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真樹VS女子  作者: 東洋連合
Episode6 留学生を救え?!
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第80話 来日後の洗礼

こんにちわ!

沙崙はこれからどうなるのでしょうか?

 今年の春から大谷津学院にやってきた留学生は、学校史上初の台湾人である陳沙崙だった。彼女は来日初登校から大谷津学院に馴染もうと必死で授業にもついていき、これから1年間時間を共にするクラスメートたちとも親睦を深めようと丁寧に挨拶もした。授業初日は彼女にとっては特にこれといったトラブルもなく終わり、放課後のホームルーム後に担任である金町と少し面談をしてから帰宅した。

「はぁ、緊張しすぎて疲れたぁ…。」

 沙崙は帰宅後、部屋に置いてあるベッドに制服のまま横たわりながら呟いた。沙崙が留学中住む所は、大谷津学院が留学生寮として昔から契約している、成田市内にある古い団地である。設備は古いが、洗濯機は供え付きであり、風呂も完備してある等全く不便という訳ではない。そして、沙崙はしばらく布団の上でゴロゴロしていたが、ふとある事に気付いて体を起こした。

「そう言えば、引っ越してきたばかりなのにあれを忘れてた。日本のドラマでよく見たやつだから、やらないとダメよね。」

 沙崙はそう言うと、部屋の隅っこに置いてあったスースケースから何かを取り出し、そのまま部屋を出ていった。行き先は向いに住んでいる住人の部屋だった。インターホンを鳴らすと、ドアから中年の女性が顔を出す。

「はい。」

「初めまして。この間引っ越してきたばかりの陳沙崙と申します。よかったら、これを受け取って下さい。」

 そう言って沙崙は紙袋に入れた鳳梨酥(台湾名物のお菓子で、日本ではパイナップルケーキと呼ばれている)を渡す。住人はそれを受け取ると、嬉しそうに挨拶を返した。

「あら嬉しい。ありがとうね!」

「はい。宜しくお願いします!」

 そう言って沙崙は向かいの住人に丁寧にお辞儀をして、その場を後にした。その後、上の階と下の階に住んでいる住人にも挨拶して鳳梨酥を渡した沙崙は部屋に戻った後、シャワーを浴びて夕食をとり、授業の予習を済ませた後に疲れが一気に噴き出たのかそのまま布団にもぐりこんで寝てしまったのだった。


 翌日。

「ねぇ、陳さん。ちょっといい?」

「うん。何かな?」

 午前の授業が終わり、昼休憩になった。そのタイミングで沙崙は同じクラスの美人同級生、八広茉莉奈に話しかけられる。

「話したいことがあるんだけど、一緒に来てくれる?」

「分かったわ、喜んで。」

 沙崙は茉莉奈に微笑みながらそう言うと、素直に茉莉奈の後についてくる。沙崙としては、日本でいろんな子たちと交流して行きたいと思っていたのでこの時は特に何も思っていなかった。茉莉奈は沙崙と共に校舎の外に出ると、裏庭までやってきた。そこには既に茉莉奈と仲のいいクラスメートの女子生徒達が数人おり、不気味な笑みを浮かべていた。

「あ、あの。それで…話って何かな?八広さん。」

 沙崙は茉莉奈が自分に話しかけてくれた戸を嬉しく思う反面、今の状況が何を意味するのか理解できず少しばかり不安に思っていた。すると、茉莉奈が沙崙の方を振り返り、質問する。

「陳さん。台湾ってカエル食べるよね?」

「そうね…。夜市とかだと時々売っていることはあるよ。食感は鶏肉に似てるし、私も台湾いた時食べたことあるわ。」

 彼女の言う通り、台湾で有名な夜市では食用ガエルが売られていることがある。大体ウシガエルガ利用され、脚の肉は鶏肉に近い食感をしているので、テレビでも時々紹介されている。沙崙が質問に答えると、茉莉奈は沙崙を見下すような邪悪な笑みを浮かべて言った。

