて後ろで待機することを選択した。
……もっとも、マンチはともかく、†フィフィ†が前線に行ったところでさしたる活躍は出来なかっただろう。
そして、その事も理解しているからこその、この選択である。
「とりあえず俺は前線に戻る。他のタンクの負担が増えちまってるしな」
そう言って回復が終わったタンク戦士は駆けだそうとするが、
「一瞬ストップ!」
マンチに声をかけられ動きが止まる。
「なんだ?」
「[ランダムエンチャント:青]!」
その止まった瞬間に、マンチの魔法ダメージ追加スキルが戦士へとかかり、
「ゴー!!」
「特に説明しないのな!?」
タンク戦士の言う通り特に説明をしないまま今度は見送るマンチ。
しかし、タンク戦士はタンク戦士で自分の武器にうっすら水色の光が宿ったことで何かを理解したらしく、言われたとおりに元来た道を全力ダッシュで戻っていく。
「うし、んじゃ、俺たちも動きますか」
「あれ、他人にも付与できたんだ」
何事もなかったかのように行動をしようとしたマンチに対し、†フィフィ†が問いかける。
「いや、説明には一切無いんだが、ごまが『スキルを多彩に使う』事がスキルマスタリーアップの条件って言ってたじゃん? てことは、自分に付与する以外にもこのスキルの使い道があるハズなわけで」
「そこまで行けば他人に付与ってすぐ思っちゃうか。……あ、投擲アイテムとかに付与も出来そう」
「あ、たぶんいける。てかそれ面白いな」
話が盛り上がり始めるが、そこへ前線を抜けてきたストーンガーゴイルの一体が襲い掛かってきて。
「ひぃっ!?」
怖がって逃げ出そうとするパルティを余所に、
「[ハイキック]!!」
「[ランダムエンチャント:赤]! か~ら~の~、[ブレードスイング]!!」
スタン付きの蹴りで†フィフィ†が迎撃し、魔法ダメージ追加を今度は自分に付与したマンチが初期スキルにてゴーレムに斬りかかり。
「ぐえっ!」
声をあげ、ダメージが通ったことを認識させるストーンガーゴイルへ、
「[氷の矢]!!」
氷の矢が突き刺さる。
「ごめん、討ち漏らしちゃった。ダメージとか受けてない?」
その矢が飛んできた方向から聞こえた声に振り向けば、そこには。
長身耳長という、エルフの特徴をしっかり周到しながらも、エロフと称されるような抜群のプロポーションは無く。地震が来ても揺れやしない。例えるならば断崖絶壁で空気抵抗が少なそうな体系の女性プレイヤーが立っていた。
「72!」
「次は撃つ」
「二度と言いません」
特定の貧乳キャラを煽る言葉をつい口にしたマンチだったが、まさか通じるとは思っておらず。
直後に自分に弓を向けたお姉さんエルフに平謝りをする。
「前線が討ち漏らしたモンスターを狩ろうと思ったんだけど、結構押し留めてるみたいでさ。かと思えば同時に何体も抜けてきたりで、狙う暇がなかったんだよね」
弓を下ろし、モンスターを漏らした理由を話し始めるエルフお姉さんは、
「二人とも近接職でしょ? 私がモンスター狙うまでの時間稼ぎとか、買って出てくれるととってもありがたいな♪」
自分もモンスターを討伐して経験値と、貢献度とを稼ぎたいために。
より倒しやすいように、と、マンチと†フィフィ†へと協力を要請するのだった。
……ちなみにパルティは、前線からひっきりなしに下がってくる負傷者を回復しては見送り回復しては見送り。たまに一息ついてやけ酒のようにMPポーションを飲み干すというサイクルに陥っていた。