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真樹VS女子  作者: 東洋連合
Episode6 留学生を救え?!
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第79話 期待と困惑

こんばんわ!

留学生、陳沙崙の来日初登校です。

 新学期が訪れた大谷津学院に一人の留学生がやってきた。台湾、台南市出身の女子留学生、陳沙崙である。彼女はかねてから希望していた日本留学に対し、緊張しつつも楽しみな気持ちでいっぱいだった。


 登校初日の朝、彼女は緊張しながら大谷津学院の校門に入って行った。

「さすが日本。桜が綺麗だな。学校もなんかオシャレな雰囲気だし。」

 沙崙は微笑みながらそう呟いた。周囲を見渡すと、大勢の学生達が楽しそうに談笑しながら校舎を歩いている。

「日本のみんなとも仲良くなれるといいな。アニメとかオシャレのお話しができる友達がいたらもっと嬉しいけど。」

 そんなことを思いながら沙崙は校舎へと向かって行く。まずは来日前に渡された留学マニュアルに従って、地図に書かれている職員室へと向かった。

「職員室は…ここね。」

 沙崙は地図を頼りに職員室に辿り着いた。そして、ドアをノックし、そっと職員室へ入室する。

「失礼します!」

 緊張のあまり少し声が大きくなってしまったが、彼女の声で中にいた教職員が振り返って沙崙の方を見る。そして、沙崙は教職員達に挨拶した。

「すみません。今日からお世話になる陳沙崙です。えっと…金町先生と言う方はいらっしゃいますでしょうか?」

 沙崙がそう言うと、眼鏡をかけたスーツ姿の中年の女性が彼女の前にやってきた。

「金町は私です。あなたが陳さんね。」

「はい。陳沙崙と申します。」

「初めまして。私は金町美和子。あなたの担任です。」

「今日からよろしくお願いします!」

「よろしく。あなたはこれから2年D組の一員になりますが、クラスメートへの紹介は始業式後のホームルームに行います。それまで隣の待合室で待っててもらえるかしら?」

「はい、承知いたしました。」

 金町は沙崙に対して表情一つ変えずに挨拶を済ませ、そのまま彼女を待合室へ案内した。彼女が椅子へ座ると、金町は始業式へ向かうべく待合室を出る。

「トイレは出てすぐ左にありますので自由に使っていいわ。でも、それ以外であんまり外に出てうろうろしたらだめよ。終わったら迎えに来るので待っててね。」

「了解です。お待ちしてます。」

 それだけ言うと金町は始業式が行われる体育館へと向かい、沙崙は椅子に座って大人しく待っていた。彼女はその間、色々と考え事をしていた。

「なんか、ちょっと怖そうな先生ね。でもこの学校、偏差値高くて勉強できる人が多いって聞いたから厳しい先生も多いのかな?でもいいわ。元気に挨拶して、クラスのみんなになじめるように努力しなきゃ。」

 彼女はそう決心し、始業式が終わって金町が迎えに来るのを待ち続けた。そして、30分後…。

「お待たせ、陳さん。教室行くわよ!」

「はい。」

 始業式が終わり、金町に教室へ連れられた沙崙は、これから一緒に過ごす大谷津学院2年国際科の生徒たちの前で元気よく挨拶をしたのだった。


 そして、現在に至る。彼女の挨拶後、教室は空調のブーンという音がはっきり聞こえるほど静まり返ってしまった。沙崙はクラスメートたちの顔色をうかがったが、何故か全員がポカンとしている。

(わ、私なんか変なこと言ったかな?すごい白けた空気になってるんだけど…。)

 不安な気持ちになる沙崙。見かねた金町は生徒達に言う。

「何か質問ある人はいるかしら?」

 しかし、生徒達はまだ静まり返ったままだ。このまま誰からも質問が無いまま1時間目が始まるかと思ったが、一人の女子生徒が手を上げた。国際科でも容姿端麗、成績優秀と評判の美少女、八広茉莉奈である。

「一ついいですか、先生。」

「何かしら?」

「今までずっと英語圏からの留学生でしたよね?どうして今年は台湾から…?」

「あー、学校側も将来を見据えて本格的な国際教育に力を入れたいって方針でね、様々な国の学生も受け入れて見ようってことになったの。まぁ、本当は別の子が来る予定だったんだけど諸事情でうちに来られなくなって陳さんを招き入れたってこと。」

