出来る出来ないじゃなくやるしかない
「はいはいはいはい!」
「せいせいせいせい!」
『森の支配者』の注意が自分たちへと向いていないことをいいことに、スキルと追撃のラッシュを叩き込むエルメルとごまイワシ。
そんな縦横無尽に目まぐるしく動きながら、それでいてきちんと制御している二人を見て、マンチはポツリ。
「何食ったらあんな動き出来るんだろ」
とこぼす。
そんなマンチの言葉は当然配信している以上それを視聴している視聴者には届いており。
『こっちが聞きたい』
だの、
『今度あの二人の生態観察配信とかしてもらえませんか?』
と言ったコメントが流れてくる始末。
そんなコメントを見ながら、
(ま、だよなぁ)
と心の中で思いながら小さく息を吐き。
脇から迫ってくる『森の支配者』の鉤爪を、剣にていなし。
そのカウンターに、前鬼と後鬼を合わせて一撃。
ついでにと[オーラブレード]から[パープルレイン]を繋いでダメージを加算し、前鬼後鬼の使役を解除。
即再使役し、自分のすぐそばに召喚して次なる動きに備える。
そんな一連の動きを見たごまイワシ達が、
「ぶっちゃけマンチニキも大概な動きしてると思うでござるけどね」
「な。俺らの事ばかり言うくせに、自分の動きは正常だと思ってるのおかしくね?」
と口にすると、
「重力無視して上下に反復横跳びしながら攻撃と回避両立してる化け物と一緒にしないでもらいてぇな」
と抗議を口に。
比喩でも何でもなく、重力による自由落下とスキルの移動とを繰り返して空中を我が物顔で移動する二人は顔を見合わせて……。
「今……お兄ちゃんが化け物って言った」
「幼気な幼女捕まえといて、化け物呼ばわりは男の風上にも置けんでござるなぁ」
演技臭く、エルメルが泣き真似をはじめ、それに乗っかるごまイワシ。
なお、そんな泣き真似中でも『森の支配者』の嘴を避けたり反撃したりしているが、そこはご愛敬。
「どこの世界に背後からの攻撃を泣きながら捌く幼女が居やがる……」
「ここ」
「目の前でござる」
などという寸劇は、『森の支配者』の動きが変わったことで一旦打ち止めとなり。
これまでプレイヤー達と同じ目線で滞空し、戦っていた『森の支配者』は、突如として上空――具体的に言うと森の上を目指して移動を開始。
エルメル達はもちろん、他のプレイヤー達が何事かとその動きを目で追って……。
ガサッ! という音で森を抜けたことを認識し、身構えると……。
襲ってきたのは、強烈な下降気流。
「うおっ!?」
その勢いに地面に叩きつけられそうになるも、何とかスキルを連打して木の上へと戻ってくるエルメル。
その一拍後に戻ってきたごまイワシは、その風の発生方向へと目をやると、
「これやって何になるでござる?」
純粋な疑問を口にする。
「風だけ起こして牽制……だけなハズねぇよな? こうして足場さえあれば飛ばされたりはしねぇし」
そんな疑問の答え――ではなく、この後に来る何かを警戒しながらマンチが今の状況を分析。
人を飛ばせるような風ではなく、不意を突いてようやく体勢が崩れる程度のソレは、何を狙っているのか。
そこを考えようとした瞬間、遠くで。
「グワッ!?」
プレイヤーの断末魔が広がった。
「何事でござる!?」
「羽根!?」
断末魔を上げたプレイヤーの身体に刺さっていたのは、腕ほどの大きさのある羽根であり、どこから飛んで来たかなど明白で。
「上空から羽根飛ばして攻撃してるでござる!?」
「攻撃って認識ねぇかもしれねぇぞ。ただ風を起こしたときの副産物的な」
「どっちにしろ喰らうとマズイだろ。さっきのプレイヤーがどんな状況で喰らったか知らねぇけど、よくて致命傷で悪けりゃ即床ペロかもしれんぞ!」
ゆえに、三人は回避に専念するために距離を広く取り。
「来たぞ!!」
風に乗り、高速で迫ってくる羽根を剣で叩き落すエルメル。
「普通叩き落せねぇって」
そんな姿に思わず呆れるマンチだが、同様に自分に迫ってきた羽根は前鬼に叩き落させ。
「人の事言え無くね?」
とツッコまれる。
「いや、こいつら勝手に叩き落してくれるんだって」
じゃないと無理、と手を振って木の陰へと後退するマンチだったが、
「風向き変わってないでござる?」
というごまイワシの気付きとともに、風が正面からではなく真上から吹いてきて。
それはつまり、身を隠せる場所がなくなったことを意味していて。
「気合避けしろってか!?」
「自機狙いじゃないばら撒き弾なのが性格悪いでござるよ!!」
弾幕ゲーになぞらえて、難易度の凶悪さを嘆くごまイワシ達をよそに、エルメルだけは、
「まぁ、このくらいなら」
と華麗なステップでかわし続けていた。
「平然とかわしていることに草を禁じ得ない」
「いや、これくらいの速度なら見えるだろ」
「一緒にするな」
しかもその回避は見てから反応しているのだという。
思わず出来るか! と叫びそうになったマンチの脳天に『森の支配者』の羽根が迫り……。
「あ」
「あー」
『あーあ』
ごまイワシと、エルメルと。それから、配信のコメントが同じ意味を含んだ同じ音の言葉を発して。
「うげっ!?」
マンチは、皆に見守られながら床を舐めるのだった。