第82話 嫌われ者同士
こんにちわ!
前回は真樹と沙崙が初めて会話しました。
今後、二人はどう関わるのか?
ある日のお昼休み、真樹は校舎の外に置いてある自動販売機へ飲み物を買いに行った。そこで、女性のすすり泣く声が聞こえたので、気になって声がする方へ行ってみると、女子生徒が蹲って泣いていたのだった。その女子生徒こそ、今年の春より台湾から留学してきた陳沙崙だった。
「湯川君…ね。初めまして。」
「所で、本当に何もないのか?」
真樹は挨拶する沙崙に対し、そう質問した。長年女子生徒からいじめられ続けた真樹故、このように悲しんでいる人間への察しに関しては人一倍長けている。
「ほ、本当です。なんにもありません。」
「何の理由もなしに、昼間からこんな所で泣きじゃくっている奴がいるのか?」
真樹は鋭い指摘をした。彼自身も、小学校時代にクラスの全女子生徒から酷いいじめを受け続けていた時、休み時間に一人で人気のない所で泣いていたことがあったからだ。沙崙にとっては図星だったが、誰かに喋って自分への仕打ちがさらに悪化する事を恐れたのか、誤魔化しながら言った。
「ほ、本当に平気よ。湯川君は気にしないで。」
「そう言う奴ほど口止めされてたりするんだよねぇ。」
真樹の鋭い指摘に沙崙は黙り込んでしまった。なにせ、彼の言っていることが全て正論だったからである。さらに、真樹は続ける。
「どうせ八広にやられたんだろ?」
「どうしてそれを…あっ!」
誘導尋問の如く、真樹は沙崙から事情を聴きだすことに成功した。沙崙は思わず話してしまった事に若干の後悔を感じたのだった。
「そんなこったろうと思ったよ。今の2年D組はあいつのワンマンクラスみたいなもんだからな。担任の金町もあいつには甘いみたいだし。」
「何もかもお見通しなのね。」
「こっちとら、伊達に女からいじめ受けてた訳じゃないからな。女嫌いの危険予知能力を甘く見てもらっては困る。」
真樹は半ば自慢げにそう言った。沙崙はその真樹の言動に少し疑問を持ちながら言った。
「女、嫌いなんだ。じゃあ、湯川君も私にこの学校からいなくなって欲しいって訳?」
「まぁ、最初は今年の留学生が女だって知った時はがっかりしたけどな。だけど、俺もなぜか分かんないけど、お前と話していても不愉快にならないんだよね。だから声をかけた。他の女子なら、泣いていようと倒れていようと無視するのが俺だからな。」
真樹も何故自分が泣いている沙崙に声をかけようと思ったのか分からなかった。沙崙の方もそんな真樹の言葉に対し、訳が分からなくなっていた。
「変な人。じゃあ、この学校女の子ばっかりだから、湯川君居辛いんじゃない?」
「そうだな。だけど、俺はそんなクソ女どもに負けたくないから勉強も部活も頑張ってる感じかな?」
「強いのね。」
「クソ女を調子づかせたくないだけだ。」
嫌悪感丸出しで真樹はそう言い切った。そして、最後に真樹は沙崙に言い残す。
「この学校は元々女子高で完全な女系社会だ。だからプライドが高くて高飛車な女子が多い。何されるか分からないから、気をつけろとだけ言っておく。」
真樹はそれだけ言うと校舎の中に入って行った。そして、階段を上がって教室に戻ろうとする途中…。
「痛っ。」
真樹の頭に何かの衝撃が走った。見ると、足元に缶ジュースの空き缶が転がっている。衝撃の正体はこの空き缶だったようだ。その直後、少しななれた場所から女性の声が聞こえてきた。
「あれぇ、ゴミ箱だと思ったら湯川君だったぁ~。あまりにも汚らしいから間違えちゃった!ごめぇ~ん!」
