えへ顔ダブルピース
「弾幕薄くね?」
「これでもうちのギルド総出なんだけど?」
「そもそもプレイヤー数の問題じゃない? ギルメンが何人いるか分かんないけど、そもそも遠距離の高火力スキル持ってるプレイヤーが何人居るかって話で」
巨大なツタンカーメン。それを見上げる形で、少し広場から外れた位置に居たマンチと†フィフィ†、紫陽花は、
ツタンカーメンの顔面目掛けて放たれるスキル達を、花火よろしく観戦中。
戦闘にも参加せず、悠長にしている理由の一つは今の状況で顔面へと到達する手段がないため。
これまでは腕による周辺の建物を巻き込む振り下ろしの際に、腕にしがみつくことで体に登ることは出来た。
――が、今しがた始まった集中砲火から本体を守るためか。
顔の前に両手をかざし、守るようなポーズになったことで登る手段が断たれた。
……足から登ることも出来るだろうが、あいにくマンチも†フィフィ†も紫陽花も、ロッククライムの経験などはなく。
しかも登る目標は山肌よりも滑らかで突起のない砂の体。
脱獄囚はおろか、最強死刑囚でも登れないであろうその体に、チャレンジしようなどという考えはなかった。
「おまたせしました~」
そしてもう一つの理由。
先ほどマンチが図書館に運び込んだジュエの言葉である。
図書館に……もっと言うならば日陰に入った瞬間に元気になったジュエは、対ツタンカーメン用のアイテムがあると鼻息を荒げてまくしたて。
用意するから待っていろと、図書館の奥へと消えていった。
いったい何を……と思いながら待っていると。
持ってきたのは一発の銃弾。
それをマンチが受け取ると。
「それは~、あたったあいてのまほうりょくをふうじるちからがやどされてまして~」
それを待っていたかのように、ジュエが話始める。
「もともとはとある鉱石なんですけど~、それを加工してですね~」
「話長くなるか?」
と、その話が長くなることを見越したマンチが問うと、ぷっくり頬を膨らませ。
「みじかくしますぅ。それをあてさえすれば、あれもたおせるとおもいま~す」
露骨に機嫌を悪くして、投げやりな説明に。
しかし、それでも内容としては十分に伝わるものであり。
「要はこいつが当たればツタンカーメンはどうにでも出来るんだな?」
「そのとおりです~」
念押しを終え、顔を見合わせた三人は、一目散に広場にいるであろう黒曜のもとへと、向かうのだった。
*
「こちらP1。現状の報告をどうぞ」
「こちらP2。額のヒビの規模に変化なしでござる。な~んかピースが足りない気がするでござるよ。オーバー」
「ピースが足りない了解。ダブルピースを行います」
意気揚々と必殺スキルを発動した二人は、まったく変化しないツタンカーメンのヒビの状況と。
打撃属性以外はただ砂を散らすだけだったという事実を再確認して不貞腐れ、お互いに肩のギリギリの場所に座って無線ごっこを行っていた。
「おー取れ高取れ高」
もはや後ろで火器や魔法が飛び交っている事すら忘れさせるほどに呑気に。
ごまイワシに向かって満面の笑顔と両手でピースを向けるエルメル。
――と、狙いが外れた大砲の弾が二人の居た付近に着弾。即爆発。
しかし、まるで予知していたかのような速度で空へと逃げた二人は、それぞれ移動スキルで少しだけ離れた肩に着地。
「危なかったでござる」
「嘘乙。俺でも気づいてたのにお前が気付いてないわけないだろ」
「まぁ、音聞こえてるでござるからなぁ」
配信の画面に、『やったか!?』、や『ざまぁ』と言ったコメントが流れるごまイワシは、そもそも攻撃が来ていたことなど気が付いており。
攻撃に気付いていた点は同じだが、配信内に流れるコメントは心配しているコメントばかりという、ごまイワシと対象的なエルメルが笑う。
「ていうか、ヒビ入れたまではいいけどこっからどうするんだろ」
「もうちょい打撃属性が必要だったりでござるかねぇ? 下降りて呼んでくるでござる?」
先ほどから一向に進展しない状況に、そろそろ飽きてきた二人だったが、そこへ。
「いい感じに暇してますね」
見慣れた鷹が一羽。
「あ、ロリコン鷹」
「事実だとしても実際口に出されるとダメージ凄いのでオブラートに包んでくださいね」
「小さなお子様を好きな鳥ならいいでござる?」
「どっちにしろアウトなので呼ばないで頂けると……」
いい所に暇つぶしが、と目標ロックからのフルバーストをかますエルメルとごまイワシを。
内心冷や汗と涙を流しながら受け流す黒曜。
「それで? 何用でござるか?」
「どうももうすぐ潮目が変わりそうなので、それをお伝えに」
「潮目? ……ここ砂漠だぞ?」
「エルたそ? 流石に素じゃないでござるよね?」
その黒曜が持ってきた情報は、どうにもふわっとしたもので。
具体例がないことを、とぼけたふりして咎めてみようと試みたエルメルだったが、本気で心配したごまイワシに邪魔されてしまう。
「まぁ、私の立場上これ以上は詳しく言えないので」
そんな二人を苦笑して、そうだけ告げてまたどこかへ行ってしまった黒曜を見送って。
「さて、休憩終わりでござるかね」
「小便は済ませたか? 神様にお祈りは?」
「「砂の中でガタガタ震えながら命乞いをする心の準備はOK?」」
どこか悪役チックな目で、砂の中のツタンカーメンへと、届かぬ問いを向けるのだった。