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見習い魔女アガサの手紙はいつも旅行記  作者: アオガスキー
魔術学校編
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魔術学校編 序章


「ありがとうございました。行ってらっしゃいませ」


 町宿•石田の玄関に出て坂道を降りていくお客様に頭を下げる。都内の大学生だという男女はこれから伏見稲荷へ行くのだという。僕、石田コウタも子供の頃に何度か行ったが、連れ立って出かけていくのを見るとなんとなく羨ましい。


 さて、と。


 腰に手をあてて上半身をよく伸ばす。走ったらすぐに汗ばみそうな良い天気だ。


「アガサ、いいかげん起きろー」


 玄関から土間へ入って左側、高崎1m程の小さな木製の扉をたたく。お客様同士トラブルがあるといけないので、襖がほとんどのこの古民家といえど、ここは鍵がかかるようになっている。


「アガサー?」


 反応がない。

 長旅と時差ボケで疲れているのかもしれないな。もう昼過ぎだけど先に向こうの部屋の片付けをすませるか。綺麗に使ってくれていると楽だけど。


 黒っぽいショートパンツにTシャツ姿で彼女が土間へ出てきたのはそれから30分ほどたってからだった。目を擦りながらうろうろ歩いている。


「おはよう、大丈夫か?」


「うん、お腹すいた…」


 僕も昼はまだだ。荷物は置いたまま出かけることにした。駅の方まで坂を降りてみる。


「あそこに旗看板の出てるお好み焼きって?好きなもの焼くの?」

「あぁうん、好きな具材を選べるよ」


 えんじ色の暖簾をくぐり、鉄板のあるテーブルに2人で陣取る。平日の1時過ぎとあって、すぐに入れて良かった。


「えび、いか、牛、豚…いろいろあるね。桜海老と豚肉にしようかなぁ」


 よく見るとアガサの瞳が少し青っぽく光って見える。よく見ないと気付かない。


「アガサ、メニューも読めるんだ」

「だって魔女ですもの」


 ここまではるばる飛行機できたやつがよくいう。


「豚玉に桜海老トッピングとイカ玉と…」


 野菜とベーコンも焼いてもらうことにした。美術館が近いせいか、客層はどちらかというと上品だ。自然と背筋がすっと伸びたひとが多い。


 材料を全部ごちゃ混ぜにしたタネが鉄板の上でジュウジュウ音を立て始める。


「具入りパンケーキみたいな感じ?」

「あぁ、そういわれてみれば。でも甘くないしソースつけるから味は全然違うと思うぞ」


 テーブルの端を指差してやる。ソース、かつお節、青のり、紅生姜。珍しいメニューではないが、ここを通ると匂いの誘惑に負けてしまう。


 イカ玉の方はネギもたっぷり載せてもらう。アガサは苦い顔をしたので、豚玉のほうはネギ焼きにはしないことにする。


「美味しい。桜海老入れて良かったな、食感がサクサクするし味が締まる感じ。このソースもいいね」


 突然の食レポをはさみつつ、アガサはお好み焼きを慣れない手つきで箸できって食べている。

この魔女は黒髪だけど、きっと日本生まれではないのだろう。


「あ、ねぇコウタ。母屋に全身うつる鏡あったよね?」


 店を出てまた坂をのぼる。そろそろアガサが使っていた部屋も片付けてチェックインに備えないと。


 全身うつる鏡?


「あるけど」

「今日使っていい?移動に必要で。でも人目につかない方がよくて。ほら、板間の方の部屋にたしかあったでしょ?」


 鏡が必要なだけなら服屋の試着室でも良い気がするが、考えつかなかったのかもしれない。プエルトリコのホテルにも頼めばあったのではと思うが、黙っておくことにしよう。どうやらわざわざここ京都に来たのは人目につかない鏡がほしかったということのようだし。ほんと抜けてるな、とも思ったが黙っておくことにしよう。


「で、ビーチの次は今度はどこに行くんだ?登山でもするの?」


 アガサははああああ、とわざとらしくため息をはいて、細い肩をすくめてみせた。

 顔にはっきり、嫌、と書いてある。


「魔術学校。今度セルバコワの森の奥にある魔術学校で1週間の実技研修なの」

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