クレイジータクシー
「マンチ~、お迎えにあがりましたわぞ~」
アグラの強化魔法を受け、およそ普通では到達できない速度でグリーンフォレストへと戻ったエルメルは、その速度のまま町中を移動しまくり。
リスポーンし、プレイヤーに囲まれているマンチを発見。
何してるんだ、とため息をつきながら、プレイヤー達の中に割って入ってマンチへと声をかけた。
「お、エルじゃん。助かったわ」
そんなエルメルの姿を見つけたマンチは、心底ホッとしたような表情を浮かべると、
「ファンサービスに付き合ってくんね?」
と尋ねた。
同時に、
「エルメルさんですよね!? 配信見てます!!」
マンチの周囲にいたプレイヤーの一人から声をかけられると……。
まるで連鎖のようにそこから怒涛の質問ラッシュが始まった。
「どんな環境でプレイしてるんですか?」
「キャラコンの秘訣は?」
「装備見せてもらっていいですか?」
と言ったゲームに関係あることから、
「本当の性別は男ですよね?」
「好きな食べ物は?」
「スリーサイズは?」
などと言ったゲームに無関係なリアルの質問まで。
それら全ての質問を華麗にスルーすることにしたエルメルはマンチに目配せ。
(さっさと鳥の所に戻るぞ)
(りょ)
アイコンタクトだけでマンチと意思疎通をし、アグラディアに小声で、
「俺とマンチにまたバフよろ」
そう指示を出す。
――が、
「人居過ぎてて何人か巻き込んじゃうよ」
との返答が。
そこで一瞬考えたエルメルは、
「逆に範囲広げるとどれくらいの人数に付与できる?」
と確認。
「今周りにいる人全員にかけられると思うけど……」
「じゃあそれでいい。対象はこの辺のプレイヤー全員で」
何やら考えがあるらしく、指示を出したエルメルは、
「悪い。俺らとっとと連れの所に向かわなきゃなんないから、あんま期待に添えたこと出来ねぇんだわ」
周囲にいるプレイヤーにそう喋りだし。
「そん代わり、一個だけファンサービスっつーの? やってやるから、よーく聞いといてくれ」
そう告げたタイミングでアグラディアが強化魔法の詠唱を完了。
対象をエルメルとマンチを中心とした周囲のプレイヤー全員に設定し、発動。
突然身に覚えのない強化魔法を受けてプレイヤーがざわつく中、
「今かかったバフは移動速度が馬鹿程上がるやつな。俺ら、この効果中にレイドボスん所向かうから、キャラコンに自信ニキネキはついてくるといいよ」
駆けだす寸前にそうプレイヤーへと声をかけ、移動を始めるエルメルとマンチ。
慌てて置いて行かれまいと追いかけるプレイヤー達だが――想像以上の速度の上がり方に明後日の方向にすっ飛んでいくプレイヤーがちらほら。
「俺がいつも見てる高速の景色だったら見せてやるさ」
辛うじてついて来ているプレイヤーへとそう呟くと、スキルとキャラコンを駆使した立体起動もびっくりなとんでも軌道でどんどん森の奥へと抜けていくエルメル。
そんなエルメルの後ろを、
「あいつ絶対俺の事考慮してないだろ」
ボヤキながら、時には前鬼後鬼を足場にしながら、それでも高速でエルメルを追いかけるマンチ。
少し後ろを振り返れば、制御出来ずに木に激突したり、着地点に足場が無くて地面へと落下していくプレイヤーの姿が見て取れる。
「絶対初見で対応できる奴少ねぇだろ」
「分かってやってるからな」
「性格わっる」
そんな景色を見ながらエルメルに声をかけたマンチに返ってきたのは、ちゃんとそのことを加味しているというエルメルの言葉で。
かわいそうに、と、次々に脱落していくプレイヤー達へ哀れみの気持ちを抱くマンチ。
そこへ、
「待って! 後生だからお願い待って!!」
マンチたちの背後から、なんと追いついてくるプレイヤーが一人。
「お、紫陽花じゃねぇか。お久し」
「お久し。って、そうじゃなくて」
斥候蟻を足場に空中へ飛び、そこから雷鳴を轟かせて一瞬でエルメルへと並走した紫陽花は、
「視界の景色の流れる速度が異常過ぎて酔ったから待って!」
「やだ」
「んな子供みたいに……」
割と切羽詰まった声でエルメルに懇願するが断られ、仕方なく適当に止まって休憩するか、と諦めた時。
「だって着いたし」
というエルメルの言葉に顔を上げる。
そこには……、
「エルたそお帰り! 早かったでござるね!」
「ここまでの道のりはもはや通学路と化した」
「その見た目で通学路っての合うわー」
「次から油断して攻撃を食らわないことをここに誓います」
エルメル、マンチの合流を迎えるごまイワシと†フィフィ†の姿が。
そして、『森の支配者』と戦うプレイヤーの姿が。
「んじゃ、後は勝手に何とかしてどうぞ」
「強風起こして羽根飛ばしてくる攻撃に注意な。耐久あってもクリティカル出ると一発で持っていかれるぞ」
その景色に呆然としている紫陽花に、エルメルとマンチが声をかけ。
「エルたそもマンチニキも向こうの木の陰に行くでござるよ。アグラが活躍してると知って自尊心が傷ついたエルフ達がバフ巻いてるでござる」
「ついでにうちらにもアグラ様のバフをぷりーず」
その二人へ声をかけるごまイワシと、猫なで声でアグラディアに強化魔法をおねだりする†フィフィ†。
「うい。んじゃあちょっくら行ってくる。アグラ、降ろすぞ」
肩車をしていたアグラディアを降ろし、ごまイワシの指差した方へ走るエルメルとマンチの背中に、紫陽花は、何故だか安心感を覚えるのだった。