いねぇよなぁっ!?
「視線が物凄く痛い」
「主に味方からのな」
「それでも素直に手をつなぐエルたそマジ天使」
「エルフエルフエルフエルフエルフエルフ」
†フィフィ†からの強い視線を受けながら。
エルフから差し出された手を握り、エルフに先導されながら歩いていくエルメルと。
その後ろを歩いていく三人。
エルフコンプレックスを炸裂させる†フィフィ†の前で、当のエルフと手をつなぎ続けるという、もはや煽りに近い行為をしているのには理由がある。
それは……アグラディアが拗ねるのだ。
戦闘で敗北したことは認める。エルフの村にも案内する。
ただし、それはエルメルと手をつないでいる間だけ、という何とも無茶な要望を出したアグラディアだが、残念な事にプレイヤーに拒否権などなく。
あるのは唯一選択権くらいなもので、悲しいかなエルメル達はどちらかと言うとハズレに分類されるエルフの個体を引き当ててしまったらしい。
……誰の運かは推して知るべし。
「止まれ」
「ここなん? 何もないが」
と、アグラディアが足を止めた場所は周囲に何もない開けた場所。
ちょっとした体育館くらいの広さがあるその場所には、エルフどころか建物の影すら見えないが……。
「エルフが右向きゃ右倣え。左を向いたら左見ろ。前を向いたらついて来い」
アグラディアが何やら呪文を唱えると――そこには。
「魔法で隠してあったってことか?」
「認識魔法、または隠蔽ってところでござるか?」
「にしても、気配すら感じなかったからなぁ」
「えるふがいっぱいだぁ」
それまでなかったはずの、木の枝や葉、蔓で作られた建物が並ぶ街並みへと変化し。
行き交うエルフたちの姿ももちろんある。
さらに言えば、不自然なまでに見なかったプレイヤーの姿さえも出現したのだ。
「俺らエルフはこうして魔法で隠れながら生活してた。……最も、最近じゃそうも言ってられなくなってきたけどな」
「お、イベントっぽい」
「メタ発言やめろし。続けてどうぞ」
「この森の中央に一番でっかい大樹があるんだけどさ、それが魔物に侵されちまったらしくて、最近じゃあ魔物を生み出し続けてるんだよ」
エルメル達をエルフの村へと招き入れたアグラディアは唐突に語り始める。
それは、マンチが口にした通りイベントの始まり。
もっと言えば、このエリアでの目標が掲げられる瞬間だった。
「大樹を侵した魔物の名前は【バロメッツ】。今じゃ、大樹の中に巣食い、生み出した魔物たちに自分を守らせてる」
「そのバロメッツってやつの見た目は?」
「……闇、みたいな見た目。多分、ほとんど大樹と同化してるから、大樹ごとどうにかしないとダメだと思う」
「大樹と同化……焼いたら早そう」
「ほんと人間てさぁ……。何かあったらすぐ森焼こうとするじゃん。よくないよ、そういうとこ」
この【グリーンフォレスト】におけるエリアボス。
【大樹:バロメッツ】をどうするか。それについて考えた瞬間、冴えたやり方を口にしたマンチだったが。
その発言は、アグラディアのジト目によって封殺され、さらにはため息までつかれて呆れられ。
「森を焼く発言はNGでござるよ。入り口で言ったでござろ?」
更に煽り目的のごまイワシにも呆れられ。
「エルフの敵……なの?」
いろんな過程をすっ飛ばし、敵認定しようとする†フィフィ†まで居て。
「軽い冗談だろ。悪かったよ」
実は僅かも悪いと思ってなどいないが、そう謝るのが吉と判断したマンチは素直に謝罪。
「そのバロメッツがエリアボスとして、拠点ボスもあたり付けておきてぇな。……なぁ、バロメッツの周囲を守る魔物が何か作ってないか?」
「何かって例えば?」
「例えば? う~ん……なんか、建物とか、そこに戦力貯められそうな施設みたいなの」
その事に唯一言及しなかったエルメルは、アグラディアへとさらに質問を開始。
すると……、
「建物っていうか、生み出してる魔物は蟻だから蟻塚は作られてるけど……」
「その蟻塚ってデカい?」
「大樹と大差ない大きさ位になってると思うよ?」
「それじゃね?」
どうやら拠点のようなものが発覚。
顔を見合わせた四人は静かに頷いて。
「なぁ、アグラ」
「何?」
「その大樹と蟻塚、近付けるだけ近付いてみたいんだけど」
「正気?」
「いや、いずれ倒す相手を観察するのは普通の思考だろうよ……」
今後の為に、と提案すると正気を疑われ。
「いずれ倒すって……」
「ん? まさか出来ないと思ってる?」
「うん」
「いや、そこは嘘でも信じてるって言えよ」
どうやら倒せるとは思われていなかったらしく、だからこそ正気を疑ったようだ。
ただ、
「なんでそんな自信あるの?」
「ん? んなもん、俺らが強いからだよ」
根拠もない謎の自信を持つエルメル達を目の当たりにし、
「……分かった、連れてく」
どうやら、バロメッツの所へと、案内してくれるようだった。