第85話 浮き出た真実
おはようございます!
自殺未遂後、学校ではどうなったのでしょうか?
前日、沙崙が屋上から飛び降りた所を野球部の練習中だった真樹が間一髪の所で救出した。その後、真樹と沙崙は立石が病院へ連れて行き、二人共体に異常は無かった。しかし、沙崙の身体には以前から不自然な生傷と内出血が見られ、更に立石と真樹が事情を聞いた所、沙崙が持っていた遺書により国際科内でのいじめと寮として借りている団地の住人からストーカー紛いの行為を受けていることも発覚した。そして、事情を知った真樹と立石が黙っている筈もなかった。
「さーてと…学校は今騒いでいるのかな?」
朝、真樹はいつも通り成田駅に到着した。昨日沙崙を助けようと植え込みにダイビングしたものの、幸い掠り傷程度で日常生活も野球部の練習にも支障は無い。改札を出ると、真樹は声をかけられる。
「真樹!」
振り向くと、そこには丁度駅に到着したばかりの慶がいた。しかし、慶はとても心配そうな表情で真樹に近づき話し始める。
「真樹、大丈夫だった?武司から聞いたんだけどびっくりしたよ。」
「ああ、大丈夫だ。先生に病院に連れてかれたけど、どこも異常は無かったし。」
「それならよかったけど、心配させないでよ。聞いた時心臓飛び出るかと思ったんだから。」
「それは悪かった。でも、そうしないと人が死んでいたかもしれないからな。」
武司から携帯電話で真樹の事を聞いていた慶は、連絡を受けた直後は気が気でなかった。真樹が無事だと分かって安心したものの、慶の表情はまだ暗く、あの話題を切り出した。
「陳さん…屋上から飛び降りたって…どうして?」
「八広のせいだよ。あの野郎、自分が気に入らないからって陳さんに相当酷い仕打ちしてたみたいだぜ。」
「何それ、酷くない?八広さん美人だけど、なんかそれを鼻にかけてるっているか人を見下してる所あるよね。」
「とりあえず、前から俺八広嫌いだったけど今回の件で完全に処刑決定だな、あいつ。」
そんなことを話しながら二人は学校に到着。すると、既に到着していた杜夫が心配そうに駆け寄ってきた。
「真樹!大丈夫か?!」
「おお杜夫。心配すんな。俺は平気だ。」
「よかった。しかし、飛び降り自殺を阻止するなんてやるじゃねぇか。」
「俺も死にかけている人を見捨てるほど悪魔じゃない。まぁ、あの時は身体が勝手に動いていた部分もあったが。」
真樹と杜夫が話していると、後ろから美緒もやってきた。
「おはよう湯川君。昨日の事聞いたけど、どういうことかしら?」
「何だよ、菅野もかよ…。さっきから俺ずっと質問攻めなんだが…。」
「何だよって何よ?うちのクラスメートが巻き込まれたんだから委員長として聞くのは当然でしょ?」
美緒にそう言われた真樹は、溜め息をつきながら答える。
「話すと長いし、笑えない事情ばかりだ。昼休みの時に話してやる。」
表情を曇らせてそう言った真樹。重い空気が漂う中、真樹の一日は今日も始まる。
一方こちらは職員室。沙崙の担任である金町は、教頭先生に呼び出されていた。
「金町先生。あなたのクラスの生徒が自殺未遂を起こしたそうですが、何か心当たりは?」
「私は何も知りません。因みに誰なんですか?」
「留学生の陳沙崙さんです。本当に何も聞いてないんですか?」
教頭先生の言葉を聞いた金町は溜め息をつき、呆れ顔で言った。
「陳さん…全くあの子は。この前も八広さんと喧嘩するし、教科書や机は汚すし、どこまで問題起こせば気が済むのかしら?本当に勘弁してほしいわ。」
「そう言う言い方は無いんじゃないですか?金町先生。」
不満そうに吐き捨てる金町に対して、そう言ったのは立石だ。金町だけでなく、今回の騒動の目撃者として立石と関屋も呼ばれている。さらに、関屋も続いた。
「先生がもっとしっかり見ていれば今回の騒動は阻止できたかもしれないんですよ?真樹のお陰で助かりましたけど、自分のクラスの生徒が死にかけたのにどうしてそんなに他人事みたいに言うんですか?」
