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見習い魔女アガサの手紙はいつも旅行記  作者: アオガスキー
カリブ海編
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珈琲と炭酸と


「はぁぁぁーーーーー。彼女からの連絡がこんなにも、こんなにもこんなにも待ち遠しいなんて」


 腰から下を炬燵布団につっこんだまま畳に転がり、僕はうだうだゴロゴロと黄色系の炭酸飲料を飲んでいた。一応まだ十九歳なので炭酸飲料とだけ呼ぶことにしよう。

アガサから連絡はなく、つまり95万円の領収書も行方知らずのままなのだ。


カツーン…


 客間のほうの中庭で獅子脅しが傾いたようだ。鹿威しと書くべきらしいが、うちのは大きめでうるさいから獅子脅しで良いだろう。この程度の雨音ではかきけされないんだから。弱い雨音のほかは僕らのしょうもない話声くらいしか聞こえない、しょうもない夜だった。夜明けも近いがこのあたりの住民の朝はさほど早くない。


 明日が大雨予報だからか今夜の宿泊客はキャンセルになり、代わりというにはなんだが高校時代の友人がここ町宿•石田の八畳間にやってきている。


 その伊藤がパキッと炭酸飲料の缶をつぶす。

「はぁ?彼女〜?」

「呼んでみただけだろ、三人称単数!」


 否定してみたが、だがしかし、アガサはたぶん僕の彼女だ。だって彼女にとって(推測で)唯一の同年代の男子友人は僕だから、それはもう彼氏彼女みたいなもんだろう。もう3月だというのに季節外れの強い風がふいて、引き戸がガタガタと揺れたのは気にしないことにする。


「で?その彼女(とお前が思い込んでる友達)は今どこにいるの?」

「プエルトリコ だって」

「笛の虜?」


 だめだ、こいつけっこう飲料を飲んだらしい。


「カリブ海だよ」

「海賊と戦うハイファンタジー?」

「ではなくノンフィクション。メキシコの横、アメリカの南」

「ふーん」


 彼女ならなんでおまえおいてけぼりなんだよ、と声がした気もするが、伊藤は興味なさげにみかんの皮をむいている。厳密にいうと、厚い皮の中の薄い皮をいちいちつまんでむいていた。炬燵の上には他にも枝豆とスルメもあったがほとんど残っていない。


 さて、ほぼ引きこもりの僕にだって男の友人はいる。

 伊藤。高校のときあいうえお順で席が近かった。今は大阪の大学に通っている。その大学は京都府にあるうちからは20分くらいらしい、というといかにうちの民宿が京都府のはずれにあるか関西にお住まいの方にはご理解いただけるかもしれない。


クルックー、クルル!


「!?」


 鳥の鳴き声だ!ハトだ!!


 僕は勢いよく起きあがって中庭に続く引き戸をひいた。白い鳩がお行儀良く立っていて、僕と目が合うと片足をあげて脚につまんだ紙を床においた。羽も紙も全く濡れていない。よし、複数枚紙がありそうだ…領収書入っててくれ、、、!!


クルッ、クルッ


 そのまま鳩は歩いて炬燵の近くまでやってきて、伊藤がみかんを一粒やっている。僕は戸をきちっと締めるとバッと手紙を開いた。

 何何…?何かはさまっているな、いいぞ。、、ん?1枚めはイラスト?

 天井まで届く白い本棚はびっしりと色とりどりの本がつまっている。白っぽい背表紙がやや多いか。その手前に西洋アンティーク調のソファ、オードリーヘップバーンに似た女性の顔がドンとプリントされたグレーのクッションが2つ。少女趣味のガラスの丸テーブルに白い椅子のセットが3セット。テーブルには薔薇が一輪ずつ飾られており、グラスに飲み物もある。ピナコラーダというやつかもしれない。


 おい、待って、領収書ははさまっていないぞ、まさかアガサ気付いてないのか!?


 バサバサと手紙の枚数を確認する。便箋が3枚、色鉛筆がきのイラストが3点。残り2点のイラストのうち1点はホワイトボードのようだ。黒とオレンジの2色のペンかチョークのようなものでメニューが書いてある。


JULIETA LATTE

ROMEO ICE LATTE

HAMLET MACCHIATO

HEMINGWAY AMERICANO

MAD TEA PARTY

ALICE APPLE TEA


 それぞれ価格とイラストも描かれている。税別だそうだ。ラテから薫る湯気がそそる。喫茶店か?


 ふむ。気を取り直してもう一点のも見てみよう。天幕に囲まれたベッド、クリスマスツリー、暖炉。絵本の中の世界のようだがサイズがおかしい。三角屋根の小屋もあるが、すべて大人の膝丈ほどの高さのようだ。椅子に座っている男性が端に描かれており、遠近法が狂っているのを確認できた。


 僕が机上においたイラスト3枚を伊藤もマジマジと見ている。


「あんまりカリブ海っぽくないな」

「昨日は水着でビーチだったよ」


 伊藤がどんな顔をしているかは視界にいれずに、僕は引き続き便箋のほうに目を通す。

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