真樹が振り返ると、そこにはD組の八広茉莉奈が取り巻き達と一緒に馬鹿にするような目で挑発していた。間違えた訳ではなく、わざと真樹を狙って空き缶を投げつけたのは明白だった。真樹は相手にするだけ時間の無駄だと無言でその場を立ち去ろうとしたが、それでも茉莉奈は真樹に悪口を言い続けた。
「ちっ!つまんないわね!お前みたいなキモ男が同じ学校に存在するだけで鬱陶しいのよ!さっさと転校してくんない?お前がいるだけで、学校の空気が汚れるから!」
茉莉奈の暴言に続いて、取り巻き達も真樹に野次を浴びせる。
「一日でも早く消えろよ、病原菌!」
「お前みたいな陰キャ男は地獄に堕ちろ、早く死ね!」
そんな野次を無視して真樹は自分の教室に戻る。そして、心の中で呆れながら呟いた。
(何であの留学生が標的にされたのかは知らないけど、とりあえず八広が絡んでいるのは間違いなさそうだな。それに、金町が担任じゃぁそろそろ取り返しがつかなくなりそうだ。)
そう思いながら、真樹は買った飲み物を持って教室に帰ってきた。席に着くと慶が心配そうな顔をして聞いてきた。
「真樹、どうしたの?ずいぶん遅かったけど…。」
「いや、何でも無い。それより、オニィ。」
「何?」
「今のD組、ヤバいぞ。」
「え…?」
真樹はそう言って買ってきた飲み物を飲んだ所でチャイムが鳴り、午後の授業が始まったのだった。
「じゃあ、今日はこれで終わり。みんな気を付けて帰るのよー。」
2年国際科ではホームルームが終わり、生徒達は帰宅したり部活に行ったりしている。沙崙も荷物をまとめて帰宅しようとしたが、数人の女子生徒に囲まれてしまった。
「ねぇ、陳さん。」
先頭にいたのは茉莉奈だった。茉莉奈は邪悪な笑みを浮かべ、見下すように沙崙に言う。
「ちょっと話があるんだけど、来てくれるよね?」
「…。」
沙崙は早く帰りたかったのだが、茉莉奈に逆らったらもっと酷い目に合うと思うと、そのままついていくしかなかった。茉莉奈は沙崙をトイレに連れ込むと、不機嫌そうに口を開く。
「昼間さ、あんたが自販機の近くで湯川と話している所を見たって子がいるんだけど、どういうこと?」
「…。確かに、湯川君に話しかけられたけど、大した話はしていない。本当よ!」
沙崙はそう言ったが、茉莉奈は鬼の形相を浮かべて沙崙に飛び蹴りをお見舞いする。蹴られた沙崙は個室トイレの一室に押し込まれるように倒れ込んでしまった。茉莉奈は更に怒りを込めて言った。
「うるさい!あんなたはやってはいけないことをやっちまったのよ!」
「そ、そんな…何で?」
「湯川はこの学校の全女子生徒の敵なの。だから、そんなクズと話すってことはあんたも同類って訳!陳さんも湯川君と同じような病原菌てことで決まりね!」
真樹は慶以外の全女子生徒から嫌われているが、茉莉奈も例外ではなく真樹の事が大嫌いである。茉莉奈もプライドが高く、特に男性に関しては自分よりハイスペックな男性(例を上げると裕也)以外はゴミ以下の扱いをしていた。だから、同じ女性でありながら真樹と会話をしていることが許せなかったようだった。そして、取り巻き達は沙崙の両サイドに来ると、二人がかりで沙崙の顔を洋式便器の中に押さえつけるようにっ突っ込んだ。
「うぐぐ…。」
「大人しくしなさいよ!」
「茉莉奈、やっちゃって!」
取り巻き達のそう言われ、茉莉奈は不気味な笑みを浮かべながら背後から何かを取り出した。
「とりあえず、湯川と話をしたってことはこいつも湯川の病原菌を持っている可能性があるわね。こんなのが教室にいたらクラスのみんなが病原菌に感染して体調崩したりしたら困るから、今のうちに除菌しないとね。」
