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漁夫ぺ

「マンチ殿が最前線に出てくるのは珍しいでござるね!?」


 急に横に並んできたマンチへ向けて、そうごまイワシが感想を言えば。


「いろいろ省くが、面白そうなことを考えたぞ」


 と。

 『森の支配者』の攻撃を避けるごまイワシの動きに翻弄されながらもそう伝えると……。


「やる」

「やるでござるよ」


 いつ近付いたのか、すぐそばに来ていたエルメルと、攻撃を避けるついでに近寄ってきたごまイワシの言葉が綺麗にハモり。


「まだなんも言ってねぇよ!」


 と叫ぶと、その声に反応して『森の支配者』から鉤づめによる攻撃が。

 しかし、それはマンチへと到達する前に彼の式神の前鬼によって上に弾かれ。

 出来た隙を、二人が見逃すはずもなく追撃。

 その二人に便乗するように後鬼へと指示を飛ばし、ついでにエルメルを対象に[使役律令:援]を発動。

 そっくりエルメルの動きをトレースする分体を作り出し、少しでもダメージを上乗せしていく。


「それで? 面白い事って?」

「うっわビビった。いきなり戻ってくんなお前」


 攻撃判定が発生し、ダメージが確約された瞬間。

 『輝きの砂時計』に刻まれたスキル、[逆流する砂]を発動し、攻撃前の状態に戻ってくるエルメル。

 そのあまりの唐突さに、思わず素でビビるマンチ。


「どうせならゆっくりできそうな場所で聞くでござるよ」


 少し――ほんの少しだけ遅れてマンチによって来たごまイワシにそう言われ、確かに、と頷いて。

 三人は、一旦『森の支配者』の死角になっている木の裏へと回ることに。


「で? 面白い事とは?」

「いやさ、さっきのこいつじゃないミミズク。口元汚れてただろ?」

「う~ん……言われてみれば?」

「基本そんなとこ気にもしなければ注視もしねぇからなぁ……」


 安全を確保し、話し始めたマンチだが、残念ながら二人はその部分を目視していない……もしくは覚えていないとのこと。

 普段から戦闘中は高速で動き回り、そのせいで視覚から得る情報も、考える量も尋常ではないことを考慮すると仕方のない事ではあるが……。


「とりあえず、汚れてたんだよ。ここで問題。何したら口元が汚れる?」

「んなもん、飯食ったに決まってるだろ」

「じゃあ、あいつの餌って何だと思う?」

「この辺一帯に蟻が居なかったでござるし、蟻たちで――」


 エルメルとごまイワシ。

 二人を相手に問答をすると、どうやらごまイワシは至ったようで。


「こいつに蟻を一掃させるつもりでござる?」

「ビンゴ! ついでにだが、斥候蟻倒して過剰な位に餌を与えてみたいんだなこれが」


 口にした正解へ、指を鳴らして反応し、さらなる悪だくみを披露するマンチ。


「数の暴力が勝つのか、それとも食物連鎖通りの結末になるか……」

「ミツバチとスズメバチ……いや、どっちかというと化け物には化け物をぶつけんだよ理論の方が近いでござるか」


 その悪だくみの結果がどうなるものか、既に少し楽しみな二人。

 だが、


「けど、仮に斥候蟻倒した大群とこいつをバッティングさせられたとして、ちゃんと戦ってくれるんかね? プレイヤーだけを両方から狙われたらどうしようもなくない?」


 懸念されるのは、マンチの考えが空振りしたとき。

 その時は、レイドボスに加えて圧倒的な物量に踏みつぶされることになる。


「多分だけど、今すぐ連れて行ってぶつけても無理だと思う。前準備として、あいつは死なない程度にダメージ負わす必要があると思う」


 そんな状況にならないために、確認作業はもちろん行うつもりではある。


「というか、それ以前にちゃんと蟻を喰うのかって話だから、まずは腹を減らすか補給が必要だと思わせる程度には痛めつけねぇと」

「某狩りゲーみたく、体力が一定以下になったら分かりやすくエリア移動とかしないでござるかね?」

「分からんけど、とりあえずはやること変わらん感じ?」


 その為には、食料を欲する状態へと持っていかなければならない。

 ……具体的には瀕死とか。


「しばらく様子見ながらボッコボコにして、何かサイン的なのが出たら誘導してぇな」


 様子見とボコすという相反する行動の両立を注文しつつ、木の陰から現状『森の支配者』がどんな状況化を確認するマンチへ、


「うわっ!?」


 『森の支配者』の鉤づめを盾でガードしながら。

 しかし、空中でガードしてしまい勢いを殺せなかったプレイヤーが、顔のすぐ横を飛んでいく。


「イィエエェェェーーーッ!!」


 そして轟く『森の支配者』の鳴き声。


「まだまだ元気いっぱいみたいだな」

「えっと、まずはよーく叩いて肉を柔らかくして……」

「叩くに適さない武器持った幼女がなんか呟いてるでござるよ」

「幼女の作るご飯はちょっと焦げたカレーが至高。ていうか鶏肉も叩くと柔らかくなんの?」

「知らんでござる。けど幼女の言うことだから間違ってるわけないでござるよ」

「ちょっと恥ずかしくなってきたから幼女連呼すんのやめて」


 そんな鳴き声に負けないくらいやかましい三人は、『森の支配者』が他のプレイヤーを狙うために背後を見せた瞬間。

 目を光らせてその無防備な背中へとツッコむのだった。

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