侵入
「なんか、よく会うでござるね」
鷹の上のプレイヤー――手を振る琥珀に向けてため息をつきながら。
ごまイワシは、呆れた様子でそう口にする。
「目指す場所は基本一緒なわけだし、会わない方が変じゃない?」
「いや、おもっくそ得意レンジ遠距離なのに、得意距離前戦の俺らと会うのが変って話では?」
首を傾げる琥珀に対し、質問に質問で返してみるエルメル。
そんなエルメルに、
「そう? 確かに砂担いではいるけど、基本SMGも扱えるから、前戦出るの変じゃないと思ってるけど?」
装備を切り替え、先程までのゴツイスナイパーライフルから取り回しの良さそうなサブマシンガンへ。
それを見せつけるように、エルメルに示した琥珀の表情はどこか得意気で。
「なる。それで近距離も対応できるのには納得いったけど、ジョブ的にどうなん? 基本遠距離メインちゃうの?」
という質問に、
「初めはそうだったけど、ジョブエクステンドすると近距離時のスキルが追加されたよ?」
四人全員が初めて聞く単語を口にした琥珀。
「ジョブ……」
「エクステンド……?」
その単語に、一気に考え始めるごまイワシとマンチの二人。
一方、エルメルと†フィフィ†は、
「ちょっとその話について詳しく」
「意味的にジョブスキルの拡張とかされる感じか? 発生条件とか知りてぇ」
と、琥珀へと尋ねる形を取り。
当の琥珀は、
「そりゃあもちろん……ひ・み・つ」
唇に立てた人差し指を当て、それ以上教えないことをアピール。
四人がすっきりとしない感情を抱えたところで、
「琥珀様、敵の動きが止まったようです」
先程から黙っていた鷹状態の黒曜が琥珀へと報告。
その報告を受け、上空を飛んでいた『森の支配者』へと視線を移した五人は……。
「躊躇いなく急降下して蟻を食べてるでござるね」
「対空火器の攻撃をまるで無視して食ってるの面白すぎる」
「食欲はすべてにおいて優先する」
「これさ、今のうちにあの火器撃ってる場所を制圧しなきゃな感じ?」
「あー……ありそう。――それ採用で」
蟻の注意が『森の支配者』に向いているうちに、拠点である蟻塚の制圧を行うことを決定。
しかし蟻塚は複数存在しており……、
「手っ取り早く手分けして制圧するでござるよ」
「もし制圧できなかったら?」
「制圧出来るまでやるでござる」
「考えが脳筋過ぎる……」
その蟻塚を、各々で制圧しようと提案するごまイワシ。
しかし、
「ん~……、一番右の蟻塚に顔s達が入っていったね」
そんなごまイワシ達をよそに、到着した顔s達【ROOK WIZ】の面々が、一番近くの蟻塚へと突入。
それを見送ったうえで、
「黒曜、ギルメンに通達。右から二番目の蟻塚に突撃、って」
「御意」
琥珀と、琥珀を乗せた黒曜が右から二番目の蟻塚へと向かう。
出遅れた形となったごまイワシ達だが、
「別に焦る必要ないと思うんでござるよねぇ……」
と腕を組んだごまイワシは、
「正直、ここは見に回りたいんでござるが」
と口にするが、
「え?」
他の三人は今にも飛び出しそうな体勢でごまイワシの方を振り返る。
まさか行かないのか? と。
視線と表情とポーズとでそう訴える三人を前に、ごまイワシは――、
「全員突撃!! 狙うは真ん中の一番デカい蟻塚でござ~る!!」
三人が待っていた言葉を吐いて真っ先に飛び出して。
「そうこなくっちゃ!」
「なんであいつら、一番デカいところ避けたんだろうな?」
「明らかに周りの蟻塚を攻略しないとどうにも出来ないギミックが仕込まれていることが予想できたからだと思いま~す」
ごまイワシを追って飛び出した三人と、この蟻塚について考察。
そうして出た解答は、攻略するための順番がある。というものだったが、
「まぁ、顔s殿や琥珀殿達が居れば、他の蟻塚は大丈夫でござろ」
「先にデカい蟻塚に入っとけば、勝手に進めるようになるだろうし」
「他力本願でメインだけ美味しく頂いちゃおう作戦」
「もっとも、同じ考えのプレイヤーは当然いるけどな」
その順番の攻略は、他のプレイヤーやギルドに任せ。
自分たちは本命だけを狙ってしまおうという、あまり好ましく思わない人が居るであろう作戦を四人は取った。
……それを見越してか、あるいは彼らの後をつけると決めていたのか、少なくない人数のプレイヤーが四人の後を追ってくるが。
「ついて来れるならついてくればいいでござる。別にそんな目くじら立てることでもござらん」
「敵の横取りとか、出来るもんならって感じだしな」
「自分の実力に自身ニキたちは気楽でいいなぁ……」
「とか言いつつお前まんざらでもない表情してっぞ」
四人の意見は、自分らから手柄を横取れるものなら取ってみろと言う強気のもの。
そうして蟻塚へと侵入した四人は、
「盛大なお出迎えでござるね」
「だからと言って焦りはしないよね」
入り口に砲口を向けられた無数の大砲を前に散開。
全員が当たり前のように砲撃を回避。……ただし、そのタイミングで入ってきた多数のプレイヤーは突然の砲撃になすすべなく直撃したりしたが、四人はそんなことを気にも留めない。
「各大砲ごとに蟻二匹。各個撃破で稼働する大砲の数を削るでござるよ!」
「了解!!」
即座に状況を確認したごまイワシが作戦を立案。
それを即座に理解し動き初める三人。
しかし四人は、はるか上空から狙いを定めている一つの脅威に、まだ気づいていないのであった。