炭鉱夫
ユニーク武器ドロップまでに費やした時間、八時間。
その内、プロゲーマー並びに配信者だと分かって声をかけてきたプレイヤーへの対応時間、トータル一時間弱。
ようやく『パコス』の落とすユニーク武器、【花形の手裏剣】を手に入れたごまイワシは近くにいたプレイヤー達へと別れを告げて。
笑顔で手を振り、他の三人と共に一度イエローデザートへと退避。
一直線にアイテム屋の裏側までやってくると……。
「つっっっっっっっかれたでござるねぇ!!」
「狩りもだけどプレイヤーに絡まれるとどっと疲れるよね」
「あれやってこれやってが多いんだよな。俺とかごまは正直テンションで動いてるから、あの時の動きを~とか言われても普通に無理な時あるし」
「ていうか何気に†フィフィ†が人気あって驚いたんだが……」
すでにほとんど修復が終わっている街並み。
大工職筆頭に生産職の努力の賜物だろうが、そんな景色は四人の視界には入らない。
「拙者たちの中で二番目に登録者数多いでござるよ? 一番はエルたそでござるけど」
「いぇ~い♪ ピースピース☆」
「エルに関しては外見は可愛いし、口調の悪さもギャップで何となく人気になりそうとは思ってはいたな」
「†フィフィ†ネキは普通に立ち居振る舞いでござろう。外見ショタでござるが、動きの端に女性っぽさが滲み出てるでござるから、そこが要因かと」
「あ、もし俺とごまの順位言おうとしてるなら言わなくていいぞ。何となく察してるから」
「りょ。とまぁユニーク武器は揃ったんでござるがぁ……」
「ござるがぁ?」
思わず精神的なダメージを受けそうになる場面を、事前に回避することに成功したマンチ。
正直、エルメルと†フィフィ†の順位が出された時点でダメージはそう変わらないような気もするが、本人はそこに気が付かないふりをすることで、事なきを得た。
……別に無くなって等いないが。
そして、ごまイワシの口から、今後の予定が発表されることとなり。
「ツタンカーメンを倒した時のシステムメッセージ、覚えてるでござるか?」
「なんかあったっけ? ……功績がどうのこうの?」
「ギルドにポイントついてた話?」
「それもあるっちゃあるでござるがそれは置いといて、もっと心躍るワードがあったはずでござるよ?」
そう問いかけるにやけ顔のごまイワシの前で、腕を組んで思い出そうとする三人は……。
「あー。分かったわ。武器なんちゃら的なのが解放されたみたいなやつ」
真っ先に思い出したエルメルに続いて、それだと手を打った。
「超絶アバウトでござるが正解でござる。「武器鍛錬」と「武器錬磨」が可能になったんでござるが、簡単に説明するでござるよ? 「武器鍛錬」は素材を消費して行う武器のアップグレードでござる。んで、「武器錬磨」が素材を消費する武器の強化でござるね」
「把握。……でも、お高いんでしょう?」
「そんなことあるでござるよ。……砂漠の隅っこに洞窟マップが出現したらしいんでござるが、なんとそこで拾える鉱石が必要でござる」
「ん? ひょっとして1050年地下行き?」
どことなく嫌な予感を感じたエルメルが、真っ先に思い付いた言葉を呟くと。
「1050年で済めば、いいでござるねぇ……」
先に情報を掲示板で集めており、答えを知っているごまイワシだけが、細い目で空を見上げるのだった。
*
「っしゃい!! トパーズ三つ目!」
「いいペースでござるよ!!」
「ペースはいいけど重いんだよこれ! 一個で重量十%も食うぞ!?」
「だからアイテムデリバリー頼んだんでござるよ!! 安くないから存分にこき使うでござる!!」
「配達員の目の前で言われると泣きますよ?」
とりあえず実際に「武器鍛錬」と「武器錬磨」をやってくれるNPCの所に行ってみよう。
そして、現時点で出来そうならば、素材を集めて強化しよう。
そう決めて向かった「鉱石屋」は、
「お前!?」
「おひさしぶりです~」
マンチが助け、紫陽花、†フィフィ†の三人で避難させた『ジュエ』が管理しているらしく。
「その節はおせわになりました~」
深々と頭を下げるジュエに対し、
「ざっとした説明くれるか?」
と、とりあえず簡潔に説明するようにと促して。
「武器を見せてくだされば必要な素材を申し上げます~。それを持ってきてもらい、少し時間をもらえば「武器錬磨」、「武器鍛錬」の両工程とも終了です~。あ、もちろん並走して行うことは出来ませんよ~? どちらか片方ずつしかダメで~す」
物凄く大雑把な解説が。
「どんな武器でもいいの?」
「だいたいは~」
「んじゃあこれは?」
一応の確認を取ったエルメルが、【王家を守護する従僕の剣】をジュエに見せると。
「それはトパーズが十とシトリンが三十五で「武器錬磨」が可能です~。そして錬磨レベル3以降から「武器鍛錬」が可能です~」
と、即座に返ってくる。
「やっぱ「武器鍛錬」には一定数のレベルが要求されるのか……」
「いきなり武器のアップグレードは出来ないみたいでござるねぇ」
「まぁ、やるでしょ?」
「やらいでか!」
ほんの少し、先の長い道のりが見えて顔が暗くなったエルメルだが、ノリノリの†フィフィ†とマンチに流される形で少しだけ晴れ。
残りの三人が、それぞれ思うユニーク武器をジュエに見せて素材を確認し。
その素材を集めんと、砂漠の鉱石洞窟へと向かうのだった。