得意技は床掃除
アグラディアに連れられて移動すること数分。
建物が立ち並ぶ町を抜け、枝から枝へ、次なる木へと足場を移した一向に。
「敵でござる?」
羽音を響かせ、近付いてきたのは人間大の大きさの蜂。
……しかも群れで。
「え? 見た目的に無理なんだけど?」
「ていうかここ来てよかったのか俺たち? 適正レベル下回ってんじゃねぇの?」
「とりあえずこいつらは倒さんとどうにもならんっぽいぞ!」
速度を緩めることなく、真っすぐに向かってくる蜂の群れに対し、各々戦闘態勢を取ると。
「[式神召喚:前鬼後鬼]!!」
「[ブレイクダンス]!!」
マンチと†フィフィ†が戦闘用のスキルを発動し。
マンチはさらに[六壬棗地]と[六壬楓天]も追加し、†フィフィ†は[モルガナソング]を発動。
パーティ全体に、一度だけ確実な攻撃を発生させるという効果の歌スキルのそれは、あらゆる意味での保険のスキル。
そのスキルは、マンチによって召喚された式神にも効果が及び。
「あ、こいつらも判定あんのか」
そのことを知らなかったマンチが情けない声を上げたりする。
「スキルの仕様くらい把握しとけよ……」
「いや、まさか判定あるとは思ってなくて……」
そのことにツッコミを入れたエルメルだったが、そもそもとしてマンチの持つバフ、[六壬棗地]と[六壬楓天]は人形を用いて発動するバフであり、呼び出される式神もまた、人形からの使役となる。
同じ媒体を用いている以上、両方を重ねることが出来ないというゲームの仕様を、そもそもバフがかけられないと勘違いしていたのは仕方のない事だろう。
「って言ってる間に来てるぞ!?」
「そう慌てんなって」
四人からしてみればいつものやり取り。
けれど、知りようがないNPCのアグラディアにしてみれば、敵が目の前に迫ろうとしているのに呑気にしていると映っただろう。
それが、エルメル達の余裕と知らず。
――そして、それが慢心とも知らず。
「[後の先]!!」
「[翡翠]!!」
向かってくる蜂に対して真っ向から。
エルメルはカウンターを、ごまイワシは切り抜ける一撃を放つ。
……が、エルメルのカウンターは一定以上のダメージを受けて解除され攻撃に転じれず。
ごまイワシは切り抜けた際に掠った蜂の針により、体力が一気に半分以下に。
明らかにステータスが足りないことを示すその結果に、四人の頭にとあることがよぎる。
――すなわち、
(防具新調してなかった)
である。
*
「装備を新しくするのは大事。エル、覚えた」
「装備一つであんだけ辛くなるんでござるね」
「他人事のように言ってるけどお前ら一回やられてるからな?」
村へと死に戻りし、誤魔化すように笑いながら防具屋へと向かう四人と1エルフ。
ちなみにマンチと†フィフィ†は体力が一気に減った二人をカバーしようと蜂の群れの前に躍り出てフルボッコに会い。
カバーどころか二人よりも先に床を舐めていたりする。
……そもそも装備を新調していないからなのだから倒された順番には特に意味がないが。
「店売りでも一回りは能力上がるもんね」
「そういや武器や装飾品のユニークは見たけど、今んところ防具のユニークってなくねぇか?」
「確かに。……あー、こうやってそのステージ終えたらお払い箱になるからじゃないでござる? せっかく出たのにすぐ使わなくなっちゃったら悲しいでござろ?」
「納得。……待て。ちょっと考えついちまったんだけどさ」
防具屋でそれぞれ装備を購入し。
それまで着ていた【イエローデザート】で購入した装備は下取りに出し。
ユニーク防具を今まで見ていないと会話をしていたが。
エルメルが、とあることを思い描いた。
それは……、
「“武器”錬磨に鍛錬。わざわざ武器ってつけてるってことは……だ」
「防具もワンチャン……ある?」
「ステージを進めると解放されたから、ここをクリアすれば解放される可能性がある?」
「てことはここでユニーク防具がドロップする可能性が微レ存?」
と言う事で。
「また沼るんでござるかなぁ……」
「ごま、今の内から善行積んどけ!! 少しはマシになるかも知らん!」
「拙者これ以上善行積むと仏になるでござるよ!」
「一旦死んでみるのがいいんじゃない? もうリセットしないと無理でしょ」
「酷いでござるよ……」
もうユニーク防具をドロップさせるために沼る未来を幻視する四人を、NPCのアグラディアが冷ややかな目で見ており。
「ていうかお前ら、蟻塚見に行きたいって言ったくせに村から出て即死んだだろ? 大丈夫なのか? そんなんで」
接敵後、即死した四人を見る目が疑いの目に変わる。
「まぁ、任せるでござるよ。って言っても信用なんて無いでござろうが、大丈夫になるまで挑戦するだけでござる」
「試行回数重ねりゃ何匹か狩れるだろ。それ繰り返しゃあレベルアップだ」
「そういう気が狂った感じのムーヴ得意だから任せて」
「絶対に胸を張れる内容じゃないと思うんだがな……」
そんな目の色の変化は気にもせず、ゲームプレイヤーの特権とばかりに残機は畑でとれる作戦を決行するらしい。
「はぁ……。まあいいけど」
ため息をついたアグラディアは、また四人と共に蟻塚を目指す……。
わけではなく、なるべくすぐに村へと逃げ込める場所を確保し、先程相対した蜂型の魔物を探す。
その後、丸二日もその蜂型の魔物を狩り続けることになると、この時のアグラディアは知らなかった。




