どっちの正解ショー
「どこまで掘り進めりゃいいんだよ!!」
「終わるまででござるよ!」
エルメルとごまイワシ。
二人の攻撃によりツタンカーメンを覆っていた砂が舞い、剥がれて下へと落ちていく。
しかし、何分大きさが大きさであるために、全体から考えれば微量程度の話ではない砂の落下は、特にツタンカーメンを止める理由にはなり得ず。
「しかも視界の端で嫌なものが見えるんだけどよ?」
「奇遇でござるね。拙者もでござる」
しかも剥がした砂は、落下する直前にただの砂から槍の穂先のような形状に変化。
そうして落下していく先には、当然プレイヤーが居るわけで。
間接的に、そのプレイヤー達へと攻撃しているといっても過言ではない状態となっていた。
「誰かが活躍すればするだけ周囲のプレイヤ―に被害が出るって、もしかして正答はこれじゃない的な?」
「分からんでござる。けど今の拙者らに出来ることってこれくらいでござるよ?」
お互いに反対の肩に着陸し、一旦体勢を立て直す。
申し訳程度に湧いてくる砂虎を秒で倒し、また巨大ツタンカーメンの顔面へ武器を振るうと……。
「あん?」
「ん?」
その顔の表面の砂が波打って。
「――っ!?」
「あぶなっ!?」
突如として、顔から円錐状の砂がエルメル達を迎撃した。
――が、エルメルは[後の先]で、ごまイワシは[流転]でそれぞれカウンター&回避。
初見であるにもかかわらず、当たり前のように対応してしまった。
「前兆からそんな早くねぇな」
「体感20fくらいでござるか? 前兆見てから回避余裕でした」
それぞれ対応した後で、今のツタンカーメンの行動についての感想を述べると……。
『こいつらおかしい』
『当たり前に対処したのやーばいでしょ』
『どうして対応できたんですか?』
と、二人の配信では似たようなコメントが殺到。
「どうしても何も、予備動作無しならともかく怪しい動きがあったわけで」
「だったら構えとくのは普通でござるよねぇ?」
そのコメント群にそれぞれ返信するが……。
『普通構えてても反応できないと思うの』
『見てからの反応が早すぎるんだよねぁ』
『強化サイボーグか何か? 脳みそいじられてる?』
と、にわかに信じられない二人の動きに、視聴者も困惑気味。
「なんと言うか、慣れだと思う」
「まぁ、ここまで来といて攻撃が雑魚召喚だけじゃないと思ったわけで、多少は予想の範囲内でござる」
「あれだ、考えるな、感じろってやつ」
その視聴者を納得させられるかどうかは分からないが、とりあえず自分たちの考えを披露した二人だったが……。
残念ながら……というか、当然のようにその考えは大多数の視聴者には理解されない。
理解できたのは、エルメル達と同じ猛者だけであった。
「とはいえ考えること増えたでござるね」
「面倒なんだよなぁ……、なんかもっと楽な方法ねぇか?」
急に増えた対応必須な相手の行動。それを頭の片隅に入れての行動は、動きとスキル回しを多少は縛る。
特にエルメルは敏捷値でクールタイムが他よりも軽減されているとはいえ、ごまイワシのように体力さえ消費すればクールタイムがゼロになるわけではなく。
必然的に[後の先]のクールタイムが終わらなければ、ツタンカーメンの顔には近づけなくなってしまった。
結果、エルメルには暇な時間が出来てしまったわけで。
「何しよっかなー」
肩から突き出してくる砂の槍。湧き出る砂虎と砂サソリ。
それらを回避し、倒しながら[後の先]が使用可能になるまで待っていると。
「……ん? 顔の傷、回復していってないか?」
「ていうか砂が流動的に動いているでござるね。……もしかして段階踏まないとダメでござるのに、拙者らその段階すっ飛ばした説ないでござる?」
ごまイワシとエルメル、二人で削った、剥がした顔面の砂が、見る見るうちに修復されていったのだ。
しかも二人が立っている足場も動き、まるで、砂を吸い上げたように。
「ありえる。……大体こういったデカい敵って、足元から順番に崩すか、脳天とか高い場所にある弱点叩くかの二択じゃね?」
「てことは拙者らハズレ引いたってことでござる?」
「分かんね。けどハズレって決まったわけじゃないし、やるだけやろうぜ」
「合点」
その行動から嫌な予感がよぎった二人だったが、だからと言って地上に降りる気はない。
そもそもまだ倒し方が確立されたわけでも、二人の嫌な予感が当たったとも確定していない。
であるならば、当然降りるという選択肢は消えるわけで。
降りないということは、やることは今までも変わらないということで。
「次何か変化有ったら即報告な」
「もちろんでござるよ」
些細な変化も報告しあうことを確認した二人は、武器を構えると。
「出来れば可能な限り早いタイミングで変化してくれるとありがたいが」
「こっちの意志を向こうが尊重してくれるとは思えんでござるなぁ」
身勝手な思いを胸に、ツタンカーメンの顔面へと突撃するのだった。