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分岐点

 自由行動を提案した†フィフィ†本人は、三人達と別れた後、配信にてしばらく落ちる事を宣言してログアウト。

 同時に配信も終了し、次回配信時間を未定へと設定。

 その上で、


「さって……溜まっちゃったお仕事を終わらせますかー」


 と、本職のデザイナーの仕事へと取り掛かる。

 部屋を移動し、飲み物と軽食をオーダーして。

 それらを活力剤に、仕事の山を確実に削っていく。


「あ、そうだ。ごまさんに伝えとかなきゃ」


 自分がログインしておらず、次のログインが仕事が終わって休息を取り次第になること。

 そのことを、ごまイワシに報告せねばとメッセージを飛ばす。

 すると、


「ん、もう返ってきた。……おkおk」


 ものの数秒で返ってきたメッセージには、ログイン出来る時間が分かり次第またメッセージが欲しいことが書かれており。

 それ以外は、仕事お疲れ様、という文面が添えられており。


「ふぅ……。仕事の息抜きにネトゲして、ネトゲの息抜きに仕事する生活とか最高かよ」


 そう呟いて、一刻も早く三人に合流すべく、脳と手を最高効率で動かし続けるのだった。



「付き合わせて悪いな、パルティ」

「いえ、私が勝手について来ただけなので……」


 生産に必要な素材を手に入れるためのクエスト。

 それを余裕をもって三十往復ほどしたあたり。

 時間も日が変わる直前と、一般的なプレイヤーが落ちるには当たり前の時間帯。

 パルティも同様にログアウトするとエルメルに伝え、場所をピラミッドからイエローデザートへと移動。


「エルメルさん」

「うん?」


 ログアウト直前、エルメルの名を呼ぶパルティは、


「私も……エルメルさんみたいな動きが出来る日が来るでしょうか?」


 一つ、思いを口にした。

 何を意図した発言かエルメルには分からない。

 そして、エルメルはこの手の質問はもう何度目かすらも数えていない。

 そのうえで、


「努力次第じゃね? パルティって、ゲームに触れて日がまだ浅いだろ? まだまだ伸びしろはどれだけでもあると思うし、今が絶頂ってことは絶対にないと思うぞ」


 と、素直な感想を口にする。

 正直な話、エルメルの動きにはどうしてもセンスや才能が付きまとう。

 反射神経、とっさの判断、視野の広さ。

 説明されて出来ることでもなく、どうしても個人差のある分野。

 無理な人には絶対に辿り着けないような領域に、エルメルというプレイヤーは存在する。

 しかし、どれだけ才能と言っても結局のところ人間であることには変わりない。

 彼を超えるプレイヤーだって存在するし、近い所にごまイワシだっている。

 だからこそ、本人の努力次第だと、エルメルは答えた。

 可能性はどこまで行ってもゼロではないから。

 ……最も、エルメル自身もまだまだ自分の実力は伸びると思っているし、いつかごまイワシをボコボコにするという野望が密かにあったりするが。


「そうですか。……ありがとうございます! お疲れさまでした!!」

「うい、お疲れ」


 ログアウトしていくパルティに手を振り見送って。

 姿が消えたことを確認し、生産へと向かうエルメル。

 このやり取りが、パルティの今後の活動を変えていくことを、エルメルは知る由もなかった。



「ふぅ。努力次第……か」


 パルティの中身、『七五三掛(しめかけ) (つかさ)』は、ログアウト後、デバイスを外しながらため息をつく。

 初めて触れたゲームで、現実以上の動きをするプレイヤーと出会い。

 最初に抱いたのは、憧れ。

 あんな動きが出来るようになれたらと、理想を追った。

 けれど、もちろん経験の差もありはするが、それを考慮しても、一向に近付いている気配すらしなかった。

 次に感じたのは、諦め。

 やっぱり私には無理なんだ、という言い訳の感情。

 けれど、どれだけ自分に言い聞かせても、エルメルの動きを見るたびに再燃する、同じような動きをしてみたいという思い。

 そんな思いをどう扱っていいか分からず、とうとう本人に聞いてしまった。

 そして返ってきた答えが、「努力次第」。

 それはつまり、今まで彼女がやってきた、エルメルという存在に近付くための練習が、努力の範疇にすら含まれていないこと。


「言われちゃったら、やっぱりショック……かなぁ」


 けれど、そんな言葉を言いながら、司は笑っていた。

 今までのが努力とさえ呼ばれないなら。もっともっと行えばいいだけだ。

 エルメルのように、ぶっ通しで何日もするようなゲーム体力は司にはない。

 ……というか、ほとんどの人類にない。

 それでも、もっとゲームに時間を、リソースを割こうと決めた。


「そうと決めたら、早めに寝よ」


 いつもだったら動画を見たり、テレビを見たりする就寝前。

 けれど、早めに就寝し、その分早く起床して、開けた時間に少しでもゲームをする時間を組み込む。

 いきなり一日まるっとゲームなどという、今までとの違いが大きすぎる生活は、体調を崩しかねないと判断し。

 少しづつ、ゆっくりと。

 出来る範囲でゲームに触れる時間を、司は作っていくことを決めた。

 ……彼女の努力が実を結ぶのは、かなり先の話である。

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