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リスタート

 アグラディアを追ったエルメル達は、エルフたちの町の外れ、今にも折れそうな木の枝の先端へと来ていた。

 そんな危なっかしい場所で、膝を抱えてうずくまるアグラディア。


「どしたん?」


 そんな、近寄りがたきオーラを放っているアグラディアに、知ったことかと声をかけるエルメル。


「放っておいてくれ……」


 アグラディアから絞り出された声は少しだけ震え。

 ほんの僅かに、湿っぽさも感じられる。


「無茶言うなよ。お前のバフ無かったらまともにこのエリアの奴と戦えねぇのに」

「お前くらい強いなら俺の魔法なんか必要無いだろ」

「強いやつがもっと強くなる方法があるのに使わないわけないだろ?」

「強いことは否定しないんだ……」


 アグラディアの空気を感じ、二人の会話に入れなかった†フィフィ†だったが、流石にエルメルの言葉にはツッコんだ。


「今からでも他のエルフ探せよ。俺はもうこの場から動かないから」


 取り付く島もない、という様子で顔を上げないアグラディア。

 そんなアグラディアに、


「本当にめんどくさいなこのエルフ」


 エルメルは、ずかずかと近づいて、その後頭部をはたいた。


「いたっ!? 何すんだよ!!」

「いつまでうじうじしてんだみっともない。何がお前をそうさせてんのかぶっちゃけ興味もねぇし、俺には関係ない。けどさ、お前何がしたいんだよ?」

「何がって……」

「この町に近づくなり俺らに襲い掛かってきたのは何でだ?」


 ようやく顔を上げたアグラディアは顔を赤くして目を潤ませており。

 泣いていたことを顔がこれでもかと語っていた。

 その顔を見て†フィフィ†が小さく息を飲むが、その事についてツッコむ人物は皆無であった。


「それは……お前らが俺らに危害を加えそうだったから――」

「危害を加えそうだったから、なんだ? それは誰のためだ? お前の為か?」

「違う! 俺はこの町を……」

「町を?」

「守る……為に……」


 グリーンフォレストに入った直後。頭上から不意打ちを仕掛けてきたこのアグラディア。

 その目的は? と聞かれれば、徐々に小さくなりながらもエルフの町の為だと答える。

 

「それは何故だ?」

「何故って……」


 その理由は? 真意は?

 エルメルからの問いかけに言葉が詰まるアグラディア。


「簡単だろ。他のエルフの為。それ以外にないだろ?」


 そんなアグラディアの気持ちを代弁したのは、先程から黙って聞いていたマンチ。

 その言葉に、ハッとしてマンチの方を見るアグラディアに、


「お前がどんな境遇なのか知らねぇし、どんな育ちかも知らん。けど、このエリアを開放したいって考えてるなら俺らに手を貸せよ」

「間違いなく開放の切っ掛け程度は作ってやるぜ?」

「エルフの為なら鬼も修羅も仏も斬るよ?」


 そう、口々に言う三人。


「お前ら……」


 そんな三人を見たアグラディアは、


「一個だけ約束してくれ」


 そう呟いて。


「内容による。とりあえず言ってみ?」

「もう、森を焼くとか言わないでくれ」

「無言で焼いていいのか?」

「ダメに決まってるだろ!! この森の木達はエルフにとって親も同然なんだ。お前らだって、親を焼くなんて言われたらいい気分しないだろ?」


 アグラディアからの要求は、森を焼くという提案を二度としないこと。

 これまでに数度口にしたその言葉の意味を知らされ、口元を手で隠したマンチは、


「そうか……。すまん」


 そのまま謝罪の言葉を口にする。


「次は無いからな?」

「言ったらうちがボコボコにする。ログアウトしてリアルの世界で」

「??」

「NPCにメタ発言すんな! 伝わんねぇから!!」


 謝罪の言葉を口にしたマンチへ、今が好機と責め立てるエルメルと†フィフィ†。

 †フィフィ†に至っては目が座って低い声での発言であり、これが冗談でも何でもないことを覗かせていた。


「あと、これは俺の本心なんだけどさ」


 そんな三人のやり取りを見ながら、首を傾げていたアグラディアだったが、真顔へと戻ると、


「他のエルフ達……見返したい」


 拳を握り、エルメル達を見据え。

 そうしっかりと宣言した。



「蟻塚と言うものは確認していない、と?」

「ええ、少なくとも私はバロメッツしか確認していません」


 木の上の家の中。

 顔sと、彼についているエルフが会話をしている。

 その内容は、先程ごまイワシや琥珀を集めて話したこのエリアの開放に関する事。

 拠点に当たりそうな蟻塚、という存在を知らないか? と尋ねてみたが、彼につくエルフはどうやら知らないらしい。


「他のエルフは確認したそうですけどね」

「……ちなみに誰が?」


 エルフとしばらく会話をして、顔sは理解したことがある。

 それは、自分に付いたエルフはプライドが高いと言う事。

 他のエルフには負けないし、負けたくないという思いが強い事。

 それを刺激するようにわざと言葉を選んでみたが、これに面白い程に食いついた。


「長老に呼ばれたあの時、いの一番に小屋から出て行ったエルフみたいですよ?」


 顔sもごまイワシに付いたエルフを紹介されたわけではない。

 けれど、飛び出していったエルフを追うエルメル達を確認している。

 琥珀に付いたであろうエルフは琥珀の後ろから動かなかったため、消去法で彼らに付いたエルフと言う事になる。


「アグラディアが? まさか。彼が見たというならば嘘なのでしょう」


 情報の出所を確認したエルフは、冗談を、と笑い出した。


「何故そう言えるのです?」

「彼は弱いからですよ。一人では外に居る蟻の一匹も倒せないほどに、ね」


 その根拠は、彼の実力だ、となおも笑うエルフへ、顔sは一言。


「強者は牙を、弱者は知恵を磨くと言います。その内、足元をすくわれるかもしれませんよ?」


 と。

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