第8話 証明できない!
おはようございます!
騒ぎが大きくなっていますが、真樹に打開策はあるのか?!
丘ユカリの頭の怪我について、担任の立石美咲により本人及び真樹に事情聴取が行われた。しかし、双方の主張は食い違っている上に決定的な証拠が無いので問題解決には至っていない。それでも、ユカリの頭には大きなタンコブがあることは事実であるし、真樹がフリーバッティングの際に何本か場外に飛ばしたことに関しても嘘ではない。無論、こういう場合は話し合いによって和解させるのがセオリーではあるものの、真樹は身に覚えが無い上に女性に対して頭を下げることはしたくないし、ユカリもプライドが高い性格だから真樹の主張を受け入れる訳にはいかなかった。そんな状態で真樹のクラスは授業を進められたが、ただでさえ殺伐としている教室内はさらに険悪な雰囲気となった。放課後、全ての授業が終わったのだが、真樹とユカリは残されて再び職員室で事情聴取を受ける事になった。
「二人ともごめんね。だけど、担任としてこの状態を放置する訳にはいきません。分かったわね?」
「はい。」
「分かりました。」
真樹とユカリは立石の問いかけに対してそう答えた。二人は隣に並んでいるものの、その間には目には見えないがとてつもなく険悪なオーラが漂っていた。そして、ユカリは真樹の方を見ながら言った。
「あ~あ、どっかの誰かさんのせいで怪我させられた上に居残りさせられちゃった。とんだ厄病神と同じクラスになっちゃったわね。」
ユカリは喧嘩腰で真樹にそう言い放った。だが、真樹もこれに黙っている訳にもいかず、溜息交じりに言った。
「何でもかんでも人のせいにするなんて、本当に顔はいいけど人格はカスだね。俺だってお前みたいなのと同じクラスなんていやだわ。」
「何ですって?!加害者のくせに!」
「うるせぇ!証拠も無いのに犯人に仕立て上げてんじゃねぇ!」
再び口論になる真樹とユカリ。それを見ていた立石も堪忍袋の緒が切れたのか、自身のデスクをバン!と叩きながら二人に言い放つ。
「あんた達!いい加減にしなさいよ!これからはっきりさせようとしてるのに、こんなに揉めてばかりじゃ二人とも反省文書かせるわよ!」
いつにない剣幕で二人を怒鳴りつけた立石に対して、二人は「すいません。」と頭を下げながら謝った。
「分かればいいわ。これからもう二人来るから待っていなさい。」
立石がそう言うと職員室のドアが開き、二人の人物が入ってきた。
「お待たせしました。」
「失礼します。」
入ってきたのは数学教師で野球部監督の関谷と、真樹が場外を撃った時に外野を守っていた2年生部員の堀切である。
「関谷先生、堀切君。ごめんなさいね、忙しいのに。」
「いえいえ。野球部の問題でもあるので早急に解決しなければなりません。」
「お、おい。湯川、大丈夫か。大変なことになっちゃったな。」
関谷と堀切もこの状況に対して焦りの色が見える。早速立石はその二人から事情聴取を始めた。
「関谷先生。湯川君が打撃練習をしていた時の状況を教えてください。」
「はい。湯川が打席に入ったのは一番最後だから…大体5:40位ですかね。結構飛ばすもんで球を拾うのが大変で多少時間が食い込みかけました。場外に飛んだ打球も何本かありましたし。しかし、誰かに当たったというのは…バッターボックスの近くにいたので僕は確認できませんでした。ごめんなさい。」
「なるほど、分かりました。じゃあ、次は堀切君。話してもらえるかしら?」
関谷の事情聴取の後、立石は堀切の方にも聞いた。
「はい。確かに場外に飛んだ湯川の打球を拾いに行ったのは俺です。いつものように拾っていましたが、特に変わった様子はなかったですね。その時のグラウンドの外の通路は放課後でしたから人はあんまり見かけてませんでした。なので、こんなことが起きていたなんて言われるまで知らなかったです。」
「その言葉にウソはないわね、堀切君。」
強張った顔つきで堀切に問う立石。堀切はそれを見て少し怖いなと思いつつ、正直に答えた。
「本当です。本当に僕は誰も見てません!」
堀切のその言葉を聞いて、真樹は心の中で「ほらみろ」とでも言いたげにうんうんと頷いた。しかし、これを見てユカリが納得する訳がなった。
「待って下さいよ!現に私は硬球が頭に当たって怪我してるんですよ!その時に打席に立った湯川君を見てますし、時間も一致してます!私は湯川君の球が当たって怪我してるんです!なのに謝りもしないこいつを野晒しにしていいでんすか、先生?!」
「お、落ち着いて。丘さん。」
立石に詰め寄るユカリを見て、関谷は慌てて仲裁に入る。堀切の方は唖然としているが、真樹はいつも通り冷静だった。そして、ユカリは職員室の床を八つ当たりするように地団太踏むと、真樹を指さしながら言った。
「私はこの男を一刻も早く処分してほしいんです!だけど、もう埒が明かないのでこっちにも考えがあります!じゃあ、失礼します!」
「あ、ちょっと!丘さん!」
立石の制止も聞かず、ユカリはそのまま怒って職員室を出てしまった。それを見た真樹は鼻で笑いながら言った。
「フン。証拠不十分で俺を処分できないと分かったら八つ当たりか。どこまでも精神的に未熟だな。」
「湯川君!確かにまだ丘さんの怪我の真実が明かされた訳じゃないけど、あなたの無実が証明された訳でもないのよ!それを忘れないで!」
「…はい。」
真樹の方も少々不満げだった。そして、関谷と堀切も心配そうに真樹に声を掛ける。
「湯川。正直なところ犯人が分かってないけど、俺はお前を信じてやりたい。だから早く解決して、また楽しく練習しよう。大会も近いんだし。」
そして、関谷の励ましの後に堀切も声を掛ける。
「湯川。俺は何も見てない。だからお前が犯人じゃないと思ってる。俺は信じてるからお前も俺を信じてくれ。」
その言葉を聞いた真樹は少しほっとした表情で答えた。
「先生、堀切先輩。ありがとうございます。だけど、決定的な証拠が無いので何とか証明したいです。」
そう言った真樹は普段通り表情一つ変えなかった。だが、内心真樹も自分じゃないという証明ができていないことを少し不安に思っていた。推理ドラマの如く現場に残った証拠を集めて、自分の無実をどう証明するのかまだ悩んでいる。結局この日もユカリの怪我が真樹が原因じゃないという事が証明できず、呼び出された3人は職員室を後にしたのだった。
おはようございます。
この日も解決できませんでしたが、ユカリの考えとは一体何なのか?
次回もお楽しみに!