自分よりも後輩の立石と関屋に問い詰められ、金町の苛立ちは増幅していった。自分が悪者のように言われたことに対し、不服そうな顔で二人に言い放つ。
「はぁ。立石先生、関屋先生。私前に言いましたよね?うちのクラスに対して余計な口出さないで下さいって。しかも、担任の私に病院に連れて行ったことも言わず、さらに相談もせずにうちのクラスの生徒の事情を根掘り葉掘り聞くとか、どういうことなんですか?」
「確かに飛び降りたのは陳さんですけど、それを阻止したのはうちのクラスの湯川君です。自分のクラスの生徒が巻き込まれた以上無視はできませんし、自殺未遂の目撃者なら事情を聴くのは当然だと思いますが。」
「それに、僕が連絡した時に金町先生電話に出なかったじゃないですか。だからこうして今説明しているのに、その態度はあんまりですよ。」
あくまで金町は自分は何も悪くないと言い張る。そして、その金町の態度に立石と関屋も怒りが込み上げ始め、ヒートアップしそうだった。そこに教頭先生が割って入る。
「まぁまぁ、3人とも一度落ち着いて。それで、湯川君と陳さんは?」
「湯川君はいつも通り登校してます。陳さんは私が落ち着くまで休むように言いましたので今日は欠席です。」
立石は前日に病院から寮である団地まで沙崙を送り届けた時、無理をさせまいと休むように伝えていた。そして、それに対して金町がさらに不満を募らせる。
「はぁ…また余計なことを。陳さん本人に説明して貰いたかったのにもういいわ。」
金町がそう愚痴を言った所で始業のチャイムが鳴った。そして、教頭先生が言った。
「とりあえず、今日はこの辺にしておきます。ホームルームに向かって下さい。」
朝から不穏な空気が流れる職員室だったが、様々な思いを噛みしめながら立石達はそれぞれの持ち場に戻った。
そして昼休み。真樹達は珍しく屋上で昼食をとることにした。因みに他にいるのは慶、杜夫、美緒、武司、伸治だ。昨日の騒動の事情を説明する為なのだが、あまり大っぴらに話すのもどうかと思い、人気が少ない屋上で話すことにした。そこで真樹は立石が立ち合った病院での検査の事と共に、沙崙が持っていた遺書の内容を説明した。それを聞いた全員が絶句していた。
「そ、そんな…酷い。何も悪いことしてないのに、気に入らないからってそんなことするなんて。」
「八広さん綺麗だし密かに憧れてたのに、そんな怖い一面があるなんて思わなかった。」
慶と杜夫は真樹が話した事実に恐怖を覚えた。更に美緒も続ける。
「何がきっかけでこんな事になったのかまだよく分からないけど、国際交流が目的のクラスで留学生いじめが起きたらもうおしまいね。」
美緒もすっかり呆れてしまった。武司と伸治は事実を知り、顔が少し青ざめている。
「ヤベーな国際科。そんなに闇深いとは思わなかったぜ。」
「女社会って怖いな。まぁ、女子が多い学校に通っている俺らが言えたことじゃないかもだけど。」
さらに真樹はもう一つ付け加えて説明した。
「国際科の虐めだけじゃなく、陳さんは寮として借りている団地の住人のおっさんから付きまとわれているらしい。いつもご飯行こうとか学校まで送っていこうとか言われて、断るとキレて因縁をつけるそうだ。」
それを聞いた瞬間、女性である慶と美緒が顔を顰めながら言った。
「えー、何なのそいつ?最低じゃん!」
「やだぁー、気持ち悪い!陳さん可愛そう。」
男性陣も完全にドン引きである。そして、杜夫が真樹に聞いた。
「で、今回お前はどうすんだ?黙って見ているとは思えないんだが?」
「とりあえず、八広がこのままのうのうとしているのは気に入らないから、全力で処刑しに行く。」
真樹はそう強く言いきった。そして、ここからさらに事件は動き出すのだった。
おはようございます。
真樹は一体どうの様にするのでしょうか?
次回をお楽しみに!




