第86話 沙崙に救いの手を
おはようございます!
最近天気悪いですね。
沙崙の飛び降り騒動の翌日、真樹と共に病院に行った立石の計らいで彼女はこの日学校を休んでいる。昼休みの時間、真樹達が屋上で真剣に話し合っている頃だった。
「やっほー、遊びに来たよ。」
国際科である2年D組の教室の入り口でそう言ったのは裕也だった。裕也の姿を見た瞬間に教室内の女子生徒が笑顔になったのは言うまでもなく、茉莉奈に至っては真っ先に駆け寄ってきた。
「わーい、裕也君が来た!ねぇねぇ、早く入って!」
「やぁ、茉莉奈ちゃん!髪型変えた?良く似合ってるよ!」
「きゃー、裕也君に気付いてもらえて褒められた!嬉しい♡」
裕也に髪型を褒められてはしゃぐ茉莉奈。そんな様子を見て、他の女子生徒もよってくる。
「茉莉奈ずるい!」
「裕也君を独り占めしちゃだめよ!」
「裕也君、こっち来て私達とお昼食べよう!」
「うん、分かった。ありがとう!」
裕也は茉莉奈とその友人たちと一緒に昼食をとることになった。椅子に座って食事をしながら談笑していたのだが、案の定あの話題が出てきた。
「そう言えば、あの留学生今日いないね。なんか昨日屋上から飛び降りたみたいだけど?」
裕也がそう言うと、茉莉奈が答えた。
「そうよ。まぁ、あれだけ痛めつければ普通もう学校来れないけどね。まぁ、あいつはもう来なくていいけど。」
昨日の騒動に関しては、勿論沙崙が在籍する国際科にも伝わった。しかし、誰一人として彼女の事を心配する声は無く、担任の金町はホームルームで「陳さんは欠席です。」としか言わなかった。さらに、茉莉奈の友人たちが続ける。
「屋上から飛び降りた所を湯川が助けたらしいよ。」
「え、湯川が?マジでキモいんだけど。」
「留学生もいなくていいけど、湯川はマジで消えて欲しい。」
真樹が助けたことが話題に上がると、一斉に真樹に対する悪口合戦が始まった。これに茉莉奈と裕也も便乗する。
「湯川のやつ、余計なことして…。あーもう嫌だ!あいつのこと考えるだけでお昼御飯が不味くなっちゃう!」
「俺も同感。陳さんの巻き添えで湯川が死んでくれたら一番嬉しかったのにな!」
好き放題言う茉莉奈達。しかし、このまま黙っている真樹ではなかった。
放課後。真樹は慶、杜夫、美緒、武司、伸治と共に沙崙のお見舞いに行くことにした。全員で歩いて沙崙が済んでいる団地へ向かったのだが、到着した時に真樹が何かに気付いた。
「ん?なぁ、あれって。」
真樹がそう言って指差した方向には、沙崙の部屋に向かう階段の前でヨレヨレの服を着た肥満体形の男性が落ち着かない様子でうろうろしているのが見えた。それを見た慶と美緒が眉を顰めながら言った。
「もしかして、あれが陳さんに付きまとっている人かな?陳さんの部屋の方うろついてるし。」
「えー、あんなおじさんに付きまとわれて可哀想。早く助けてあげたいわ。」
それでも真樹達は沙崙の部屋に向かって足を運び、先程からうろついている男性、山田に声をかける。
「あの、すいません。」
「は、はいぃ!」
真樹に話しかけられた山田はびっくりした様子で返事をした。真樹は落ち着いた様子で続ける。
「陳さんの部屋ってこの上であってますよね?」
「そ、そうでございますが彼女はあまり元気が無いようです!何かあったら僕がどうにかしますので、それではこれで失礼します!」
山田はそれだけ言うと、逃げるように自分の部屋に戻った。その様子を見ていた杜夫、武司、伸治は少し引きつつ言った。
「間違いなさそうだな。あいつ、どう見ても怪しいわ。」
「僕がどうにかしますって、お前は一体誰なんだよって感じ。」
「陳さんの為にも、早めにどうにかしてあげたいな。」
そう言いながら沙崙の部屋の前に到着した真樹達。真樹がインターホンを鳴らすと、少し間を置いて沙崙が出てきた。ずっと寝ていたのか寝巻を着ており、髪の毛も寝ぐせだらけだった。
「湯川…君?」
「ああ。昨日の今日であれだけど、見舞いに来た。ちょっと人多いけど大丈夫か?」
「…。入っていいわ。」
沙崙はそう言って真樹達を部屋に招き入れた。部屋に入ると沙崙は蒲団を畳んで絨毯を敷き、そこに全員を座らせた。そして、真樹が口を開く。
「昨日はお互いに大変だったな。今は大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫。少し落ち着いた。」
立石が1日ゆっくり休ませたからか、沙崙の顔色は前日よりも良くなっていた。その様子を見て真樹は少し安心したのか、話を続けた。
「そういえば、俺以外は初対面だったよな。みんな俺の友達だ。」
真樹がそう言うと、順番に自己紹介が始まった。
「初めまして。僕は鬼越慶。真樹と同じA組だよ。趣味は身体を動かすことで陸上部所属。宜しくね!」
「俺は公津杜夫です。同じくA組。写真部所属。趣味はアニソンを聴くこと!よろしく!」
「私は菅野美緒。同じくA組よ。バレー部所属で趣味は読書とスポーツ観戦。宜しく!」
「俺は中山伸治。B組だよ。野球部所属でポジションはピッチャー。よろしくね!」
「同じくB組で野球部所属の前原武司。因みにポジションはセンターだよ!以後お見知りおきを!」
全員の自己紹介が終わると、今度は沙崙が自己紹介を始めた。
「みなさん、こちらこそ初めまして。私は陳沙崙。台湾の台南と言う所から来ました。日本のアニメや映画、歌が好きで留学しに来たのですが、どうして今こんな状況になってしまったのか分からなくて困っています。」
沙崙の言葉を聴いた一同は、何とも言えない表情になった。真樹は立石と一緒に遺書を読んだのだが、何故茉莉奈がここまでするのか理解しかねていた。すると、慶が話し始める。
「話は聞いたよ、陳さん。八広さんも酷いし、金町先生も知らん顔してるんだってね。ホント許せないよね。」
美緒も続く。
「さっき、ヨレヨレの服着た変な男があなたの部屋の前をうろついてたけど、その人が陳さんをつけまわしているの?」
「う、うん。」
沙崙はコクコクと頷いた。すると、杜夫が言った。
「これで証拠は結構揃ったんじゃね?どうすんだ、真樹?」
杜夫の問いに真樹は答えた。
「決まってんだろ?成敗だよ、成敗。だから、今から行くぞ!」
「行くってどこに?」
「教えてくれよ、真樹。」
伸治と武司は目が点になった状態で真樹に聞いた。真樹は真顔で答える。
「俺らだけでできることに限界がるからな。しかるべき機関にやってもらうんだ。陳さんもお疲れの所悪いけど、一緒に来てもらって大丈夫かな?」
「わ、分かったわ。」
こうして真樹達は出かける準備をした。真樹の茉莉奈に対する反撃が今始まろうとしていた。
おはようございます。
真樹の反撃とは一体何なのでしょうか?
次回をお楽しみに!




