第92話 校内スキャンダル
こんにちわ!
潜入捜査を見事成功させた真樹達。
果たして、どうなるのか?
沙崙の体を張った潜入捜査の翌日、都内にあるオリエント通信のオフィスは朝からいつにも増して大忙しだった。
「準備できたか?」
「あともう少しです!」
「部長、原稿出来上がりました!」
「よし、すぐに発行だ!」
こんな感じである。理由は勿論沙崙のいじめ問題を取り上げて、世間に発信する為だ。現在はネット記事の作成やオリエントタイムズへの記事の差し込みへの最終調整をしている所だった。そして、作業を終えた飯田がその場にいる全員に聞こえるように言った。
「準備完了です!いつでもいけます!」
「よし、早速アップしろ!オリエントタイムズもの方も出来上がり次第、大至急各所に配送だ!」
部長がそう言った。そして、飯田は作成していたネット記事をアップし、沙崙の撮影していた映像のデータをマスコミ各所にメールで送信した。全てを終えた飯田はホッと一息つきながら言った。
「これで、あの子が救われることを願う…。」
軽く手を合わせた後、飯田はコーヒーを一口飲んで関係各所からの問い合わせに備えたのだった。
一方その頃大谷津学院にて。沙崙は昨日と同様に普段通り登校し教室に入ってきた。そして案の定、クラスの中心人物である茉莉奈に絡まれている。
「陳さん、また来たの?みんな台湾に帰れって言ってんのに、その要望無視する訳?」
「どうでもいいでしょ。」
「何よその言い方!もういいわ、懲りないならもっと痛い目に遭わせてあげようかしら?」
茉莉奈のその言葉を聞いた時、沙崙は心の中で笑った後に棘のある言い方で返答した。
「そう。でも痛い目に遭うのはどっちかしらね?」
「ど、どういうことよ?」
茉莉奈が怪訝な表情でそう言った時、丁度担任の金町が入ってきた。
「みんなおはよう。じゃあ、ホームルーム始めるわね。」
茉莉奈も金町も、今頃ニュース記事のネタにされているなど知る由もなかった。沙崙の方も、茉莉奈達に仕返しができると思うと、心の中では少し嬉しく思っていたのだった。
昼休み。沙崙は真樹達と共に屋上にいた。そして、真樹はスマートフォンを開き、ネット記事を検索していた。
「お、出てる出てる!」
真樹が嬉しそうにそう言って、スマホの画面をその場にいた全員に見せる。そこには飯田が作った記事が『千葉県の高校で留学生いじめ。加害者生徒は日常的に暴行、暴言も。』と言うタイトルで掲載されていた。記事を読むと、茉莉奈を中心に暴力や人格否定されたこと、担任である金町が手助けすらしなかったことなどが書かれている。
「やった。これで沙崙の事を知ってもらえれば八広さんたちもただじゃすまないし、沙崙も救われる!」
「流石飯田さん。これがプロのジャーナリストか。俺も見習わなきゃな。」
慶と杜夫が嬉しそうにそう言った。そして、美緒も微笑みながら続ける。
「これで国際科の化けの皮がはがせたわね。金町先生も八広さんも、態度が好きじゃなかったからいい気味よ!」
どうやら美緒も金町や茉莉奈の事をあまり好いてはいなかったらしい。その後に、武司と伸治が感心した表情で言った。
「やっぱ真樹すげえな。お前がオリエント通信に電話しなかったら今頃この事件隠蔽されてたぜ。」
「陳さんも良かったな。真樹のやつ、最初は女の留学生が来るなんて嫌だなんて言ってたのに、味方についてくれて。」
「おい、伸治!今頃それ言うなよ!」
真樹は春先に自分が言っていたことを伸治に言われ、照れ隠しに伸治の頭に軽くチョップを入れた。沙崙の方はクスクスと笑った後、立ち上がってその場にいた全員にお辞儀をした。
「みんな、本当にありがとう。最初の頃はもう死にたいって思ったけど、みんなが仲よくしてくれてすごい嬉しかったわ。本当に感謝してもしきれない。」
沙崙の言葉に一同は微笑んだ。すると、真樹はゆっくりと立ち上がって沙崙に言った。
「礼を言うのはまだ早いぜ、陳さん。八広達が地獄に落ちてもがき苦しむのを見届けるまではな。」
真樹のこの言葉は、数時間後に現実の物となるのだった。
放課後。大谷津学院の周辺は大騒ぎになっていた。ニュースを聞きつけたマスコミ各社が大勢大谷津学院に押し寄せてきたのだった。職員室では一人の教師が慌てた様子で駆け込んできた。
