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脱人間判定

 上から降り注ぐ様々な武器の形状の砂を、メンバーと交代で凌いで耐え。

 その間にも勝手に上昇するツタンカーメンの腕の砂に導かれること数分。

 顔s達の視界は、とうとう顔面で戦う二人のプレイヤーの姿を捉えた。

 ……訂正しよう。正確には、戦っていることは分かるが、その姿は正直目で追えていなかった。


「……はい?」


 顔sの口から素っ頓狂な声が漏れてしまったことが、目の前で起こっている異常さを物語っているだろう。

 ダサTを着た人魚……つまりはごまイワシは、足場という概念を知らないのかと思うくらいに空中に留まっており。

 重力による自由落下が始まる前に、移動スキル……あるいは、移動を伴う攻撃スキルを発動して位置と高度と落下をリセット。

 時にはあえて重力に身を任せて落下し、壁キックよろしくジグザグに空中を駆け上がってきたりする。

 およそ常識の通じないような動きに思わず呆気に取られてしまう。


「あれ……人間に操作できるんですかね?」


 ギルドメンバーの一人が呟くと、全員の胸中に同じ言葉が浮かぶ。

 無理だろ、と。

 

「どの世界にも化け物は居ます。あのキャラの中身は『引きこもりセサミ』というプレイヤーですが、彼はVRパルクールの界隈でぶっちぎりの世界トップとのことです」


 しかし、顔sがごまイワシの素性を明かすと、それならば制御出来ても不思議ではないのかも、という考えが巡り。


(とはいえ、目も思考も速度に追いつかせるのは大変なはずなんですけどね。きっちり操れている時点で怪物以外の何者でもありませんよ)


 変に安堵したメンバーとは裏腹に、ごまイワシの事を一目置いている顔s。

 ――と、


「お、無事に上がって来れてるじゃん」


 顔s達の前に、軍服を着た幼女が飛ばされてきた。


「いつぞやのパルティのとこのマスターか」

「顔sです。状況を伺っても?」


 名前を憶えていなかったエルメルと、それを察した顔s。

 しかし今気にする部分はそこではなく、現状がどういった状況なのか。

 それを知るために顔sはエルメルへと尋ねてみた。


「顔面が弱点で間違いないんだろうけど、攻撃しても砂が抉れるだけで手応え無し。おまけに抉れた砂は下から供給してるのかすぐに塞がっちまう」

「攻撃方法は?」

「普通にスキル。……あー、追撃含めて物理でも魔法でも殴ってるけど、不思議なことにどっちも有効じゃないっぽい」


 エルメルの返答を受け、顔sがさらに踏み込んだ質問をしてみると。

 最初は質問の意図が分からなかったエルメルも、途中で気が付いてしっかりと顔sが望んだ情報を提供する。


「物理でも魔法でも効果なし……? 攻撃する箇所が違うとか?」

「けど露骨に砂の防御厚いし、顔面だと思うんだけどなぁ」


 とりあえず攻勢に加わろうとエルメルと並走し始めた顔sを追って、ギルドメンバー達も走り出す。

 それをツタンカーメンは感じ取ったのか、エルメルとごまイワシだけで戦っていた時よりも多くの砂虎、砂サソリを自身の体から生成。

 襲わせる……が。


「そんな雑魚が物の数かよ!」

「皆さん、足を止めてはいけませんよ」


 エルメルの一閃と追撃。顔sの斧による攻撃に、一瞬で元の砂へと戻される。


「へぇ、やるじゃん」

「そちらこそ。……プロゲーマー相手にしていた時は火力が無かったようですが、ここまでの短期間で火力も手に入れたみたいじゃないですか」

「まぁ、属性追撃が優秀なもんで」

「属性追撃……なるほど。それも火力を上げる手段ですか」


 ツタンカーメンから出現した砂の人形。その人形が操る砂の鞭を、エルメルは剣で弾き。

 顔sは盾で防いで肉薄。そのままの勢いで盾によるぶちかましを行って砂へと戻す。


「あんまおススメしねぇぞ。効果は高いけど素材集めがゲロい。属性一個つけるのに二時間狩りとかざら」

「フリーマーケットを使えばいいのでは……?」


 きっちりと対応をしながらも続く会話に、段々とギルドメンバーも気が付き始める。

 ひょっとすると、自分いるのギルドのマスターも十分以上に強いのでは、と。


「その手があった……。けど時間さえかければ手に入るものに金出すのも負けた気がするしなぁ……」

「時は金なりという言葉がありまして」

「でもMMOの醍醐味って、くっ(ちゃ)りながら狩ることじゃね? その時間省くのはちょっと違うなって」


 顔面が近くに迫ったタイミングでエルメルが跳躍。

 突如として飛び出す三角錐型の迎撃も[後の先]で対応し、さらに[刃速華断]にて追撃。

 景気よく飛び散るツタンカーメンの顔面の砂。

 そして、その砂が飛び散った地点に突っ込み、


「[地割]!」


 斧を真っすぐに振り下ろす顔s。

 しかし、先程のエルメルの報告通り、砂がさらに飛び散るだけ。

 

「チッ」


 思わず舌打ちをし、その場から離れるために顔sはツタンカーメンの頬へシールドバッシュ。

 その反動で跳び、抉れた部分を埋めようと動く砂から逃れる。

 ――と、


「うん?」

「何ですか?」


 顔sがシールドバッシュを決めた部分。

 その一点だけ、盾の形の凹みが発生していたのだ。


「今まであんなことなかったぞ。凹むなんて」

「何が要因なんでしょう? ……打撃属性とか?」


 今発生した凹みがツタンカーメン攻略の糸口になるかもしれない。

 そう考えた二人は互いに考察を開始。

 そこへ、


「ちょっと一旦休憩させてほしいでござるよ」


 体力が残りわずかなごまイワシも合流し、凹みを確認。


「うん? なんで凹んでるんでござる?」

「打撃攻撃なら凹む説を提唱」

「理解。形状的に顔s殿の盾でござるか」


 エルメルとのほんの僅かな会話でほとんど理解したごまイワシは、顔sのメンバーにいたヒーラーから範囲回復に巻き込んでもらって体力を回復。


「顔sっつったか? 俺とごまで可能な限り援護するから、その盾でぶん殴りまくってくれね?」

「それしか今のところ可能性がなさそうですし、やりますよ」

「拙者とエルたそ、知ってると思うでござるが基本攪乱メインでござる」

「マスター、俺らは何をすれば?」


 【ROOK WIZ】のメンバーも集まり、出現し続ける砂のモンスターを倒しながら、どう戦っていくのかを話し合うのだった。

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