ビギナーズラック?
ファイリスのクエストを終え、次のチュートリアルを求めて町の中を探索するがどうやらフラグは立ってないらしく。
結局この後どうすればいいかと巡り巡ってジョルトの所へと行きつくと。
「あん? てめえらにはまだ経験が足りねぇんだよ!」
と突っ返されてしまった。
本来はここまで強い口調ではないのだが、エルメル達四人には何故だか風当たりが強い。
……大体、一人のせいであるが。
「経験が足りないって事は、レベルを上げてこいって事だよな?」
「以外にないっしょ―。さーて、レベ上げ耐久マラソンの始まりだよ~」
「思い出すでござるなぁ。レベル上がるまで寝ないと決めて三日三晩戦い続けた過去の事を……」
「俺らがどれだけ頑張っても一日で15%しか上がらなかったからな。マジで辛かったわ」
とはいえ、口調が強いとはいえちゃんとヒントは出してくれており。
簡単に言えば、レベルを上げてこいとの事だったので、エルメル達は先ほどのパコスが居た辺りで狩りを行う事にした。
パコスは先ほど倒したわけで、もう少し先の新たな敵を望んでもよかったのだが、先ほどの異様に強かったパコスのイメージが強く、町から離れるのを躊躇わせた。
のちに攻略掲示板に掲載されるが、ペンダントを奪ったパコスはあのクエストを受注していなければ発生しない特別なモンスターであり、しかも中ボス扱いだったらしいが、四人がその情報を今知るすべはなく。
結果、思っていたよりもずっと弱いパコスをひたすら、無心で、レベルが上がるまで延々と狩り続けていたのだった。
*
「ふぅ。……やっと帰って来れた」
パルティの現実の姿、『七五三掛 司』は時計が昼を回った頃に自宅へと帰宅。
朝からバイトに励んでいたが、早く帰って『CeratoreOnline』の続きをしたいとバイト中ずっと考えていて。
そうして何かをしたいと考えているときは、時間の進みとは残酷に遅く。
普段よりもむしろ早い時間の帰宅も、『やっと』なんて枕詞が付いてしまうくらいには待ち遠しかった。
初めて触ったVRゲーム。
初めて体験したゲームの中の世界。
他の周りの人とは明らかに見た目の違う人に勇気を振り絞って話しかけ、結局眠くなるまで引っ張って行ってもらった。
自分でも運が良かったと思う。
眠すぎたせいもあり、フレンドすら交換せずに落ちてしまった事を悔やみながら、今日も会えないものかと思い馳せる。
……いや、操作も、動き方も慣れがよく分かる人たちだった。
きっと、もう次の町に行っていることだろう。
あの人たちからは、それくらい貫禄が感じ取れたのだから。
「とりあえず、ログインしてからご飯食べよ」
バイトの休憩時間に、ゲームの攻略情報やテクニックなどを調べていて見つけた、離席機能。
あれを使っていれば、もしかしたらあの人たちが私を見つけて待っていてくれるかもしれない。
そんな淡い期待を胸にログインした彼女の――パルティの思いは、裏切られることとなる。
*
「ん、パルティじゃん。おっす」
「ふぇ?」
何と、ログインした瞬間に目の前にエルメル達四人が居たのである。
「あ、えと、こんにちは。皆さんお早いんですね……」
「あー……、まぁ、うん」
「?」
「早いって言うか、私ら寝てないし」
「え? ……えぇ!?」
「まだ一徹でしょ? よゆーよゆー」
「いや、眠くならないんですか!?」
「なるでござるよ? レモン齧ると吹き飛ぶでござるが」
「栄養ドリンクという素晴らしいものがあってな?」
「熱さまシートの魔力ったらない」
ひとまずは挨拶。
と思ったのだが、まず挨拶の時点からツッコミどころしかなく。
およそ一般プレイヤーであるパルティからしてみれば、眠くなったらログアウトするのが当たり前。
しかし、エルメル達廃プレイヤーになれば、眠くなったら吹き飛ばすのが当たり前なのだ。
「俺らシナリオ進めるためにレベルアップしてたんだけど、予定ないなら一緒にどうだ?」
「え? ……あ、はい!!」
「ちょい待ち。先にペンダントクエと装備品新調。あと新スキルの確認しなきゃだろ」
「そういやそんな事もあったな。何せ八時間も前の事なんて記憶がかすれてる……」
「八……時間?」
パルティにしてみれば願ってもないパーティへのお誘いを二つ返事で受けると、どうやら自分がログアウトしてからこなしたであろうイベントだったり、クエストを勧めてくる四人。
さらに、それらを終えた四人は八時間も何かをしていたらしい。
「そそ。ずっっっっっっと敵狩ってた」
「ていうか序盤から経験値渋すぎ。八時間でようやく二レベ上がるとかもうすでにマゾい」
何か――ではなく、狩りを行っていたらしい。
そしてその成果が、二レベル……らしい。
「とりあえずほい。パーティかも~ん」
エルメルに軽いノリで招待され、パーティに加入。
そのまま、彼らに連れられるままにペンダントを頭に乗せたタコを倒し、新しいスキル[シャイン]もお披露目し。
町に戻るまでの道中にいたホニラにごまイワシが殴り掛かった時。
彼の姿が、レベルアップの時の白い光とは違う、青白い光に包まれた。