ウルトラちょい残し
問、武器錬磨に必要な素材はどれくらいで集まるか?
答え、人による。
お目当ての素材が都合よく落ちる人もいれば、当然運に見放されたような人もいる以上、素材集めにかかる時間は人それぞれ千差万別。
ただ一つ、言えることは……。
「とりあえず残りはごまの分だけだが?」
ごまイワシは、運に見放された側のプレイヤーだと言う事だ。
「拙者もあと一個なんでござるけどねぇ……」
「妖怪一足りないに取り憑かれてんじゃねぇか」
それでも、残り素材一つまでは集まったらしく、もう直に集め終わる。
そう思っていた時期が、三人にもありました。
ごまイワシがこの状況――必要素材数残り一になったのは今からざっと一時間前の事である。
そう、つまりは一時間ほど最後の素材を狙って狩りを続けていると言う事になる。
「いい加減重量が限界で動きが重たくなってきたんだけど……」
しかも時刻は深夜。
アイテム運搬役のイプシロンは翌日学校だからと数時間前にログアウトしてしまった。
つまり手に入れた素材は動きが遅くなるのを覚悟で拾うか、泣く泣くこの場に置いていくしかなくなってしまうわけで。
そして、この鉱石系の素材は集めるのが面倒なこともあり、現在フリーマーケットにて一番熱い商品となっている。
となれば置いていく選択肢が自然と消える四人は、最後の素材が手に入るのを今か今かと待ち続けているわけで。
「この敵倒して出なかったら一旦町に戻るでござるよ」
流石に限界と感じたか、目の前に出現したシャインクラブをラストと決めて、装備がドロップしようがしまいが町に戻ろうと提案するごまイワシ。
町に戻れば、ギルド共有のアイテム倉庫が存在し、そこに素材を保管できるためだ。
「りょ。まぁ、サクッと倒すべ」
「あらほらさっさー。[影縫い][フラッシュバック][クロスポイント][フラッシュバック][桜花雷閃][フラッシュバック][桜花雷閃][影縫い][フラッシュバック][桜花雷閃]」
【花形の手裏剣】に刻まれたスキル、手裏剣を複数投擲し、本体と影とを狙うそのスキルは、影に手裏剣が当たるとそのモンスターの移動速度を下げる効果がある。
この移動速度低下という効果が非常に便利で、このゲームの仕様上攻撃範囲内で敵の攻撃を避けても、回避率や幸運から算出した確率でしか回避できず。
完全に回避するためには敵の攻撃範囲外に出る必要がある。
その攻撃範囲外に出るために、この移動速度低下が大いに役に立つのだ。
……もっとも、スキルクールタイムをゼロに出来るスキルを持つごまイワシからしてみれば、その移動速度低下効果もほんの少し猶予時間が増える程度の認識だが。
「う~ん……まぁ出ないでござるね」
「一度倉庫に預けてからまたくりゃいいさ。敵は逃げないって」
「素材は果てしなく遠くに行ってしまってるんでござるよねぇ」
「来世ではいいことあるって。元気出しなよ」
「さらっと今世は諦めろと言われてるのでござるが……」
「物欲センサーに引っ掛かり過ぎてるんだろ。まずは邪念を捨てるとこから始めたらどうだ? 軽く仙人にでもなってくればボロボロ落とし始めたりしてな」
「まず仙人になることが容易ではないと思うのでござるよ」
武器をしまい、大人しく町へと移動を開始する四人。
この四人は知らない。
町に戻った時、余計ではないのだが、今の状況においては余計でしかない、とあることを思い出してしまうことを。
*
ギルド倉庫に鉱石系素材をぶち込み、完全に復旧した町で回復アイテムを補給し。
鉱石洞窟に戻ろうとしたとき、ある一人のNPCと目が合って。
「あ」
「うっわ」
「そうだった……」
「やな事思い出したでござるねぇ……」
四人が四人とも、ゲンナリした表情を浮かべた。
その四人の視線の先に居たNPCというのは――ビルゴート。
担当しているシステムはそう……エンチャントである。
そして、前回のエンチャントから手に入れた装備は、ツタンカーメン討伐の功績と、転職したことで装備可能になった武器種のユニーク武器。
スロット数は装備によってまちまちであるが、そんなことが問題ではなく。
「素材……集めなきゃね」
ただでさえ武器錬磨に必要な素材が手に入らずに沼っている今の状況に、その後の素材集めが確約された。
もちろん倒す敵の種類や必要素材数によるだろうが、それでも素材集め継続というのは変わらぬ事実。
「うし、とりあえず目の前のごまの素材集めからやるか」
「そだねー」
「これで洞窟に戻って一発目で出たら指差して笑うからな」
「まっさかー。そんな簡単に出るならもっと前に出てるでござるよ」
「自分の運の無さに胸を張るな胸を。……じゃあ、鉱石集め第二波、行きますか!」
気合を入れなおし、全力ダッシュで戻ったエルメル達。
そんな四人は、まさか先ほどの言葉がフラグになっているなど知る由もなく。
本当に戻って一発目のシャインクラブを倒しただけで、残り一つだった素材をツモるとはだれも思っておらず。
「えぇ……」
一人困惑するごまイワシを余所に、他の三人はごまイワシを指差して笑うのだった。