ひよってる奴いる?
ゲーム始めたての頃、ジョルトに喧嘩を吹っ掛けたごまイワシは、専用のフィールドへと飛ばされた。
そして、例に漏れず今回も、周囲には木しかなく、足場は木の枝という場所へと飛ばされる。
――四人一緒に。
「なんで戦闘になった!?」
「分かんないでござる!!」
「エルフ♪ エルフ♪」
「一人クソほど上機嫌の奴いるんだが……」
さっきまで立っていた、木を登った直後の足場とほとんど同じの今のフィールドは、唯一違う点を挙げるとすればそれは、周囲には木しかない事だろう。
居住区のような建物も、アイテム屋の看板を掲げた葉っぱの屋根の建物もない。
――つまりは、このフィールドで暴れてもエルフたちの居住区には一切の影響がないと言う事で。
存分に戦え、という意思をひしひしと感じ取れた。
「ちなみに、拙者、やすやすと倒されるほど弱くはないでござるよ?」
頭上から不意打ち気味に襲ってきたエルフから振り下ろされる短剣。
それを、さも当然のように短剣で受け止めたごまイワシは。
「んで、こっからの選択肢ももちろんあるでござる。この数日で練り上げたごまイワシSPをとくと味わうでござるよ!」
と、よく分からないことを口にして。
片手で攻撃を受けたまま、空いている片手で手裏剣を投擲。
それを避けようと後ろに下がったエルフに対し、
「ドキドキ四択ク~イズ。拙者の次の攻撃を予想せよ。[瞬身]」
スキルを使用して間髪入れずに肉薄。
それを受けてガードを固めたエルフをあざ笑うかのように、
「ハ・ズ・レ♪」
今度は[翡翠]を使い背後に回ると、晒されている無防備な背中へと[クロスポイント]をお見舞い。
慌てて振り返るエルフを[切り抜け]で置き去りにし、エルメルとバトンタッチ。
「[刃]!」
ごまイワシに意識が偏り、また晒された無防備な背中へと放つ始動の一撃。
もちろん即座に振り返り、エルメルと向かい合うエルフだが……。
「[クレセントライト]!!」
斬り上げ、構えを無理やり解き。向かい合ってなお無防備を維持させて。
「[速]!!」
繋ぎの一撃を叩き込む。
すると、
「もうやめて!」
推しのエルフが一方的にやられる姿に我慢が出来なくなったのか、†フィフィ†が声を上げるが。
「HA! NA! SE!」
「速攻魔法発動! 狂戦士の魂!!」
もはや二人は動きを止める気配はなく。
†フィフィ†の制止もガン無視し、エルフへの攻撃を継続。
結局、エルフを倒し、元のフィールドに戻るまでに、五分程度の時間しかかからなかった。
*
「……【アグラディア】」
いきなり襲い掛かって来たものの、エルメルとごまイワシによって即返り討ちにされたエルフは。
物凄く不服そうに、そして、ぶっきらぼうに自己紹介をした。
……†フィフィ†に抱きしめられ、頭を撫でられながら。
「長いからアグラって呼ぶぞ? 何で襲い掛かってきた?」
「それは……」
「それは?」
戦闘に参加しなかったマンチが尋ねると、エルメルとごまイワシに向ける目よりは少し鋭さを落とした目で振り向き。
「……喧嘩吹っ掛けてきたの、そっちだろ」
と、ごまイワシをキッと睨みつけながら言い放つ。
「別に拙者、喧嘩売った覚えないでござるよ? そもそも、アグラの姿も不意打ちされて初めて視認したわけでござるし」
「……なぁ、ごま。嫌な予感がするんだけどさ」
「なんでござる?」
睨みつけられたごまイワシは、頬をポリポリと掻きながら訳が分からないと困惑するが。
「お前確か、【喧嘩屋】って称号貰ってなかったっけ」
「……あー、序盤にジョルトに喧嘩買われたときに貰ったやつでござるね。……え、まさか?」
「じゃないの? ……なぁ、アグラ。喧嘩売ってたのって、俺ら? それともこいつだけ?」
エルメルが思い当たる節を話すと、妙に納得できてしまい。
その予想があっているのかをアグラディアに確認。
すると……、
「その人魚だけ」
と、予想が当たっていることを聞かされる。
「マジでござるか……」
「あー、……こいつはナチュラルボーン失礼な奴だからこれがデフォなんだわ。勘違いさせたみたいだけど」
「……そう」
「んで倒しといてなんだけど、エルフの村に連れて行ってくれると嬉しいんだけど?」
ならばと全ての悪さをごまイワシに押し付け、エルフの村へと案内してもらおうとするエルメル。
「……分かった。けど、いくつか条件がある」
「お、何々? 俺らに出来ることならある程度はするからさ」
それを了承し、けれども条件があると突きつけたアグラディアは。
「まず、俺の頭撫でてるこの人をどうにかして」
いい加減にうざったいのか、†フィフィ†をどうにかしろと注文を付け。
「コリン! エルフが嫌がっている。速攻やめるべし」
「了解!」
即座に指示を飛ばし、アグラディアを開放。
そして……、
「手、繋いで」
「は?」
何故か頬を赤らめながら、エルメルに向けて手を差し出すのであった。