お体に障りますよ
「言われて気にしだすと、結構気になるもんだな。視線」
ギルドルームから退室し、グリーンフォレストへと戻ったエルメル達は、戻った瞬間から感じる複数の視線に小さくごちる。
「まぁ、だからと言ってやることは変わらんでござるけどね?」
「アグラディアは?」
その視線を気にしないように振る舞うごまイワシと、アグラディアの姿を探す†フィフィ†。
そんな†フィフィ†の目の前に、
「急に消えたと思ったら急に現れて、どこ行ってたんだよ」
と、口をとがらせ文句を言いながら、アグラディアが頭上から降ってきた。
†フィフィ†の眼前に。物凄く近い距離に。
おそらく木に登っていたのであろうアグラディアは、どうやらエルメル達を探していたようで。
探すために木に登り、見つけたから降りた。実に単純なその動きは、
「え、好き」
突然目の前に推しが降ってくるというシチュエーションに、†フィフィ†の思考は爆発。
ただただ、目の前に現れたアグラディアをそっとハグすると、脳死で告白の言葉を口にし。
「へ?」
あまりに突然のことに固まるアグラディアを置いてけぼりに、
「いきなり何してんだお前は」
エルメルが†フィフィ†の脳天にチョップ一発。
その一撃で我に返った†フィフィ†は、
「今はどこ? 私はいつ? ここは誰?」
なおも思考がバグっていた。
「寸劇やってる場合じゃねぇだろ全く」
ようやくマンチがツッコむと、エルメルも†フィフィ†もハッとした顔になり、
『確かに』
とハモる。
「んじゃ行くでござるよ」
落ち着いたのを確認し、ごまイワシがそう声をかけると、
「はいは~い」
エルメルも†フィフィ†も、普段通りのノリに戻り、フィールドの方へと歩いていく。
――何故かアグラディアは†フィフィ†に肩車されていたが、そこにツッコむメンバーは誰一人としていなかった。
*
「それで? こっから何をするの?」
肩車されてフィールドに連れてこられ、先程のギルドルーム内での会話に参加できていないアグラディアは†フィフィ†の頭の上からそう尋ねる。
「今から蟻塚を確認しに行くでござるよ」
†フィフィ†にアグラディアを降ろさせながら、そう口にするごまイワシに、
「どうやって?」
と至極当然の疑問を抱くアグラディア。
これまで何度かフィールドに出てはいるが、その全てで蟻塚はおろかグリーンフォレストからあまり離れられてすらいない。
だからこそのどうやって? という疑問だったが、
「まず、アグラディアにバフをかけてもらうでござるよ。対象は全員で」
とごまイワシ。
言われるままに全員を対象に移動速度上昇の魔法を発動。
次は何をするのかと待機していると……。
「ん?」
「行くぞ」
アグラディアは、エルメルにしっかりと手を握られ、
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
そのまま、エルメルに連れられて空中へと飛び出した。
「口閉じてろ舌嚙むぞ!」
アグラディアの手を握り、大木を蹴って空中へと躍り出たエルメルは、目の前の大木に垂直着地。
「アグラ! 蟻塚がどっち方面にあるか分かるか!?」
「この状況じゃわかんないよ!!」
「大体でいい!!」
「多分向こう!」
「りょーかい!」
垂直に着地したほんの少しの瞬間。
そのわずかな時間で大雑把なナビを得たエルメルは、その方向に向けて大木を蹴る。
そんなエルメルの姿を追って、ごまイワシ達も同じ動作で移動を開始。
「某忍者漫画の移動方法みたいでござるね、これ」
「みたいっていうか、まんまじゃね?」
「つまり私たちは忍者である可能性が?」
「ドーモ、マンチ=サン。ごまイワシデス」
と、三人は遥かにふざけた雰囲気で追っているのだが、先頭のエルメルはというと……。
「次どっちだ!?」
「多分このまま!」
速度を維持するために着地は一瞬。その一瞬のうちに次に進む方向を確認し進路を取り、どれくらいの力で進めば次の足場に問題なく着地出来るかを見極めなければならず、はっきり言って余裕がない。
さらに、
「うわっと……危ねぇ!?」
移動中にも、当然戦闘はあるわけで。
移動中に敵にぶつかってしまえば勢いはなくなり、木の上ではなく遥か下の地面へと真っ逆さま。
さらには時間も取られるということで、敵の姿を確認した瞬間回避をしなければならず。
かと言って高速で移動している都合上、見落としは当然あるわけで。
「マジで神経使うわ……」
直撃しそうなルートの時は、移動スキルを駆使して無理やり敵をスルーするという荒業を取っていた。
「あ、そろそろ切れる」
「了解。合図出していったん止まるべ」
そうして移動することおよそ五分。
アグラディアのかけたバフが切れるとかけた本人から言われ、バフをかけなおす為に一旦立ち止まる。
「結構奥まで来たでござるね」
「薄暗くなってきたね」
「周囲にプレイヤーもいないし、敵も居ないしで不気味な雰囲気してんな」
合流した三人がそれぞれ感想を言う中、
「ん? 音がした?」
「お、無能兵か?」
「いや冗談じゃなくてだな?」
何か物音を聞いた気がしたエルメルは、静かに周囲の気配に意識を集中させ――、
「来るぞ!!」
木の上から襲い掛かってくるその気配へ向けて、得物を振るうのだった。