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そして自分に出来る事

「ちょぉぉぉっとだけ怪しいでござるねぇっ!? 拙者死んだかもしれないでござるよ」

「開始二分で死を悟るな避けタンク! 何のためのHP極だ!?」

「ネタの為でござるぅっ!! 間違っても避けられなかった時の保険みたいな考えでHPに振ってるわけでは――あちょっと待って掠ったもうマヂ無理」


 意気揚々とジョルトの後を追って突撃したエルメルとごまイワシだったが、目の前に降り立った最初のモンスター相手に苦戦していた。

 というのも、相対した敵がゴブリンやスライムに代表されるような序盤で戦いそうなモンスターではなく。

 ストーンガーゴイルという、少なくとも最初の町では戦わなさそうな相手だったからである。

 文字通りレベルが違う。

 敵の攻撃は掠ればそれだけで致命傷になり得るし、こちらからの攻撃はどれだけ当てても微小なダメージしか与えられない。

 しかも、それが一体だけではなく、エルメル達の周囲に三体。

 周りを見渡せば、見渡すだけ存在するのだ。

 もはや絶望のさなかに自ら突っ込んでしまった感じが否めないが、希望はある。


「どぅおりゃぁぁぁっ!!」


 割と近い位置で、ジョルトも戦闘を行っており。

 レベル5になったばかりの二人では敵わないであろうストーンガーゴイルを一撃のもとに粉砕していく。

 そもそも、ステータス振りをネタに尖らせている二人は、他のプレイヤーたちと比べて自らハンデを背負っているようなものであり。

 そんな彼らが他のプレイヤーと同じように戦って成果を上げられるか? もちろん否だ。

 エルメル達が成果を上げられるならば、他のプレイヤーはそれ以上に成果を上げるだろう。

 というか、周囲で戦っている他のプレイヤーが叩き出すダメージは、既に明確に差が産まれており。

 具体的に言うならば、ストーンガーゴイルを倒すのに途方もない時間を要する二人に比べ、他のプレイヤーは現実的な時間をかければ倒せるくらいの差。


「火力でない奴は後ろに引っ込んでろよ! やられても知らねぇぞ!?」


 そんなプレイヤーからしてみれば、ダメージも出ないのに前線に出ているエルメル達をうっとおしく思えてしまうのだろう。

 ――だが、


「火力出せるなら出し惜しみせずにさっさと倒すでござるよ! ポーション飲む時間くらいは稼いでやるでござるから!」


 そんなプレイヤーたちへ、ごまイワシは煽り返す。

 出来るんならさっさと倒せ、と。

 その後の隙は、自分たちがヘイトを買って受け持つから、と。


「回避極の避けタンクか!? 喰らってくたばるなよ!!」


 それを受け、ごまイワシの役割を理解した【ノルマンディ】というプレイヤーは、ごまイワシの背後から拳を振りかぶって跳躍し。


「喰らいやがれぇ!![穿突(せんとつ)]!!」


 拳に込めた一撃を、ストーンガーゴイルへとお見舞いし。

 少なくないダメージを与えて、吹き飛ばす。


「めっちゃ火力出るな」

「いや、あいつ防御固すぎ。そこらの雑魚なら今の倍は出てるぞ」


 感想を呟いたエルメルに対し、他ならもっと出るのにと愚痴るノルマンディ。


「ただ、今のスキル、MP結構食うし溜めも要るからちょっと庇ってくれ」


 そう言って青いMPポーションを(あお)る。


「ぶっちゃけ俺らの役割って、モンスターのヘイト稼いで火力職の手伝いするか、ジョルトに(なす)るかくらいしかないんだよなぁ」

「しょうがないでござるよ。火力出ないんでござるから」


 二人でため息交じりにヘイト稼ぎに勤しむと、


「ていうかあんたらやたら回避だけはうめぇな。他の奴らや俺でも結構被弾してるってのに」

「それだけが取り柄でござるからねぇ。[流転]。まぁ、攻撃判定分かりやすいでござるし、そこから逃げるだけでござるから」

「敵の攻撃の初動さえ見落とさなきゃ、弾いたり範囲外に逃げたりは余裕だしな」

「いや、普通は分かってても反応できないんだがな?」


 よく回避できるな、というノルマンディの感想。

 それに対する二人の解答は、どうも一般人の範囲からは外れている。

 ――が、当たり前に行っている三徹などでアップデート前からこのゲーム内での動きに慣れまくり。

 モンスターの挙動から次の動きを呼んで討伐までの効率化を図っていたほどの廃人なのだから当然と言えば当然であろう。


「考えるな。感じろ」

「悟っていやがる……」


 ポーションを飲み干し、型に入って力を溜め始めたノルマンディは、次に狙うストーンガーゴイルへと狙いを定める。

 狙うは、先ほども攻撃を与えた個体。

 ……と思っていると、


「ジョルト!! 覚悟でござるぅっ!!」


 突如として、そのノルマンディが狙っている個体を含めた三体のストーンガーゴイルから追われながら、ジョルトへと突っ込んでいったごまイワシ。


「んなっ!?」


 何事かと驚愕するノルマンディを余所に、気配に気づいたジョルトは――、


「ぬんっっ!!」


 特に言葉もなく斧でごまイワシを迎撃。


「[抜け切り]」


 斧が当たる寸前で、背後に迫るストーンガーゴイルをターゲットに、移動と攻撃を行うスキルですれ違うと……。


「そういう……ことかよ」


 ジョルトの振った斧は、ごまイワシではなく三体のストーンガーゴイルをまとめて薙ぎ払い。

 対するごまイワシは判定の外へと逃れたため、斧の攻撃は通っていない。


「おめぇやるじゃねぇか」

「あんたの強さは身を以て知っているでござるよ。せいぜいモンスターの掃除に有効活用してやるでござる」


 ごまイワシの動きを褒めるジョルトに、煽るごまイワシ。


「そんな口叩くから喧嘩屋なんて称号貰うんだろうがよ……」


 そんなやり取りを見てエルメルの呟きは、戦闘の喧騒に掻き消された。

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[一言] ごまイワシ喧嘩屋のお手本になっとる
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