ツーアウト
「装備屋さ~ん、卒業祝いの装備を一式くださいな♪」
「今まで男口調だったから大丈夫だったけどノリノリで幼女ロールされると鳥肌立つからやめてくれ」
装備屋に入り開口一番、これまでの素のエルメルではなく見た目通りの幼女を演じたセリフと仕草に、隣にいたマンチが身震いを一つ。
「卒業者の方ですね。ジョルトさんから承っております。こちらをどうぞ」
特に何の面白みもなく渡された装備は、初期装備をほんの一回りだけ強くした程度の装備品で。
装備欄を操作しながら武器の詳細を開いたエルメルは、自分に渡された武器に刻んであったスキルに眉を顰める。
そのスキルの説明には、『装備者のステータスに応じて効果が変わる』という文があり。
敏捷にぶっぱしたにもかかわらず、ステータスに変化がなかった自分にはどんなスキルになるのか。
(どうせ通常攻撃よりも強い程度のスキルだろうけどな)
そう思いながらも、期待は僅か以上にあるもので。
さらに言えば、新しいスキルというだけでワクワクするものだ。
アップデート前の、研究されつくしたスキルたちとは違い、正真正銘未知のスキルたちなのだから。
「新しい武器のスキル、結構悪さ出来そうでござる」
「俺はまぁ、ようやく魔法剣士っぽくなってきたって感じかなぁ」
「モデルのスキルってなんだろって思ってたけど、まぁ、納得かな」
「多分一番面白くないのは俺だろうな」
四者四様。それぞれの反応を見るに、どうやらごまイワシの武器に刻まれたスキルが一番の当たりのようだ。
「ごまはどんなスキルだったん?」
「移動スキル。けど、モーション中にも発動可能ってあるから、攻撃キャンセルとかにも使えそうなり」
「移動で移動をキャンセルし始めたら世紀末始まっちゃう」
「キャラコンお化けに一番渡しちゃならんスキルな気がする」
ごまイワシの武器に刻まれたスキル。
それは、どこか剛の拳よりストロングな柔の拳の使い手を彷彿とさせるぶっ壊れ移動技のような代物で。
流石にそこまで壊れていないと思いたい三人は、そもそもあんな動きを現実ですると酔うのではとの懸念を覚える。
「ごまの三半規管が試されるのか……」
「あ、拙者酔いにはめっぽう強いでござる」
「流石にクールタイムあるから乱発出来ねぇと思うけどな。出来たらごま無双が始まる」
「ご明察の通りクールタイム十秒とか書いてあるでござる。それでも汎用性高いでござるけどね」
「ごまさんのスキル聞くと私のスキル微妙な気がしてきた」
「コリンはどんなスキルだったん?」
流石に調整されていることに安堵して、次は†フィフィ†のスキル確認へ。
「普通に蹴飛ばすスキル。けど、バク転しながらやるらしいよ」
「どこがモデル……」
「や、身体能力高い人多いイメージ無い? バク転とか、前方宙がえりとか出来る人多いイメージ」
「言われてみれば……多いか?」
聞いていて疑問が残るが、それでも†フィフィ†本人はそれっぽいと納得しているらしい。
ただし、
「現在のHPが高い程威力が上がるらしくて、ごまさんがこっちだったらよかったなーと」
付随されている効果は、微妙にかみ合っておらず。
「まぁ、威力追加ならいいんじゃね? 体力の減少でどれくらい減退するか次第だろうけど」
それでも、普通に殴るよりは威力が出るだろうと期待が持てる。
「その点俺のスキルは減退とかなさそうでいい感じだぞ!」
「魔法剣士っぽいとか言ってたね。どんなスキル?」
「どうせ通常攻撃に魔法効果乗せるとかだろ。次俺な」
「待て待て! ていうか当てるな!! せっかくの俺のドヤ顔説明チャンスを潰すなよ!!」
「序盤で魔法の属性定まってないだろうからランダムで属性付与とかでござろうな」
「火、水、風、土の四属性からランダムと見た」
「それぞれに追加効果とかありそう? ダメージだけ追加かな?」
「序盤のスキルで追加効果アリは強すぎるだろうからダメージだけだろ」
悲しいかなマンチのスキルは、取得した本人以外の推測であっさりと説明されてしまい。
何も言えなくなったマンチは、無言で装備屋の角へと移動して体育座り。
「お前らマジで嫌い」
「いい年した奴の拗ねてる姿とかなんも需要ねぇぞ」
「ごめんってば、けど物理と魔法の攻撃出来るってDPSは結構伸びそうじゃない?」
「単純に手数二倍だもんな。魔法弱点とか、属性弱点ならさらに伸びるし」
「挙動とかには影響ないけど、普通に強いよね、多分」
「そうだろそうだろ」
まともにスキルの評価をされ、機嫌を直したマンチは端の舌を擦りながら三人の傍に戻ってくる。
以外にチョロい最年長のようだ。
「ラスト俺だけど、ぶっちゃけ発展途上感が否めない」
「前置きいいから教えるでござるよ」
「まぁ、ステータス依存で効果が変わるスキルらしい」
「今のステータスは?」
「初期より一レベ分強い。敏捷は変化なし」
「見込める効果は?」
「あると思うか?」
エルメルの説明を聞いた三人の意見は……、
「まだ評価出来ないよね?」
「というか、もっと後から手に入れる系のスキルの様な気が……」
「ここで変化があったら先ではもっと効果があることになるでござるからなぁ」
一言で言えば、つまらない。である。
スキル自体が悪いわけではない。
成長次第で効果が変わるなら、自分の戦闘スタイルに合わせたスキルに伸ばせるという事である。
それは非常に魅力的なのだ。
――ただ、習得したのが最序盤というのが悪いのだ。
もちろん、どんなスキルに成長するか分かっているのならば手に入るのは悪くない。
しかし、今現在のスキルは全て未知数。
どれだけ頑張っても全プレイヤーのトップレベルは二桁に届くか届かないか程度。
そんなどんぐりの背比べもいいところな時に覚えたところで、その真価を発揮出来ようはずがないのだ。
「ただ、育てていけば一番化けそうではある」
「だな。何だったら育ったら一生このスキル擦る可能性すらあるわけで」
「そうなれば面白いかもね。エルちゃんって敏捷もそうだけど大器晩成型になりそう」
「見た目幼女だから成長には期待が持てるな」
「幼女成長させるとかマ? エルたそのファン辞めます」
「ごまはロリコンかよ……戸締りしとこ」
「いいか? 戦国時代では十二歳とかで結婚もあり得たでござる。つまりロリコンは先祖代々脈々と受け継がれている正しき性癖でござる」
「通報、プレイヤー相手の過剰なセンシティブな発言……っと」
何やら熱く語るごまイワシを、静かに†フィフィ†は運営へ通報しようとして。
「謝るから通報しないで欲しいでござる」
秒で土下座を敢行した誠意を評し、その手を寸前で止めた。
「受け取った装備は確認しましたか? そう言えば、外で何やら困っている人が居たような」
エルメル達のガヤが終わるのを見計らい、明らかな次のチュートリアルへの誘導をする武器屋のNPC。
その案内に従い、武器屋の外へと出た四人は、武器屋のすぐ近くで泣いている幼女を発見。
【ファイリス・ミ―シュ】と名前の表示されたNPCを見た瞬間、
「イエスロリータゴータッチ!!」
怒涛の勢いでごまイワシがその幼女NPCへと近づいて。
†フィフィ†の手により、ごまイワシを対象とした初めての通報が、行われた。