新たな風
昨年は一年お世話になりました。
今年もよろしくお願いします。
イエローデザート。
そこは、先日エリアボスと拠点ボスが討伐され、プレイヤー達が手に入れた初めての町。
その場所は今……、
「そっち行ったぞ!!」
「見りゃわかる!! ていうか一向に勢い止まんねぇぞ!! どうなってやがる!」
「知るか!! ……いってぇなクソが! ったく、これじゃ埒が明かねぇぞ!!」
侵攻の真っただ中にあった。
侵攻してきたボスはスフィンクス。
砂で出来たそのボスは、蛇や虎など、多数の生物を模る砂を引き連れており。
倒せど倒せど、砂へと戻ってまた生物へ。
何度倒せど相手は砂へ。そして、プレイヤー達は徐々に消耗していった。
もちろん、発生源にしてボスであるスフィンクスを討伐すればいいのだろうが、スフィンクスを狙って突っ込んでいった近接職のプレイヤーは、しばらくして町の入り口から駆けてくるのだ。
無論、やられてリスボーンしたことなど、誰の目にも明らかである。
そして、それはつまり、現状ではスフィンクスに歯が立っていないことの表れで。
モンスターたちを町へと侵入させないよう、陣形を固めて防衛に徹している壁職からしてみれば愚痴も零れるというもの。
というわけで、侵攻が告知されて十五分。
状況は膠着へと陥っていたのだが……、
「よし。大丈夫」
そう呟いて杖を一振りしたパルティは、自身を薄緑色の光が包んでいることを確認し。
「怖がらない。躊躇わない。諦めない」
自分自身に言い聞かせるように呟いて――駆けた。
壁職の頭を越え、スフィンクスへ向けて。
「おい!? やめとけ!!」
そんなパルティの背中へバカでかい盾を持ったプレイヤーが叫ぶも、パルティの動きは止まることはなく。
あっという間に砂虎に取り囲まれてしまう。
「言わんこっちゃねぇ!!」
そんなパルティを助けようと動くデカ盾だったが、
「爆ぜよ魔力。味方に癒しを。敵に裁きを! [癒爆心]」
突如、砂虎の囲んでいる中心から薄緑色の閃光が差し込み。
直後、轟音とともに爆発が発生。
思わず周囲のプレイヤーが衝撃に身構えるも、飛んで来たのは衝撃どころか回復効果であり。
他の職に比べて圧倒的に少ない治癒職の存在ゆえに、明らかに行き届いていなかった壁職の下へとそれは届いた。
「回復?」
意識外の治癒効果に一瞬動きが止まるデカ盾だったが、反対にパルティの動きは止まることはなく。
「我らを癒す鈴の音よ。永く我らを包み給え! [玉響の光]」
振り返り、密集している壁職部隊を範囲指定し、治癒魔法を発動。
一定時間ごとに回復効果を発生させる魔法であるそれは、壁職部隊を丸ごと包み込んで魔法の効果を付与。
そこまでを確認したパルティは、視線をスフィンクスへと移して進んでいく。
――そこへ、
「一人で向かうおつもりで?」
「ひゃぅっ!?」
急に現れたヘルミに驚き、思わず変な声を上げてしまったパルティ。
さらに、
「あはは、『ひゃうっ!?』だってよ。可愛いねぇ」
追加で出てきたビオチットにより、完全に足が止まってしまい……。
そこをボコボコと、地面から生えてきた砂虎に包囲されてしまうが。
「あ、大丈夫。気にしないで」
さわやか笑顔でそう言ったビオチットは、持っていた弓の弦を一度だけ引くと。
周囲の全ての砂虎の眉間に、寸分狂わず矢が撃ち込まれ、あっさりと砂へと戻る。
一瞬の出来事にポカンとしているパルティは、
「お騒がせして申し訳ありません。呼び止めたのは提案したいことがございまして」
というヘルミの言葉にようやく我に返り、
「提案?」
「はい。この侵攻の間、私どもと一緒に動きませんか?」
という提案を受けしばし考え込む。
パルティは、エルメルに言われたあと、彼らの背を追うために可能な限り一人でプレイしようと考えていた。
誰にも頼らず、己のプレイヤースキルを高めるために。
だから、その提案は断ろうと口を開いた。
「私は……一人でプレイすると決めましたから」
「ふむ。……なるほど。であれば分かりました。先程の提案はお忘れください」
パルティの断りを聞いたヘルミは一瞬考えたが、何かに至ったのかその断りを受け入れ。
「ビオ、向こうに向かいましょう」
短くビオチットを呼ぶと、防衛している町の方へと指をさす。
「ん、おけ」
ビオチットも短く応答し、すぐに指をさした方向へと走りだし。
ほんの僅かの時間で、パルティ一人が一番スフィンクスに近い場所に取り残されることに。
――いや、取り残されたというのは適切ではない。
パルティ自身がそれを望んでいたのだから。
ふぅ、と息を吐き、手に持つ杖を一回二回。
回転させて、パルティはまた走り出す。
狙いはもちろん、スフィンクスである。