「そう。いやぁね。今朝うちのクラスに掃除当番の子がいて、ここでカエルの死体見つけたんだけど、気持ち悪くてどうすればいいか分からなくってね。ほら、うち女の子ばっかりだからこういうのどうしようもないじゃん?私も無理だから、陳さんが食べてくれれば解決できるかなーって思って。ねぇ、私達と仲良くなりたいんだったら、こういうことの少しは協力してよ。」

 茉莉奈がそう言うと、後ろにいたクラスメートの女子が透明なビニール袋に入った大きなヒキガエルの死骸を出した。野良猫か何かに襲われたのか、ヒキガエルの死骸にはいくつかの傷が付いている。それを見た沙崙はさすがに驚いて首を横に振った。

「い、いや…。そのカエル私が台湾で食べたのと種類違うし、それに道端で死んでいたカエルをこの場で食べてって言われても困るわ。」

 沙崙は当然ながら茉莉奈の要求を断った。すると、茉莉奈はをれが気に入らなかったのか舌打ちをしながら沙崙を怒鳴りつける。

「チッ。ゴチャゴチャ文句言ってんじゃねーよ、うちに来たばっかりの分際で!みんな、やっちゃおう!」

「うん。分かった。」

 茉莉奈がそう言うと、周りの同級生達が沙崙を地面に押し倒し、羽交い絞めにした。そして、茉莉奈はあらかじめ用意していたビニール手袋をはめると、クラスメートから袋に入ったヒキガエルの死骸を受け取って、中身を取り出した。

「お前に文句言う権限なんかないんだよ!初日から優等生ぶって生意気な振る舞いばっかりして!私達がどれだけあんたに不愉快な思いしたか分かる?」

「そ、そんな…。私はただ、早くこの学校に馴染みたくて授業にもついていけるように必死に勉強していただけで…。」

「うるさい!お前がこの学校に留学して得することはあっても、私達はお前が一緒にいてメリットを得ることが一つもないのよ!つまり、あんたは私達にとっていきなりやってきた害虫って訳!」

「そうよ、そうよ!」

「台湾に帰れ、クソ女!」

 沙崙に対してボロクソに悪口を言う茉莉奈の横で、他の同級生達も煽りを入れてくる。沙崙としては、特に悪い事をした覚えは無いのにここまでひどい仕打ちをされる意味が分からないでいた。

「や、やめて!放して!」

「うるさい!さっさとこのカエル食えよ!お前の声耳障りなんだよ!」

 茉莉奈は手袋をはめた状態の右手で沙崙の口を強引にこじ開け、左手でヒキガエルの死骸を彼女の喉の奥までねじ込んだ。当然沙崙はもがき苦しみながら体をばたつかせ、必死に抵抗する。そして、一瞬隙ができた茉莉奈の腕を強引に振りほどき、口にねじ込まれたヒキガエルの死体を吐きだした。

「オエッ!ゲホッ…ゲホッ…!」

 苦しそうに咳をする沙崙。そして、ヒキガエルの死体を吐きだした沙崙に対し、茉莉奈は更に邪悪な笑みを入れて挑発を入れた。

「うわぁ、こいつ口から物吐き出してんだけど!キモッ!汚っ!人として終わってるわ!」

「茉莉奈の言う通り、マジで無いわ―!」

「こいつと同じ教室いたくないんだけど!」

 尚も沙崙に対して侮辱的な発言をする茉莉奈達。沙崙も目に涙を浮かべながら茉莉奈達に問う。

「や、やめて…。どうして、こんなことするの?」

「は?決まってんじゃん!お前の事が気に入らないからだよ!」

 馬鹿にするような顔でそう言い放つ茉莉奈に、沙崙は絶望感を覚えた。来日早々ここまでひどいいじめに合うなんて、だれが想像できるだろう。そう思っていると、どこからか声がした。

