エルコン
「ほんじゃまー……【グリーンフォレスト】に向かうわけでござるが、それに当たって留意点が一つ」
四人が個人で動き始めて四日後。
各々がそれぞれやりたいことをやり、しっかりと休息も取って。
長期配信の準備を万端にし、集まった四人は。
いよいよ新たなエリア、【グリーンフォレスト】へと足を踏み入れようとしていた。
ただ、その前に一つ、とごまイワシが他の三人の足を止め。
「なんぞや?」
何事かと問いかけるエルメルに対し、真顔で、
「次のエリアには――エルフが居るでござる」
と告げる。
直後、
「いざ行かん! ビバ、桃源郷!」
突如としてクラウチングスタートの姿勢になり、駆け出した†フィフィ†をマンチが抑える。
「どう! どうどうどう!!」
「離して!! うちの追い求めていた幻想郷がこの先に待ってるの!!!」
マンチの制止を振り切らんと暴れる†フィフィ†に、
「まず、グリーンフォレストはデカい樹海のような場所でござる。んで、エルフたちはその木の上で暮らしているでござる」
と先駆者たちからの情報を伝えていくごまイワシ。
さらに、
「んで、エルフと出会うためにはまず木登りをする必要があるんでござるよね?」
そう告げて。
「†フィフィ†ネキ、木登りの経験は?」
「幼少期はアグレッシブな子供だったわよ?」
「リアルの話じゃなくゲーム内の話だが?」
「大体一緒でしょ。大丈夫、エルフが先に居るって分かってるから意地でも登る」
「何がそこまで突き動かすのか……」
「エルフ」
もはやエルフの事しか頭の中にない†フィフィ†は、暴論に近い精神論を展開し。
「善は急げ、早く行こ」
マンチを振り払うと、一人駆けだしてしまった。
「たまにコリンって暴走するよな」
「たまにっていうか、エルフが絡むと暴走するでござるよ」
「エルフコンプレックス」
そんな背中を呆然と見つめる三人は、†フィフィ†の背中が見えなくなるかどうかという時間まで、その場に佇んでいたのだった。
*
†フィフィ†に追いつき、グリーンフォレストへとやってきた四人は、
「はえ~」
「おっき~」
「すご~い」
「INT溶かしてるぞお前ら……」
太陽の光を遮る樹海を見上げ、賢さ3の感想をこぼす三人と。
その三人から少しだけ距離を取りながら、ツッコミを入れるマンチ。
複雑に絡み合った木のせいで、差し込む光は極わずか。
明け方のような薄暗さのその樹海は、頭上を見上げると確かに居住区のような建物が微かに見て取れる。
ただしそれは、ずっとずっと頭上に存在し。
それはつまり、そこまでは木を登っていかなければならないと言う事で。
「めんどくさくねぇか?」
それに気が付いたマンチがぼやくが。
「何してんだ? 早く来いよ」
「もし無理だったら拙者がとっておきの方法教えるでござるよ」
「エルフ、エルフ」
すでに三人は木を登り始めており。
「うっそだろお前」
その行動の速さに、思わず素直な感想が口を割るマンチ。
そして、渋々といった感じで最寄りの木に向かうと。
「よいしょっ……と」
大人しく、木を登り始めるのだった。
*
「まぁ、拙者、スキル連打で登れるんでござるよね」
「ごまほどじゃないけど同じく」
「エルフどこ!? どこ!?」
「マジで……ちょっと、タンマ。……息が……整えさせ、て」
[フラッシュバック]を多用した移動スキルの連打。
敏捷補正により短いクールタイムで連発できる移動を含めたスキルの多用。
ごまイワシとエルメルは、途中マンチから「ズルいぞ!!」と叫ばれる方法であっさりと木を登り切り。
マンチが登ってくるまでゆっくり煽りながら待機して。
何故かそんな二人より、身体一つで登った†フィフィ†の方が登り終えたのが速かったが、愛の力は偉大だと言う事か。
今も、登った直後でグロッキーになっているマンチなどそっちのけでエルフが居ないか周囲を見渡している。
「ちなみに、有志の人があっちにエレベーター作ってくれてるでござるよ?」
「はよ言えやボケェッ!!!!」
寝転がって動けないマンチを見下ろし、その方向を指差しながらとんでもない事を口にしたごまイワシに、渾身の罵声を浴びせるマンチ。
ごまイワシの言っていたとっておきというのがこのエレベーターの事なのだが、その時に言及しておけば、マンチもここまで苦労することはなかっただろう。
「さて、んじゃあ本題の――」
「エルフ!?」
「そう、エルフの事なんでござるが――」
「エルフ!!」
「もはや鳴き声みてぇになってやがる……」
マンチが落ち着いたのを確認し、そう切り出したごまイワシに。
瞬間反射で反応する†フィフィ†。
それほどまでに出会いを期待しているのだろうが、
「基本、拙者らに協力的ではないでござる」
「エルフ」
「ちょっと元気なくなったな」
「エルフって三文字で調子分かるのクソほどおもろい」
どうやらそう事は上手くいかないらしい。
「なんで、ここでの第一の目標はエルフと友好を築くこと。具体的に言えば好感度を上げないとダメなんでござるよ」
「何すりゃええの?」
「クエストを一定回数こなすか、一定数以上のアイテム売買って聞いたでござる」
「なるほど。店に行ってこっからここまで全部くれって言えばいいのね?」
「落ち着けし」
最初の目標はエルフから認めてもらう事。
そして、それを達成するための条件はすでにある程度判明しており。
その事前情報を、ごまイワシは三人へと共有。
「ついでに、エルフの好感度が下がることももちろんあって、下限に到達すると襲ってくるらしいでござるから注意するでござるよ」
「好感度下げるって何すりゃ下がんの?」
「家焼くと即戦闘って書いてあったでござる」
「どうしてエルフの森は焼かれるのが似合うのか」
そして、好感度が上がると言う事は下がる事もあるわけで。
その条件は、森の民としては当たり前の火に関する事だった。
「まぁ、よっぽどのことがない限り戦闘にはならない筈なので、じっくり好感度稼ぐでござるよ」
――と、ごまイワシが言い終えたとき。
「くたばれぇっ!!」
短剣を構えた耳の長いNPCがいきなり襲い掛かってきた。