ステータス上げて物理で殴りたい
「結構……時間かかったな」
「チュートリアルの中で戦う難易度でござったかぁ? 拙者、何度か床舐める覚悟決めたでござるよ?」
「あれから逃げたあの子、普通に強い説出て来たよね」
「つーかマジしんどい。町戻ってクエスト終わらせていったん休憩させてくれ」
頭にペンダントを乗っけたパコスを相手に戦闘を開始し、三十分。
それだけ時間をかけて目的のパコスを討伐することに成功した四人は、きっちりとドロップしたペンダントを回収し、帰路に就く。
「賛成。トイレと兵糧補給」
「拙者も何か口に入れるでござる」
「私目薬刺したいー」
町に戻り、未だ泣いているファイリスの傍に行き、ペンダントを差し出すと。
「ふぇ……? 本当に取り返してきてくれたの?」
「あ、幼女かわいい」
「スッ(通報ボタンへと指を伸ばす)」
「何でもないでござる」
泣き止み、驚いたように真っ赤に腫らした顔をあげて尋ねてくるファイリス。
その反応に何やらごまイワシが口走った気がするが、†フィフィ†の物理的な抑止力により気のせいという事にされる。
「だから言ったろ。お兄さんたちに任せとけってな」
「うん!! お兄ちゃん、ありがとー!!」
と、先ほどまでの泣いている表情から一転。
お日様の様な笑顔を見せ、マンチへと抱き着いたファイリス。
「死 ぬ が よ い」
「ド直球過ぎるわ!!」
なぜだか血の涙をごまイワシが流している気がするが、きっと気のせい。
マンチから離れたファイリスに、先ほど取り返したペンダントを渡すと。
[クエスト完了:思い出を取り返して]
という告知が四人に表示される。
「ん? クエ受けた時こんな表示出たか?」
「覚えが無いでござる。……完了時のみ表示される仕様でござるか?」
「だと変じゃない? クエストが受注出来てるか分かんないって事じゃん」
「どっかに受注中のクエスト一覧とかあるんじゃ……、ねぇな。何でだ?」
突然表示されたその告知に、首を捻るが、如何せん正解に辿り着くための情報が少なすぎて。
とりあえず休憩を、という事で全員がメニューを表示して一時離席を選択。
ログアウトと違い、キャラをそのままに現実世界へと意識を戻すそれは、長時間の放置――具体的には二時間以内に戻って来なければ強制的にログアウトされてしまう。
しかし、ログイン時間の短縮や、パーティの維持等、短時間で戻る目処が立っている場合はこちらの方が都合がいい。
特に、今回の様な軽い休憩の時などにもってこいである。
現実世界の時間はよい子どころか大体の人間は眠気を覚える時間だが、ガチ廃人の四人にとって、眠気はゲームを辞める理由にならず。
栄養ドリンク、目薬と熱さまシート、レモン――と、思い思いの眠気飛ばしグッズを用い、食事RTAを行ってゲームに戻ってくる。
「うし、戻り」
一着はエルメル。食パンを口に押し込んでカフェオレで流し込み、チェイサーで栄養ドリンクをひっくり返して胃に流し込み。
極限まで短縮された食事と呼んでいいか分からない行為を終え、ゲームへと戻ってきた。
「ん、ステータス振らなきゃ」
戻ったという報告に誰も反応しなかったことを確認し、先ほどのクエストを完了した時点でレベルが上がっていたためポイントを割り振り。
と言っても、振っても数値が変化しない敏捷へと注ぎ込むだけであるが。
――と、
「ん? 手作りのペンダント?」
先ほどはゆっくり確認しなかったクエスト完了付近のログ。
突然の告知の情報が何かないかと遡って確認したエルメルに、知らない文字列が飛び込んでくる。
「『特殊:手作りのペンダント』を獲得しました……か」
それは、おおよそ装備品を受け取ったと見れるログであり、アイテムウィンドウを開いてみると、確かにそこにはペンダントの様なアイコンが一つあった。
「これか、手作りのペンダント」
とりあえず装備する、を選択し、装備をしてみると――、
「? ステータスに変動なし?」
特に変わった様子がなく。
「戻ったでござる。速けきは風の如く。拙者が一番乗りでござる」
「スローすぎて欠伸が出るぜ」
「ちょ、エルたそに抜かれてたでござる」
そうこうしている内に二人目のごまイワシがゲームに復帰。
さっそくごまイワシにペンダントの事を話しすと……、
「は? 幼女手作りのペンダントとか家宝でござるが? 装備とか恐れ多いでござるが?」
なんて言いながらしっかり装備をした。
「装備はしたけどステータスに変化は無いんだよな」
「んー、確かに。特に効果は無さそうでござるね」
ステータスウィンドウを開き、ペンダントの着脱をするが数字に変化はない。
「まぁ、序盤でアクセサリー貰えたならいいんじゃね? スロット空いてるっぽいし」
防具や武器とは違う、アクセサリーという項目。
しかも『特殊』と別離されている部分へと装備されている手作りのペンダントには、エルメルが言う通りスロットが空いていた。
素材を消費し、装備に能力を付与できるエンチャント、というシステム。
そのシステムで重要になってくるのが、このスロットというものである。
そもそも、スロットが空いていなければエンチャントは出来ない。
スロットに埋め込む形で能力を付与するため、スロットが空いていれば空いているだけ能力を付与できる数が増える。
それを踏まえた上で、手作りのペンダントの空いているスロット枠は、三つである。
つまり、現状ステータスは上がらないが、エンチャントさえすれば三つは能力を付与することが出来るのである。
「エンチャかぁ……。思い出すでござるなぁ。最大値を求めて何千とマラソンした日々を……」
そして、エンチャントによって付与される能力は、素材や付与される側のアイテムによって数値が上下する。
すなわち、運が絡むという事で。
リアルラック皆無のごまイワシは、過去に滅茶苦茶沼った実績があった。
「悪い、熊狩ってたわ」
軽くごまイワシが過去を思い出して現実逃避をしようと思っているところにマンチが帰還。
同じ話をするとごまイワシとは逆に目を輝かせる。
「素材になりそうなドロ品あったか!? つーかエンチャもチュートリアルあるよな!? 早くやりてぇ……」
「エンチャとなると急にご機嫌になるでござるよね」
「いや、ゲームの魅力の一つじゃね? 自分で手に入れた素材で自分の装備強化するとか嫌いな男子いねぇだろ」
「運が絡むから大っ嫌いでござるが?」
「悲報、ごまイワシ、男じゃなかった」
「ひどっ!? 性別否定されたでござる!?」
「お待たせー。にぎやかだね~、どったの?」
最後に戻ってきた†フィフィ†にもペンダントの部分から説明をすると、
「エンチャ早く来ないかな~」
と呟いた†フィフィ†に。
「マンチにきがコリンちゃんを男子認定したでござる」
「???」
ごまイワシが、誤解を招きかねない言葉を、口にするのだった。