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「おん? レベルアップ……ではないな」

「スキルマスタリーアップ? 何ぞそれ?」


 すぐにエルメルがその光に気が付くが、それは今まで見てきたレベルアップの時と演出が違い。

 その演出の発生したごまイワシは、何やら聞き慣れない単語を口にする。

 スキルマスタリー……訳すとするならばスキル熟練度だろうか。

 レベルとは明確に分けられたその括りに、ごまはスキルウィンドウを開いてしばらく考えるが。


「あ、消費MPとクールタイムが減ってるでござる」

「マジか。え、なんで今の起こったんだ?」

「ヘルプ項目にマスタリーなんて載ってねぇぞ? どうなってる?」


 ごまイワシからの報告を受け、スキルマスタリーアップの条件を考察するエルメルとヘルプ機能を使って検索するマンチ。

 しかし、少なすぎる手がかりからはいくら考察しても確証など得られず。

 探しても記載されていないものは調べようがない。

 結局、何故か発生したスキルマスタリーアップは、スキルの取り回しを良くすることが出来るシステムという事で、四人の中で落ち着いた。


「とりあえず、パルティちゃんのクエ報告行こうよ。ここで話し込んでも何もないわけだし」

「それもそうだな。パルティ、ドロップ品回収したか?」


 状況をスキルマスタリーアップが発生する前まで戻したエルメルは、確認というよりも会話のきっかけの為にその話題を振った。

 ……だが。


「へ? ……ドロップ品って――なんでしたっけ?」

「え?」

「は?」


 振られた本人は、何のことかピンと来ておらず。


「いや、さっきのタコ倒したらペンダントがドロップしたはずなんだけど……もしかして拾ってない?」


 それはつまり、また小一時間ほど戦って倒した中ボスパコスを倒さなければならないことを意味しており。

 

「……ごめんなさい!!」


 この場面で素直に謝られると、怒るに怒れないというもの。

 そもそも初心者なのであるし、多少のミスは仕方ないと、四人はもう一度激戦に向けて気持ちを引き締めるのだった。



「本当にごめんなさい!!」

「いいって、狩りは楽しいし。それに、パルティの回復あれば全然戦いやすいからさ」


 三体目の中ボスパコスをしばきあげ、今回は忘れないようにドロップ品を全員で指差して。

 回収を済ませたところで再度謝罪したパルティを、エルメルはフォローする。


「いや、本当に回復的確で助かるでござるよ」

「俺も回復職触ってたけど、普通に上手くてびっくりしてる」


 最前線で避けタンクをしているごまイワシは特に回復職のありがたみを感じているようで。

 マンチはと言えば、元々後衛職で回復を担当していたこともあり、ゲーム初心者ながらにツボを押さえた動きをするパルティの事を素直に褒める。


「やっぱ回復役いると突っ込めるから効率変わるね~」


 思い切った動きが出来るという意味では、これまでは魔法職をメインで使っていた†フィフィ†もまた、その恩恵を受けていて。

 ゲームと分かっていながらも、自分に向かってくる攻撃に突っ込むというのは、中々に抵抗があるものだ。

 たとえスポンジで出来ていたとしても、それが椅子だったり、家具の形をしていて自分に向けて投げられれば、誰だって身構える。

 ……前線に張り付いて戦うエルメルやごまイワシはその限りではないが。

 けれど、彼らほどに慣れていない†フィフィ†には、どうしても躊躇いや迷いがよぎってしまい。

 それらの感情は、動きを鈍らせ、被弾が増える。

 分かってはいても、動いてはくれない。

 このゲームのポーションの仕様が、使用を選択するだけでなく実際に飲み干さなければ効果が出ないことも関係しているだろう。

 つまり、回復に時間がかかるのだ。

 その時間を無くしてくれる回復魔法というのは、プレイヤー的にあらゆる面でプラスに働く。


「わ、私はとにかく必死に皆さんを回復しているだけなので……」


 ただ、パルティにそこまでを考える余裕はない。

 視界に入っている四人の中で、体力が減っている誰かに無我夢中で回復を行っているだけに過ぎない。

 ――のだが、変に考えて回復が遅れるよりは何倍もマシというものである。


「それが一番だけどな。……ていうか魔法系って発動どうやってんだ? 詠唱とかいる?」

「あ、はい。ちゃんと詠唱が必要です。と言っても、今の回復魔法は『癒しを!』だけで発動するので、あってないようなものですけど」

「となると他の魔法も詠唱必要か。絶対詠唱破棄とか、無詠唱魔法とか出てくる奴だな」

「魔法は詠唱があってのものでしょうに。浪漫はクソ長詠唱に詰まっている。偉い人にはそれが分からんのです」

「そういや、パルティはステータスポイント何に振ってる? まさか変なのに振ってはないよな?」


 後衛職経験者のマンチは魔法が気になるらしく、戦闘中はそれどころではないために今のタイミングで魔法の仕様を尋ねてみると。

 何とも中二病心をくすぐる返答が。

 その返答を受けて考え込むエルメルと、何やら持論を展開する†フィフィ†を余所に、面倒見のいいお兄さんムーヴを続行するマンチ。

 この場に居る四人は気が付かない。

 ()()ごまイワシの姿が消えていることに。


「変なの……が何かは分かんないんですけど、とりあえず自動割り振り? みたいな機能があったのでそれの言うとおりにしていますけど――」

「ちょっとステータス確認してみてくれ。俺らは完全にネタキャラとして育成する覚悟があるが、ファーストキャラならガチ振りした方がいいと思う。まだ低レベルだし、今からでもやり直しがきくだろうしな」


 経験者四人は見向きもしなかった機能。ステータス自動割り振り。

 それを頼り、全てをその機能に一任していたパルティは、ここに来て初めて自分のステータスと対面する。

 ……すると、


「えっと……幸運? と魔法防御が他より高くなってますけど……?」

「え? 普通にまともじゃね? 魔法防御ってあれだろ? 回復魔法ってそれ参照して回復量決めてるんだろ?」

「??」

「だとするとなんで幸運にも振ってる? ……クリティカル狙いか?」

「マンチー、パルティが頭にハテナ浮かべてるから自分の世界から帰ってこ~い」

「はっ! 悪い。置いてけぼりにしてた」

「あ、いえ、大丈夫です。……それで、私のステータスは変なのでしょうか?」


 答えたら考え込まれた。

 それは、不安を煽る反応だったらしく、おずおずとマンチにステータスの事について尋ねるパルティだが、それに対する答えは当然――、


「いや、普通にいい。ていうかその機能優秀だな。間違った振り方してないと思うわ」

「本当ですか!?」

「火力は伸びないだろうけど、回復魔法回してたら経験値入るし、回復特化で育てるならベターかも」


 そんな、マンチとパルティが会話をしている中、話に入れずに暇していたエルメルと†フィフィ†は。

 ジョルトの近くでまた床を舐めているごまイワシを発見し、指差して笑うのだった。

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