太陽は引きこもりに効果抜群だ
「今のは!?」
「多分、マスターのスキルの音と思う」
あまりの轟音に、思わず音の方を振り返って声を上げるマンチに対し、思い当たる節がある紫陽花が答えると。
「マスターって、あのスナイパーライフル担いでたプレイヤーか?」
「あれ? そうだけど紹介とかしたっけ?」
紹介をしていないはずなのに、琥珀の事だと的中させたマンチは、
「まぁ、やっぱりなって感じ。動きとか、結構それっぽかったし」
まだツタンカーメンが巨大化する前の戦闘で、声を交わしてはいないが何度かすれ違った。
その時、身のこなしや戦い方、あるいは判断などを観察し、かなり慣れているプレイヤーだと認識していた。
だから、ギルドマスターとしてではなく、強いプレイヤーとして認識していたのだが……。
「まぁ、別に隠してるわけでもないし、後で本人が出てきたらまた紹介はするけども。その人が私のいるギルドのマスター、琥珀さんね」
「琥珀……? 琥珀、琥珀……。どっかで見た様な名前だったような……?」
「いや、前回侵攻の時にイエローデザート守った功労者じゃん!?」
名前を聞いてもどこで聞いた名前だったか思い出すことが出来ず、†フィフィ†から説明を入れられてようやくそうだった、と思い出した様子。
そして、
「え? てことは紫陽花ってかなり強いギルドに属してるってこと?」
と驚いた。
「なんで意外そうなの……。私、普通に火力出せるし、ちゃんとギルドに入るための試験受かったんだからね?」
図書館に避難させたNPCから他のNPCの居場所を聞き出し、その場所へ向かいながら会話を続ける三人。
「ギルドに入るための試験なんてあるんだ」
「だって、無いと希望者四桁とかって話だったけど?」
「なしてそないに人気だべ?」
「なんで訛ったし。そりゃあ、強いとこに所属してれば有利じゃん? 手伝ってもらったり、攻略も他より先に進むし」
話の内容は、ギルドマスターの話題から他のギルドのあり方についてに移行しており。
「人数多かったらダメなの?」
「上限あるし、無かったとしても人数多かったら制御出来ないでしょ。制御できないと問題起こす連中が出てくるし、そうなったらブラックリスト入ってクエストとか制限されるって話だし」
聞けば聞いた分だけ、マンチたちへと話していく紫陽花。
「確かにギルドに秩序は大事だが……ブラックリストの話は初めて聞いたな」
「まぁ、PK筆頭に詐欺トレ、過度な暴言やセクハラ、明らかな妨害なんかはブラックリストに入って、色々ゲームの中で制限されて、改善が見込めないならBANされるって噂」
どうやらこのゲームにおけるブラックリストは、アカウントBANの一歩手前。
言ってしまえば、イエローカード一枚状態と同じ状態という事らしい。
「ほーん。こっちにも一回通報された奴いるし、気を付けるように言っとくわ」
「ん? 居るんだ? ちなみに誰?」
主にセクハラ発言で通報された誰かの事を思い出して口にするマンチと、その話題になった瞬間に露骨に目を背ける†フィフィ†。
ちなみに紫陽花の質問は、無言という回答によって返されて、それ以上は触れられることはなかった。
「っと、ここ。宝石店のNPC、『ジュエ』さんがいるのは」
紫陽花が足を止めた場所は、広場からも、通りからも離れた砂丘の影。
ひっそりと隠れるように設けられたその場所は、知らなければ確実に素通りしそうな店であり。
「よくこんな場所知ってんな」
「まぁね。エリアボス出現に町の中にスイッチがあるんじゃないかと歩き回ったから。……あ、この町のMAP要る? 私の手書きだけど」
「マッピング出来んのか。クッソ優秀だな」
「でしょでしょ。っとと、ジュエさ~ん? 居る~?」
明るい笑みをこぼしてピースしたかと思えば、すぐに翻って店の中へと声をかける。
すると……、
「いますよ~」
と、震える声で返事が。
「ひょっとするとボスの攻撃がここに届くかもしれないから避難させたいんだけど、出てこれる~?」
「むりです~」
この『宝石店』を利用したことがあるのであろう紫陽花の呼びかけに、先程よりも弱く震えた声が返ってくると。
「マンチさん、奥入って人っぽい何かを担いで戻ってきて」
「人っぽい何か?」
「人っぽい何か。あの声ってことはジュエさん、干からびる寸前だから」
よく分からない指示をマンチに出した紫陽花。
その指示に首を傾げるが、あまりに真面目に、真剣に告げる紫陽花の勢いに負け、店の窓から侵入すると……。
「うわっ!? なにこ――いってックソが!! 足の踏み場ねぇぞ!!」
何やらコメディのようなドタバタ音やものの倒れる音。
ぶつかる音、壊れる音が響き……。
「居た!! これか!? 人っぽい何か!!」
「多分それ!! 触って少し弾力有ったら間違いなくそれ!!」
「これであってくれ!! もう二度とここに入りたくない!!」
どうやら見つけたらしいマンチが、人であるらしい何かを引っ張って入ってきた窓から飛び出して。
ぼっさぼさの髪、だっぼだぼによれたシャツ。
そして、それらを身にまとった激細のシルエットが砂漠の太陽の下へと晒された。
「あ、まぶしっ」
その直後、人らしき何かはそんなことを呟くと、そのまま後ろにばったりと倒れ、動かなくなってしまったのだった。