百見は……
「やっと正面から殴れる程度にはなってきたか」
「結構かかったでござるね」
半日ほど倒し続けていた蜂の群れは、どうやら背伸び狩りだったようで。
倒せば倒すだけ面白いように増えていく経験値。
そして、順調にレベルアップを重ねた結果、マンチに複数匹を引き寄せさせなくとも倒せるくらいにまではステータスが伸びた。
ただし、エルメルやごまイワシの動きを行うという前提が必要だが。
「HP持続回復もかなりいいな。総回復量中級ポーション相当だし」
「うちら戦闘中にポーション飲む暇無いもんね。持続回復のがありがたいと思う」
「ポーション飲む時間を誰かが稼げるならそれに越したことはないでござるが、基本飲むのは壁役のマンチニキでござるしなぁ」
「壁役の割には火力出してるけどな。鬼たちが」
「実際マジ便利。攻撃対象も俺が狙うやつ狙ってくれるから、むやみやたらにヘイト買わねぇし」
何度目かの小休止中にいつものようにだべる四人を見て、アグラディアはぽつりとこぼす。
「いつまでやるき?」
と。
それを受けた四人は口を揃え、
「「飽きるまで」」
と合唱。
ちなみにアグラディアも戦闘に参加してはいるが、短剣で飛び込もうにも動き回るエルメルとごまイワシの邪魔にしかならず、弓で狙おうにも動き回る二人が邪魔になり、魔法を撃とうとすれば、詠唱が終わるまでに対象が死んでいるという状況で。
正直なところ、役には立っていなかった。
「はぁ……。いいけど。俺、疲れたから戻るよ?」
「え、エルフが戻るんならうちも戻る」
「コリン戻るのは流石に不許可。アグラ、もう少しで切り上げるからもうちょい付き合え」
「……分かった。ちょっとだけだぞ?」
その事実が癪で、エルメル達から離れようとしたアグラディアだったが。
四人と一緒にいることと、†フィフィ†と二人きりになることを天秤にかけた結果、考えるまでもなく前者を選択。
あとちょっと、という言葉を信じて一緒に居ることにしたが。
……アグラディアは知らない。エルメル達の考える「ちょっと」というのは、およそ常識から外れていると言う事を。
「そういやアグラ」
「何?」
「お前バフ使えないの?」
「バフ?」
「あー……強化魔法的なの」
ふと、エルメルが思いついたことを口にする。
エルメル視点、特に何も出来ていないアグラディアに何か役割でも……と思っての事だったのだが。
「あんまり強いの無いよ? 俺風属性だし」
という、四人が首を傾げることを口にして。
「風属性の特性しかないから、強化魔法も必然的にそっちってこと。火力も上げらんないし、防御も上がんない魔法しかないけど――」
「ちょっち質問」
「何?」
「火属性だと火力上がる?」
「そうだよ?」
「土属性だと防御?」
「そうだけど?」
「……まさかだけどさ。風属性だと移動速度が上がったり?」
「するけど?」
と、アグラディアが口にした瞬間、エルメルは拳を握り締めてプルプルと震えだす。
「はぁ~……、え、何? お前ってエルフのくせに脳筋なの?」
「???」
「攻撃や防御のステータスなんざどんだけでも盛れる魔法溢れてるだろうが!!」
「でも攻撃高くないとダメージ与えらんないし、防御が高くないと攻撃喰らったら痛いじゃん!!」
「だ! か! ら! 脳筋かてめぇはっ!!」
何故怒鳴られているか分からないアグラディアと、何故今までバフをかけてくれなかったのか理解できないエルメルは、このままでは平行線。
そう考え、手を差し伸べたのは……、
「まぁ待てって。とりあえずアグラ、今まで見て俺らの戦い方ってどうだった?」
「どうって……、すっごい動き回ってるって感じだった」
「攻撃力上がったらそりゃあ狩りは早くなるだろうが、じゃあ防御上げて効果あると思うか?」
優しく、子供を諭すように。
「……あんまり、ダメージ受けてない?」
「まともに貰えば数発でやられるからな。んじゃあ、防御はいらないわけだ」
「うん」
「んで、移動しまくるってことは、そこが速くなるとどうなると思う?」
「……ぶつかる?」
「ありえそうだけどそうじゃなくてだな……」
「実際見せた方が分かるんじゃない? 百聞は一見に如かずだし」
予想外の方向のボケをかまされてよろけたマンチに、†フィフィ†が口出し。
「確かにそうか。うし、アグラ。俺らに移動速度上がる魔法かけてくれ」
「……分かった」
「その上でよく見てろ。お前が渋ってた魔法が、どんな作用をもたらすかを、さ」
リポップした蜂の群れを向き、バフがかかるのを今か今かと待つ四人に。
「緑の調べ、透き通れ。塞ぐ壁無し、遮る雲無し。木ノ葉を乗せて、遥か遠くへ。[風寄りて]」
詠唱を終えた強化魔法がかけられる。
「んじゃあサクッと倒しますか!」
そう意気込んで一歩を踏み出したエルメルの姿は……一瞬で掻き消えた。