「た、大変です!学校に報道関係者が大勢来ています!」
「な、なんだって?」
「どういうこと?」
慌てふためく教職員達。一方、立石だけは何か察した様子で心の中で呟いた。
(湯川君の仕業ね…。全く、あの子は極端なんだから。)
立石は微笑みながら、荷物をまとめて職員室を後にしたのだった。
一方その頃、校門では帰宅しようとしていた金町が大勢の記者達に捕まり、詰め寄られていた。
「あなたが金町先生ですね?」
「留学生が虐められていたのを把握していなかったのですか?」
「しかも助けるどころか、留学生の子が問題起こすのが悪いって注意したんですよね?」
「どういうことか説明願います!」
金町の顔には冷や汗が流れ出ていた。茉莉奈と沙崙との間に起きたトラブルを金町は最初、生徒同士のちょっとした喧嘩だと軽視していた。しかし、沙崙の隠し撮りで動かぬ証拠をつかまれた挙句、こんなに大騒ぎになるとは思ってもいなかった。金町はイライラしながら記者達に怒鳴りつける。
「あーもう、うるさい!担任教師だって、生徒の事全部把握できる訳ないでしょ!私はただ揉め事を注意しただけです!それに、私は教師なんで、たかが生徒のプライベートまで面倒見切れる訳ないでしょ!」
逆上した金町はそう言い返したが、この発言はさらに火に油を注ぐ結果になった。
「今、たかが生徒って言いましたよね?」
「教師としてその発言はどうなんですか?」
「教えられている生徒さんたちの事を考えたことがあるんですか?」
「やかましい!あんまりしつこいと、あんた達の局にクレーム入れてやるから!」
それだけ言うと、金町は走って逃げだし、記者達はそれを追いかける。その様子を、茉莉奈とその取り巻き達が顔を真っ青にして遠くで見ていた。
「な、なんでこうなるの…?カメラで撮られてただけじゃなくて、こんな騒ぎになるなんて…。」
茉莉奈は休憩時間にネットニュースの動画を見て愕然とした。顔こそ隠されていたが、ニュースで使われていた映像には学校の制服と沙崙に絡んでいる自身の声がはっきり撮られていたからだ。勿論、その映像を撮影したのは沙崙である。青ざめる茉莉奈を、友人たちが動揺しながらも慰める。
「だ、大丈夫よ!マスコミはもう向こうに行っちゃったし…。」
「そうそう、今のうちに逃げかえれば多分ごまかせるはず…。」
「そ、そうね。帰るわよ。」
友人たちの言葉を受けて、茉莉奈は足早に帰宅した。しかし、もう手遅れだった。記者達が色々な人物にインタビューして行くうちに、今回の虐めの首謀者が茉莉奈だということが発覚するまでそう時間はかからなかった。帰宅すると、家の前には大勢のマスコミが茉莉奈を待ち構えていた。
「八広茉莉奈さんですよね?」
「留学生の陳さんを気に入らないってだけで自殺寸前まで追い込んだそうですね?」
「国際交流が目的のクラスなのに、どうしてそんなことしたんですか?」
記者達に問い詰められたが、茉莉奈は返す言葉も無かった。ごまかしようにも、既に証拠映像が世間に出まわってしまっているので隠蔽のしようもない。やけになった茉莉奈は記者達を怒鳴りつけた。
「知りません!私から言う事なんて何もありません!つかれてるんで、家に入らせてもらいます!」
茉莉奈は記者達を振り払うと、足早に家に駆け込む。すっかり疲れ切った茉莉奈だったが、リビングに行くと茉莉奈の母親が鬼の形相で茉莉奈に声をかけた。
「お帰り、茉莉奈。ねぇ、これはどういうこと?」
「え…?」
母親はテレビの画面を指差す。丁度夕方のニュースが放送されていたのだが、そこでも沙崙が撮影した映像が使われ、茉莉奈が沙崙に暴言を浴びせている所が流れていた。母親は険しい表情で茉莉奈を問い詰める。
「さっき帰ってきたらいきなり報道記者にあんたが留学生いじめをしていたってことを言われて、慌ててテレビを付けてみたら…。あんた、なんてことしてくれたのよ!これじゃ、私恥ずかしくて外歩けないじゃない!」
「お、お母さん…。そ、それは…その…うぅ…うわぁぁぁん!」
追い詰められた茉莉奈はその場で泣き崩れるしかなかった。今まで沙崙の事を散々泣かせていた茉莉奈が、今度は沙崙に仕返しによって大泣きする日が来るのは何とも皮肉なことだった。
こんにちわ。
またも大騒ぎになってしまいました。
この騒動、まだまだ続きます。
お楽しみに!