そう言って茉莉奈が取り出したのは、トイレの用具入れに置いてあった塩素系の強力な洗剤だった。彼女はキャップを開くと便器に突っ込んだ状態である沙崙の頭にこれでもかと言うほど大量に洗剤をかけた。
「うぐぅぅ!」
「さぁ、除菌よ除菌!汚い物はしっかり消さないとね!」
笑いながら洗剤をかける茉莉奈に対し、沙崙は水洗便器に顔を押し付けられて呼吸ができない上、塩素系洗剤を背後からかけられて、うなじや後頭部にしみるような痛みを感じていた。言葉にならないようなうめき声を上げていた沙崙だったが、力尽きて気を失ってしまったのか、そのままぐったりして動かなくなってしまった。それでも茉莉奈は容赦なく沙崙に攻撃を続ける。
「私達の期待を踏みにじり、クラスに害しかもたらさなかったこと、死んで償え!」
「茉莉奈の言う通りよ!あんたみたいな子に来てほしくなかった!」
「あんたが学校に来てから一気に教室が暗くなった!許さない!」
茉莉奈達は用具入れからモップ、ブラシ、箒等を取り出し、動かなくなった沙崙の背中を殴り続けた。しばらく殴った所で気が済んだのか、彼女達はモップなどを置いてその場から立ち去ろうとした。
「あ~あ、すっきりした!言っとくけど、私は何も悪くないからね!あんたがここに来たのが悪いんだからね!恨むんなら、自分の存在を恨みなさいよね!」
茉莉奈はそれだけ言うと、トイレに沙崙を残して取り巻き達と共に帰って行った。少しすると、沙崙は意識を取り戻し、最後の力を振り絞って立ち上がった。既にほかの生徒田氏は部活に行ったり、帰宅しているのでトイレには誰も入って来ない。沙崙は散らばった掃除道具を用具入れに戻すと、よろめきながら学校を脱出し、寮である団地を目指したのだった。フラフラになりながらも、何とか団地に辿り着いた沙崙だったが、そんな彼女を待ち伏せている人物がいた。
「あ、あの…、沙崙ちゃん!」
振り向くと、沙崙の1つ下の階に住んでいる男性住人の山田が立っていた。山田は沙崙に近づくと、不満そうに問い詰めた。
「どうして…どうして昨日僕の食事の誘いを断ったの?そんなに僕とご飯食べるのが嫌?僕はただ、沙崙ちゃんと仲良くなりたいだけなのに!」
「いや、その…今そういう気分じゃないので、もう部屋に戻ります。」
「分かったよ!沙崙ちゃんは僕の事が嫌いなんだ!こんなに僕は君と仲良くしたいって言ってるのに!」
「つ…疲れてるので話はまた今度にしてくれませんか?」
「今度っていつ?そうやって理由つけて僕の事避けているんだ!そうなんだ!」
「し、失礼します…!」
山田の態度に恐怖を覚えた沙崙は逃げるように自室へ駆け込んだ。茉莉奈にかけられた洗剤がまだしみるので急いでシャワーで洗い流し、部屋着に着替えてへ布団の上に座り込む。沙崙は学校では茉莉奈達に再び襲撃され、帰った時も下の階の山田から変な因縁をつけられ、哀しくなって目から大量の涙を流し始めた。
「ううっ…。もう嫌。どうしてこんな事になるの?どうして、私はこんなに嫌われるの?私の居場所って、どこにあるの…?」
楽しい留学生活を送りたかった沙崙だったが、今の状況はその真逆である最悪な物だった。来日してから今まで起きたことを思い出した沙崙は、全てに絶望を感じ、更に悲しみを深めながら何も食べずに眠りに着いたのだった。
こんにちわ!
茉莉奈、酷い子ですね。
そして、沙崙と会話した真樹はこれからどうするのか?
次回をお楽しみに!




