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道筋

 豹変――その言葉がぴったりな位に、大ミミズクから『森の支配者』へと呼び名の変わった敵は、全てが変化した。

 まずは移動速度。それまではエルメル達が余裕で目で追えていた速度が、最早瞬間移動とすら見間違う速度へと上昇。

 そんな速度で器用に木々の合間を縫って移動するものだから、ほとんどのプレイヤーが姿を見失う。

 その中で、


「まー、追えなくはないって感じでござるかねぇ」

「分かりにくいけど移動の予備動作入るし、それさえ見逃さなきゃ何とかなるな」


 ごまイワシ、エルメル共に当たり前に姿を追いかけてはいるが。


「とはいえ、移動だけならまだしも攻撃速度まで上がってんのはだりぃの一言」

「これも予備動作見落とさなきゃどうとでもなるでござるけどね?」


 そして移動速度と共に上昇した攻撃速度も、他のプレイヤーが被弾して致命傷を負っている中、当たり前に避ける二人。

 その二人をドン引いた目で見ている†フィフィ†とマンチ。


「なんであの二人、避けれてるんだろう?」

「知るかよ。あいつら以外に攻撃避けてる奴いないし、あいつらにどう避けるか聞いたって、『見て避ける』以上の答えは期待できねぇし」


 二人がヘイトをかってくれているため、比較的安全ではあるが、それはそれで面白くない。


「どーする? うちらも行く?」

「行くは行くけど、もうちょい様子を見たい気はする」

「同意」


 すでに発動可能なバフは発動済み。

 あとは『森の支配者』へと突っ込むだけなのだが……。

 他のプレイヤー達がなぎ倒され、エルメル達が空中をひっきりなしに動き回るこの状況に突っ込むことが、果たしてベストなのかと言われると……。


「そういや、他のプレイヤーのエルフって居ねぇのか?」


 どうしたもんかと考えていると、ふと、そんな考えがマンチの頭をよぎる。


「エルフ!?」

「しまった! こいつエルフコンプレックスだった!」


 つい口にしたその言葉に、反射の限界値の速度で反応して周囲を見渡す†フィフィ†。

 そして、


「居た!」


 視界の端。『森の支配者』の戦闘がギリギリ見えるような位置の木の陰。

 マンチからしてみれば、なんでそれが見えた? とツッコみたくなるような、そんな距離。

 そこに、アグラディアを含む複数のエルフを確認。

 ここからは早かった。

 『森の支配者』なんぞ知らん、と背を向けて、エルフに向かって一直線。

 レイドバトルに合流しに来たプレイヤー達とすれ違いながら、その場所へと駆けていく†フィフィ†。


「ま、大丈夫だろ」


 そんな†フィフィ†を見送りながら、マンチはちゃんと『森の支配者』へと視線を向ける。

 本来ならば†フィフィ†の護衛にでも行くべきなのだろうが、NPCであるエルフが陣取る場所である。

 メタ的に見れば、それはその場所が安全であるということに他ならず。

 だったら行かなくていいか、という判断。


「んじゃ、ボチボチ参戦しますかねっと」


 前鬼と後鬼を召喚し、一呼吸整えてからマンチもエルメル達と同じ場所へと突撃。

 ――と同時に何故か狙ってきた『森の支配者』のくちばしを前鬼に受け止めさせ、


「[使役律令:撃]!」


 虚空から拳を召喚。『森の支配者』の頭上から地面へと撃ち下ろすその鉄拳は、綺麗に脳天を捉え。


「ナイスでござるよ!」


 一瞬怯んだ瞬間を見逃さず、スキルでジョインジョインしながら『森の支配者』に肉薄するごまイワシ。


「いつも心はピンク色! 喰らえ恋心!! [桜花絢爛:春吹雪]!!」


 そして、すでに発動に必要なHIT数を稼いでいたらしく、惜しみなく放たれる必殺スキル。

 そこへ、


「抜け駆けすんなよ! [スラッシュトルネード]!!」


 エルメルも駆けつけ、こちらも必殺スキルを発動。

 幾重にも重なるHIT音と露骨にダメージを受けているように仰け反る『森の支配者』。

 そして、


「毒った!?」

「レイドボスにも状態異常が有効でござる!?」


 『森の支配者』の体表がわずかに紫に染まり、頭上には毒状態を示す髑髏(どくろ)マークが。

 ボスというだけで状態異常が効かないと思い込んでいたエルメル達は、そのことに素直に驚いて。


「毒弱点とかじゃないでござるよね?」

「効いたとしてどうやって確認すんだよ!?」

「確かに!」


 必殺スキルの連撃が終わり、また高速で動き出した『森の支配者』に食らいついていきながら考察へと思考を飛ばすごまイワシに。

 そんな余裕あるのか? と戦闘に集中させるエルメル。

 ――と、


「うん? そうなのか?」


 ふと、気になるコメントがマンチの配信に流れてきた。

 そのコメントは、


『そっちに行きたいんだけど蟻が邪魔してて時間かかりそう』


 というもので。

 普段なら……というか、今の今までなら特に気にしていなかったコメントである。

 何故ならば、こうして戦っている今でも続々とプレイヤーが参戦しているからだ。


「すまん、ちょっと聞きたいんだが」

「へ? あ、はい! なんでしょう?」


 今レイドボス戦のパーティに入ったプレイヤーに声をかけるマンチ。


「ここに来る途中に、蟻って居た?」

「へ? ……いえ? 敵には出会ってませんけど……?」

「そうか。ありがと」


 取りたかった確認は取れた。

 ……今までに参戦してきたプレイヤーは敵とのエンカウントをしていない。

 そして、今コメントで流れたように、今から来ようとしているプレイヤーは敵とエンカウントし、戦っている。

 つまりは……、


「こいつが蟻を全部喰ってたってことでいいんだろうな」


 先程倒した大ミミズクは口元が汚れていた。

 ということは食事中だったわけであり、何を食べていたかと言えば……、


「蟻が食糧。んで、今のタイミングでリポップ、と」


 一つの仮説から思考は巡り、どうするのかを考える。

 それが、正解であることを祈りながら。


「うし、一丁やってみるか!」


 そう言って深呼吸をしたマンチは、立体変態機動を行いながら『森の支配者』と戦う二人の場所へと向かうのだった。

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