「みんな、今度の日曜四街道で試合あるんだけど、よかったら見に来ない?」

「行く行く―!」

「裕也君のカッコいい所見に行きたーい!」

「頑張って、裕也君!」

 サッカー部のイケメン、大和田裕也が数人の女子生徒と楽しそうに話しながら通りがかった。それを見た茉莉奈達国際科の女子生徒達は黄色い声を出しながら手を振る。

「キャー、裕也君だ!」

「裕也くーん!」

「こっちにも来てー!」

「お、茉莉奈ちゃん達もいたんだ!何してたの?」

 裕也と、彼と一緒にいた女子生徒達が茉莉奈の所に近づいてくる。すると、沙崙は必死の形相で裕也に助けを求めた。

「いきなりでごめんなさい!助けてほしいの!この人達がいきなり虐めてきて…!」

 這いつくばりながら裕也の所に近づく沙崙。しかし、裕也は沙崙の顔を見た瞬間、ぞっとするほど冷たい視線で沙崙をに待見つけながら言い放った。

「は?お前、確かこの間台湾から来た留学生だよな?何でお前如きを助けなきゃいけないの?」

「い、いや…その…。」

「お前、なんかうちの学校に馴染みたいとか言って必死に勉強したりしてるみたいだけど、それは何?私はみんなより真面目にやってるから勉強だってできますよっていう見せつけ?」

「違うの!本当に学校に馴染んで授業にもついていきたくてやってるだけなの!」

「は?知らねーよ、そんなこと。俺さ、お前みたいに優等生ぶる女って大嫌いなんだよね。全然可愛げないし、自分より勉強できない男を精神的に幼稚だって陰で見下しているんだろ?」

「本当に違うの!信じてよ!」

 泣きながら必死に訴える沙崙だったが、裕也は怒りながら沙崙の髪の毛を掴み上げ、地面に叩きつけて彼女を仰向けにした。

「うっ、痛い!」

「うっせー、お前みたいな女なんかお呼びじゃないんだよ!留学生が女の子だって聞いてたから楽しみだったのに、お前みたいなゴミ虫が来るとはな!」

「も、もうやめて…。許して…!」

「チッ!黙れよクソ女!この俺を不愉快にしやがって、恥を知れ!罰として、これでもくらいな!」

 裕也はそう言うと、仰向けになった沙崙の顔面を思い切り踏みつけた。沙崙の方は言葉にならないうめき声をあげ、茉莉奈を始め周りの女子生徒達は裕也に声援を送る。

「行けー、裕也君!」

「クソ女の癖に可愛い顔してて生意気だから、踏み潰して顔面を変形させちゃえ!」

「地獄に堕ちろ、そして死ね!」

 沙崙は裕也に顔面を踏みつけられながら、茉莉奈達に悪口を浴びせられ、どんどん悲しい気持ちになった。口ごと裕也に踏みつけられているので言葉を発せられる状態ではないが、心の中で泣き叫んだ。

(どうして?どうして私は日本に来て早々こんな事をされなきゃいけないの?何にも悪いことしていないのに!)

 絶望感が溢れる中、午後のチャイムが鳴った事で裕也は沙崙の顔から足を離した。

「ふぅ。とりあえずこの辺にしとくか。あ、茉莉奈ちゃん。もしこのゴミがなんかやらかすようだったらいつでも相談して。茉莉奈ちゃんが困ってる顔見たくないから!」

「勿論だよー!裕也君にそう言ってもらえると嬉しい!流石、出来る男は言うことが違うわねー!」

 茉莉奈はそう言うと裕也に飛びつき、他の生徒達と一緒に皇室に戻ってしまった。一方の沙崙もボロボロになりながら何とか体を起こし、ポロポロと涙を流しながら這いつくばるような形で教室に戻ったのだった。


 午後の授業。

「えー、この公式は模擬試験は勿論、受験本番でもよく出るから覚えとけ。特に理系に進みたい人にとっては必須事項だから注意しとけよー!」

 国際科の教室では数学の授業が行われていた。担当するのは真樹がいる野球部の顧問である関屋だ。関屋はいつも通り授業を進めたいたのだが、ふと教室を見渡した時に違和感を覚えた。

