使い道
「どうしよう、マジで気が乗らねぇ……」
自由行動となりガイストを尋ねたマンチは、重いため息をつきながら扉を開ける。
すると……、
「ちょうどいい所に来やがった!」
真っ赤に燃える炎を前に、マンチを見るなり声を上げるガイスト。
その横では、顔に大量の汗を浮かべながら、そのガイストの汗を拭きとるデッチの姿も。
そんな二人を視界に入れたマンチは――、
「お邪魔しました~」
回れ右をしてその場を離れようとした。
……のだが、
「新しい武器が作れっかもしれねぇぞ!!」
というガイストの一言でさらに回れ右。
「何すりゃいい!?」
そして全速力で近づくと、そうガイストに声をかける。
「一緒にぶっ叩け! 要領は一緒だ!!」
とだけ短く伝えられ、一瞬理解が出来なかったマンチだったが。
「了解!!」
要はまたニュータイプ専用スタイリッシュ音ゲーをするのだと理解。
しかも今回はガイストとの協力プレイ。
(譜面は同じか? 違った場合は裏打ちとかか? とりあえず一個一個選択肢潰すしかねぇっ!)
今回の生産はイベント生産。
このガイストと協力しての生産はどうせこの一回限りではないはず。
そこまでを読んだうえで、マンチはこの強制に近い生産で正解を探すことにした。
「いくぞ!!」
ハンマーを振り上げ、そう叫ぶガイストの目を見ながらマンチは頷き、ガイストの一発目が振り下ろされて。
(当たっていてくれ!!)
出来ればそう何度も生産をしたくないマンチは、まずはガイストのタイミングに裏打ちをすると決め。
可能ならば一度で終わってくれと願いながら。
ガイストに続いてハンマーを振るうのだった。
*
「お前中々やるじゃねぇか」
「そりゃどうも。……クソが」
ガイストと共にハンマーを振るう事二時間弱。
都合五十二回ほど繰り返したマンチは、悪態をつきながら、出来上がった籠手を確認。
【風魔の籠手】と表示されたその籠手は、妖しい紫色の光を帯びていて。
特に詳しく調べなくても、ユニークであると確信出来る代物だった。
「また生産がやりたくなったら俺んとこに来な」
と、五十三回目となる同じセリフを聞いたマンチは、ガイストの工房を後にする。
「さてと……どうすっかなこれ……」
どこに行く足取りでもなく、フラフラとブルーリゾートを歩きながら。
先ほど手に入れたばかりの籠手の能力を確認。
チャージが何秒だとか、属性値がいくつだとか、籠手が装備できる職でなければ強さが理解できないが、腐ってもユニーク武器。
唯一無二の特性があるに違いない。
ただ、そんな武器も使わなければ宝の持ち腐れ。
そして、マンチたちの面子には今のところ籠手を装備できる職のプレイヤーは居ない。
――と、
「おや? マンチさんがこんなところに?」
声を掛けられる。
そちらの方を振り返ってみると……、
「ども、ツタンカーメン以来じゃん」
「紫陽花か。……て、何持ってんだそれ?」
声をかけてきたのは紫陽花。
その手には、よく分からない緑色の何かを一杯に抱えていた。
「薬草調合の素材。てか何でマンチさんがこんなとこに? グリーンフォレスト行ったんじゃないの?」
「色々とやっててな。そういうお前も次のそのグリーンフォレストとやらに行かなくていいのか?」
「こっちも色々としててね。ちゃんとマスターに断り入れて動いてるって」
紫陽花の隣に付き、歩幅を合わせて紫陽花と同じ方向へと歩き始めるマンチ。
そんなマンチを気にする様子もなく、紫陽花は質問を投げる。
「なんで今更序盤の町に?」
「いや、それ言うならお前もだろ? 生産の師匠がここにいてな。この場所じゃなきゃ生産出来ないんだわ」
「なーる。んじゃあ私と一緒の理由じゃん。グリーンフォレスト開放と同時に生産出来るアイテムがグレードアップしてるって聞いて、何が作れるようになったのかと確認しに来たわけよ」
「んで大量の素材が必要だった、と」
「そそ。ただ、素材の量に見合った効果得られるけどね。各属性への耐性が上がるポーションは、今後必要っぽくない?」
大釜をゆっくりかき混ぜているおばあちゃん。
そんな見た目のNPCの所で足を止めた紫陽花は、手に持った素材をNPCに渡し。
何やら言われ、大釜を覗き込むこと数秒。
「ほい、耐土風ポーション完成!」
「二属性の耐性上げられるんか、便利そうだな」
「まだ実戦では使ってないから何ともだけど、少なくとも使わないよりはマシでしょ?」
「違いない。薬草調合ってのは調合とは違うのか?」
「違うよ? 調合は体力やMP回復のポーション作る感じ。んで、薬草調合はさっきみたく耐性とか、後は状態異常を回復するポーション作る感じなのよね」
「細かく分けられてんだな」
生産した緑色の薬を受け取った紫陽花はNPCに手を振り、マンチの横へと並ぶ。
そして、それを確認したマンチが歩き出すタイミングに合わせ、マンチと同じ方向へと歩き出す。
「特に目的ないぞ俺」
「あ、そうなの? てっきりそっちの生産に行くもんだとばかり……」
その動きを確認したマンチが一言言うと、紫陽花がマンチについて行った理由が判明し。
「いや、生産は終わらせた」
「ほーん。ちなみに生産は何取ったの?」
「短刀と籠手製造だな。武器枠の」
自分の取った生産を紫陽花に紹介すると……。
「時に相談なんですけど」
「急に敬語になるのは怪しすぎる……が、なんだ? 言ってみろ」
「生産で作った籠手とかって……余ってませんか?」
唐突な上目遣いでそう聞いてきて。
「え? お前のメイン武器籠手なの?」
「まぁね。んで? 余ってる装備とか無い?」
「あるっちゃあるんだが……」
今しがた出来たばかりの【風魔の籠手】を持っているが、このままだとタダ、ないし格安でねだられると察したマンチは。
「よし、交換と行かねぇか?」
と切り出した。
「交換?」
その言葉に対し、身構える紫陽花だったが、
「そう、交換。俺は渾身の出来の籠手を渡すから、今後お前の属性耐性ポーションを俺にくれ。ある程度まとまった数を」
という言葉を聞いて安堵の息を漏らす。
「あぁ、それくらいならお安い御用。マジで籠手装備が見つからなくて困ってたんだよね」
「需要がないとか?」
「いや、市場に出回らないっぽいの。どうも魔装士の強い人がいるらしくて、装備をその人が掻っ攫ってるっぽい?」
「あー、エンチャとかで装備の数はあるに越したことはないしって事か。なるほどな」
「その点エルメルさんとか、自分らでドロップしてるみたいだし、供給側だからお金貯まってそう」
紫陽花は知らない。狩りの時間のわりにユニーク武器をドロップしていないことを。
その原因が、エルメルと同行しているショタ人魚にあることを。
「どうだろうな」
「絶対持ってる反応じゃん……だからお金要求しなかったんでしょ」
唇を尖らせる紫陽花にマンチは取引を持ち掛ける。
マンチから紫陽花へ、【風魔の籠手】を送る一方的な取引。
それは、今後これをネタに、無数の属性耐性ポーションを搾り取るマンチの策であり。
「んはぁっ!? ユニーク!!?」
取引によって手元に来た武器が、まさかユニークだったとは思っておらず。
驚きと喜びのあまり、紫陽花がその事実に気が付くのはもう少し後の事である。