変態はいる。悔しいが。
「通報受けたら即警告文が飛んでくる。ごま、覚えた」
「流石にあれはしゃーない。普通に見てて引きかけたもん」
反省の意を込めてか正座でファイリスの前に座っているごま。
――ただし足は人魚の尾びれであるが。
「んで? 君はどうして困ってるの?」
†フィフィ†がファイリスと顔の高さを合わせるように屈み、泣いているファイリスへと問いかけると。
「ぐすっ……。モンスターさんに、お姉ちゃんから借りたペンダント取られちゃったの」
とのこと。
「そのモンスターは八つ裂きからの銃殺刑でござるね」
「幼女を泣かせた。その罪はあまりにも重い」
「お前ら殺意が高すぎるぞ……」
それを聞いたごまイワシとエルメルがメラメラと怒りを燃やしている中、普通に熱くもなっていないマンチが必要な情報を訪ねていく。
「どんなモンスターだったか覚えてる?」
「うん! タコさんだった!」
「タコ……幼女……しょくsy――」
「現段階でツーストライクね」
「何でもないでござるよ」
マンチの後ろでごまイワシと†フィフィ†の必要ない駆け引きが行われているが、これを無視。
「じゃあ、どんなペンダントだったのかな?」
「お花のペンダント―!」
「よし、お兄さんたちが持ってきてあげるよ」
「本当!?」
どうせ受けることが確定しているクエストだと判断し、特に三人の意見を聞かずにクエストを受諾したマンチだったが。
「自分の事『お兄さん』とか言い出しましたわよ」
「現実の年齢いくつだよって話ですわね」
「ていうかゲーム内だから許されているだけで普通に事案の場面よね」
後ろで何やらヒソヒソ話をされていた。
――当然無視したが。
「さて、幼女からペンダント奪って泣かせたタコ狩りに行くぞお前ら」
「これでクラーケンとかだったら笑うけどな」
「クラーケンに襲われて無事に逃げてきた幼女とかただの猛者じゃないですかヤダー」
「防犯ブザーとか、催涙スプレーとかどっかに売ってないかな……」
「何でお前だけ幼女の防犯を考えてるんだよ……」
マンチの号令で全員が町の外へ。
町を出てすぐの場所にはホニラしか見受けられず、少し遠くへ足を向けると……。
「懺悔せよ!! 幼女を泣かせた罪、万死に値する!!」
「憤怒!! 憤怒!! 憤怒ゥッ!!」
「貴様らに拝ませる朝日はねぇ!! 今死ね!! すぐ死ね!! 骨まで砕けろぉぅ!!」
先ほどのごまイワシやエルメルと同じように怒りが有頂天になっている方々が、悪鬼羅刹の表情でタコ型のモンスターを文字通りタコ殴りにしている最中。
「まだドロップするんじゃねぇぞ!! あの子が零した涙の数の百倍は潰してくれるぅ!!」
筋肉ムキムキマッチョマンの変態がタコを殴って味方の方へと飛ばし。
飛んできた地点に置き火球を炸裂させて。
周囲を焦げ臭いにおいが覆ったあたりで剣士の手によりタコがスライスされ。
撃破判定を持ってタコの姿が霧散する。
「よし!! 出なかったな!! 次!!」
ドロップしなかったことを喜び、嬉々として次のターゲットへと向かう後ろ姿を見送った四人は一言。
「何あれ?」
と呟いて顔を見合わせた。
「ていうかドロップしなかったことを喜んでたでござるよ!? 拙者から言わせてもらえば贅沢もいい所なわけですが!?」
「あいつらと獲物の取り合いにならないように別方向に行こうぜ。絡まれると絶対に面倒だし」
「下手すりゃエルちゃんが崇める対象に変わりそうだもんね」
「口調意外完璧幼女だもんな今のお前」
流石にかかわりあいたくない、と先ほどの彼らとは別方向へ歩みを進めた四人は……タコと遭遇した。
いや、タコ型のモンスター、パコスと遭遇した。
「なぁ」
「言いたいことは分かる」
「花のペンダントを取られたって言ってたよな」
「言ってたね」
「頭の上に乗ってるね。それっぽいの」
「一発?」
「ごまが居るのに?」
「さらっと酷いでござるよ」
そう、記念すべき初遭遇で、先ほどの変態集団がタコ殴りにしていたパコスとは、微妙に違う点が見受けられ。
具体的に言えば、頭の上に幼女の者と思わしきペンダントを乗っけていた。
「[流転]」
最初に動いたのはごまイワシ。
先ほど手に入れたばかりのスキルを、使用感を確かめる意味合いも兼ねて発動させ、パコスの背後へと高速移動。
自分の周囲でスキルを使われたことに反応してか、パコスが触手二本で構え――ようとして。
「遅いでござるよ」
その片方は、パコスの背後にいたごまイワシによって切断される。
ようやく自分の背後に敵がいると理解したパコスは、振り返りざまに触手を振るう……が。
「[抜け切り]」
移動と攻撃を同時に行う盗賊の初期スキルにより、反撃と逃走を行うごまイワシを捕らえるは出来ず。
「[抜撃]」
背後を見せたパコスに向け、エルメルが初期スキルを発動。
……と言ってもただ剣を抜いての横薙ぎなのだが、それでもダメージは与えられ。
「[ランダムエンチャント:茶]」
新しいスキルによって土属性が付与された剣で、エルメルの一撃で体勢が横に流れたパコスへと斬りかかるマンチ。
が、踏ん張られ、反撃を与えようとしたパコスへ、
「[ハイキック]」
バク転しながらの蹴りを浴びせる†フィフィ†。
どうやらこの一撃には、微小のスタン効果があるようで。
一瞬怯んだ隙に、エルメルが新スキルを発動。
「[薙ぎ払い]」
先ほどの初期スキルよりも強く踏み込み。
体重を乗せた一撃はパコスを大きく飛ばす。
……しかしそれで倒れることはなく、起き上がったパコスは今度こそ四人と対峙して構えを取る。
ごまが最初に斬り落とした触手はすでに新しい触手が生えてきており。
初めての手ごたえがある相手に、四人は心を躍らせるのだった。
ちなみに、先ほどの攻防で四人が削った体力は――十分の一である。