「えーっと、陳さん?」

「は、はい。」

 突然関屋に呼ばれて驚く沙崙。関屋の方は心配そうな顔で質問した。

「制服汚れてない?それに、なんか元気がないみたいだけど大丈夫?」

「だ、大丈夫です先生!気にせず授業して下さい!」

 沙崙は必死でごまかしながら関屋にそう言った。関屋の方も腑に落ちない部分がありつつ、授業を最後まで続けた。

「じゃあ、今日はここまで。みんなちゃんと復習しろよー!」

 関屋は国際科の生徒達にそれだけ言うと、職員室に戻って行った。職員室に戻って荷物を置くと、2年D組の担任である金町の所へ向かった。

「金町先生、今お時間良いですか?」

「何ですか?関屋先生。」

「陳さんの事なんですけど…。」

 関屋は先ほどのD組の授業で沙崙の様子がおかしい事を話した。しかし、金町本人はあまり気にしている様子は無かった。

「ふーん。だからなんですか?」

「い、いや。制服はボロボロだし、元気もないし、流石におかしくないですか?」

「このくらいの年の女の子です。休み時間に外でじゃれつくこともあるでしょう。」

「で、でも。あんなにボロボロになるほどの事ってありますか?もしかしたら国際科で陳さんに何か起こっているのかもしれません。担任の金町先生の方でも詳しく調べた方が…。」

 関屋はそう言ったが、それを聞いた金町はバァンとファイルを思い切り机に叩きつけた。そして、イライラしながら関屋に言い返す。

「関屋先生。うちのクラスの数学を担当してくれるのは感謝します。でも、生徒間の事に関して余計な口出ししないでくれます?」

「しかし、今の陳さんを無視するのは…。」

「私達国際科は、知性とコミュニケーション能力が優れた、うちの学校の中でも特に優秀な子達が集まっています。今も才色兼備の八広さんを中心にクラスがまとまっているので、問題が起こるなんてありえません。陳さんもすぐに馴染むでしょう。」

「でも、少しくらい様子を見ても…。」

「言いたいことはそれだけですか?私はこの後の授業があるのでこれで。それと、あんまり人のクラスに口出ししないでください。」

 金町はそれだけ言うと教材を持って職員室から出て行ってしまった。関屋はまだ疑問に思いながらも次の授業の準備をした。


 放課後。

「真樹!一緒に帰ろう!」

「おう、今行く!」

 慶は真樹に声をかけて一緒に下校する事にした。因みに杜夫は写真部の活動があるのでまだ下校しない。二人で教室を後にし、校舎の外に出た時、慶は何かに気付いた。

「ん?ねぇねぇ、真樹。」

「どうした、オニィ?」

 真樹は慶の視線の先を見る。すると、一人の女子生徒が泥だらけの制服を着て、暗い雰囲気を漂わせながら歩いているのが見えた。慶は何か違和感を感じ取ったのか、真樹に問う。

「あの子、台湾から留学しに来た陳沙崙さんだよ。元気ないし、制服も汚れているし、何かあったんじゃないかな?」

 慶の言葉に真樹も首をかしげる。真樹もかつて幼少期に酷い虐めを受け続けたので、沙崙の様子を見て何か感じ取れたことがあったようだ。

「国際科って八広がいたよな?」

「うん。八広さん美人だし勉強もできるし、すっかり国際科の顔になってるけど…。まぁ、僕はなんか気が強すぎて苦手だけどね。」

「もし留学生の元気が無いのが、八広が原因だったとしたら…?」

 真樹の言葉に慶もハッとする。

「ま、まさか…八広さんが何かしているとか…?」

「まだ断言はできない。だが、今の国際科は八広が中心になっているし、担任の金町も学校の期待の星である八広にあまり文句は言えない。もしなんかしてても、幾らでも隠蔽可能だ。」

 真樹も虐められ続けた影響で勘が鋭くなっており、沙崙に何か起こっていると察知できた。一方で慶の方も真樹の言葉に何か不屈なことを覚えた。沙崙が登校して二日目にして大谷津学院国際科ではどす黒い事案が人知れず起きているが、彼女の災難はこれだけではなかった。

こんにちわ。

沙崙は大変な目に遭ってしまいました。

数人異変に気付いた人がいましたが、彼女に救いの手はあるのか?

次回をお楽しみに!

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