どけ! 俺はお兄ちゃんだぞ!!
戦闘滅却すれば火もまた涼し。
戦闘に没頭すれば夏の暑さも忘れてプレイ出来るという戦闘厨のエルメルが口にした言葉である。
もちろん忘れるだけであって、汗はかくし集中力も低下する。
そのせいで脱水症状で死にかけたりしたこともあったが、今はそれは重要ではなく。
鉱石を戦闘でも手に入れられると分かった今、一度洞窟の外に出て設定を通常通りに戻したエルメルは……。
「これより我は修羅道に入る。敵に出会えば敵を斬り、魔物を見れば魔物を斬る」
「ようは採掘ではなく戦闘で鉱石を集めるという意思表示でござるね?」
「まぁな!」
配信を見ている視聴者だけに言ったつもりの言葉だったが、エルメルの後を追いかけてきたらしいごまイワシに聞かれていることにちょっぴりと恥ずかしさを覚えた。
「そういう事なら手伝うでござるよ。……正直、炭鉱夫は某お守りゲーでやり飽きたでござるし」
そんなエルメルを見ない振りし、その辺につるはしを放り投げて短剣を構えるごまイワシ。
そして、エルメルとごまイワシを追って出てきたマンチと†フィフィ†にそのことを伝えると……。
「了解。俺はまぁ適当に採掘と敵狩るの両方やるわ。気分転換感覚で」
「うちは掘っとくかなぁ。[ブレイクダンス]使わないと効率悪いし、かといってMPの関係で使いっぱなしは出来ないし」
マンチは両方を都度気分によって変えるようで。
†フィフィ†は採掘をメインにするらしい。
「りょ。……あ、たまにでいいからバフの歌スキル使ってくれよ?」
「あいさ」
「えー、式神~。バフ効果のある式神はいらんかね~?」
「主張しなくても要るっつうの。ていうか確認取らずに撒けよ」
「バフして貰う側がその態度なの気に食わないなー」
「うっざ。俺にそんな態度取ると金輪際このゲーム内でお兄ちゃんって呼び続けるぞ?」
狩りに参加しなくとも、能力強化系のスキルは使ってくれとのエルメルからの要望に、もちろん、と短く返事をする†フィフィ†と。
自分にも能力強化スキルあるのにと拗ね気味で主張するマンチ。
そのマンチにやや辛めに当たったエルメルに、少しだけウザいムーヴを返すと。
エルメルから送られてきたのはとんでもない爆弾。
一瞬声と見た目でアリなのでは? と考えたマンチだったが、
『幻滅しました。チャンネル登録解除します』
という複数のコメントが配信に流れたことで大慌てに。
「ごめんって! それは色々と問題になりそうだからマジでやめろ。いや、もうほんと、バフならいくらでも撒くから」
「ほんと!? ありがと!! お兄ちゃん!!」
「や~め~ろ~!!!」
慌てて取り繕おうとするマンチの反応が面白く、ついからかったエルメルだったが。
当のマンチ本人は配信に流れる異様な『は?』というコメントに戦慄するしかなく。
「とりあえずイプシロン殿が一旦アイテム預けに走ったんで、帰ってきたらまた洞窟入るでござるよ?」
「いつの間にか戻ってたのか。りょ。……このままアイテム持ち逃げとかされんよな?」
「アイテム持ち逃げとか、横殴りとか通報が多いプレイヤーはプレイヤーキルが可能になるらしいでござるよ? ちなみにキルられると所持品と倉庫の中身をぶちまけるのだとか」
「……待てよ? それって大人数で一斉投票とかされたら冤罪でもPKされるって事じゃね?」
「冤罪の証明が出来たら運営から取られたアイテム保障と冤罪吹っ掛けてきたプレイヤーの垢BANとかなんとか。実例1とかも聞いたでござるね」
そんなマンチを余所に、エルメルがごまイワシの発言で気になった部分に反応し。
ごまイワシは、エルメルの質問に答えていく。
と言っても、彼の応える内容は掲示板や攻略情報を集めていれば目にするものであるが。
「う~ん。腑に落ちない感じはするけど冤罪吹っ掛け得じゃないからいい……のか? どっちかと言うと冤罪かけた側の方がダメージでかいか」
「だから間違うなよ? って運営のメッセージでござるよ。気軽に出来ないとなれば全員慎重になるでござろ? 本当にPK処分相応の行動してるか見極めるはずでござる」
「なるほど」
そんなことを話していると、遠くからイプシロンが走ってきた。
「お待たせして申し訳ありません!!」
「大丈夫でござるよ。あ、これから拙者とエルたそが狩り、†フィフィ†ネキが採掘、マンチニキがどっちつかずで行動するでござる」
「分かりました!! と言っても特に自分がすることに変化は無いような……?」
「俺らが戦うから敵に狙われたら俺らに擦れってこと」
「なるほど! わかりました!!」
元気に返事をしてごまイワシ達と共に洞窟へと入っていくイプシロン。
そんな彼らについて行かず、まだ配信で視聴者に色々と言い訳居ているらしいマンチに対し、
「お兄ちゃん、は~や~く~」
出来うる限りのロリボイスでさらなるガソリンを注ぐエルメル。
「お前!! マジでシャレにならんぞ!!」
「お兄ちゃんが怒った~ww」
綺麗に燃え上がるその様子を楽しみながら、マンチから逃げるように洞窟へと入っていくエルメルと。
そのエルメルを追いかけてせめて一言謝らせようとするマンチ。
結局この後、エルメルはマンチと配信の視聴者に、
「悪ふざけなのでチャンネル解除はしないであげてください。されるとこのおじちゃん泣きます」
という、フォローなのかよく分からないコメントを発信したのだった。