 金町の言う通り、本来大谷津学院には沙崙とは別の者が留学生として来る予定で、沙崙も当初は岡山の高校に留学するはずだった。しかし、色々な事情で本来来るはずの留学生の来日が白紙になり、大谷津学院側も急遽別の留学希望者を探さざるを得なかった。そんな時、台湾の高校から日本に留学希望がある者がいるという話を聞いた学校側は沙崙を招いたという訳だ。沙崙も初めは戸惑ったが、学校周囲に自然もあって女子が多く、学業や部活動に力を入れているという学校案内の情報を得て、大谷津学院への留学を決めたのだった。そして、金町の言葉を聴いた茉莉奈は溜め息をつきながら座った。

「そうですか…。分かりました。」

「他に質問は…?無さそうね。じゃあ、このまま英語の授業始めるから準備して。あ、陳さんはあそこの一番奥の席に座ってね。」

「はい、分かりました。」

 金町に言われた通り、沙崙は一番奥の窓側の席に座った。教室内の異様な雰囲気に戸惑いながらも、沙崙の留学生活が始まったのだった。


 1限後の休み時間。

「改めまして。陳沙崙です。1年間よろしくお願いします!」

 沙崙は授業が終わると、これから時間を共にするクラスメート一人一人に挨拶に回った。因みにこの国際科、女子高時代から普通科よりも人気で入試倍率も高く、共学化後の現在でも普通科より女子の比率が圧倒的に多い。実際、2年D組には45人の生徒がいるが、そのうち女子生徒の人数は42人もいる。そんなクラスメート達に沙崙は丁寧に挨拶をし、そして、茉莉奈の所にやってきた。

「初めまして。これからよろしくお願いします。」

 沙崙は椅子に座っていた茉莉奈に挨拶した。茉莉奈は無言で沙崙の方を向く。

(わぁ。スタイルよくて綺麗な子だなぁ。モデルさんか女優さんみたい。)

 茉莉奈の美貌に見惚れた沙崙は心の中でそう呟いた。しかし、茉莉奈は沙崙に対して笑顔を見せることは無く、そのまま立ち上がって言った。

「私は八広茉莉奈。宜しく。」

「はい、こちらこそ。」

「あんた。このクラスで平和に過ごしたかったら、あんまり調子に乗らないことね。」

「えっ…?あの、それはどういう?」

「自分で考えて。じゃあ、私用事あるから。」

 そう言って茉莉奈は不愛想な様子でどこかへ行ってしまった。そんな茉莉奈を見て、沙崙は少し不安になっていく。

(やっぱり私、なんか変なこと言ってるのかな?私の日本語どこかおかしいのかな?)

 少し困った表情を浮かべた沙崙。一方茉莉奈は廊下に出ると、仲の良いクラスメート二人と放しながらトイレに向かっていた。そして、茉莉奈は友人達に問う。

「ねえ、あの留学生どう思う?」

「なんか…優等生ぶってる感じがしてちょっと嫌かも。」

「分かる。一見サバサバしてるに見せかけて、実はあざといって感じがするよね。」

 茉莉奈も、そして友人達も沙崙に対して良い印象を抱けないでいた。さらに、茉莉奈は不満げに言い続ける。

「さっきもいろんな子に挨拶しまくってて、私の所にも来たんだけど、ちゃんと挨拶できるいい子ちゃんアピールしている感しててなんかムカつくのよね。ちょっと可愛いからって愛想振りまくとか、喧嘩売ってんのって思ったわ。」

「私可愛くて勉強もできますって示してる感もあるよね。あの子、何か無理。」

「顔は可愛いけど、雰囲気と行動に可愛げが無い。期待外れね。」

 どうも茉莉奈達の間では沙崙の印象は良くないようだった。やや不穏な空気が漂い始めているが、それでも時間は過ぎていく。


 2時間目終わりの休み時間。

「やっほー、ちょっと良いかな?」

 2年D組の教室の入り口から男子生徒の声がした。それに気付いた茉莉奈は振り返ると、笑顔でその方向に駆け寄った。

「キャー!裕也君が来てくれたー!ねぇねぇ、どうしたの?早く中においで!」

 茉莉奈は裕也の手を握ると、教室の中に引っ張り込む。その様子を見ていた他の国際科の女子生徒達が頬を膨らませながら二人の所にやってきた。

「あー、茉莉奈するーい!」

「そうよ、裕也君を独り占めしないで!」

「裕也くーん、どうしたの?よかったら、いっぱいお話ししていこ!」

 裕也の登場に黄色い声を上げる茉莉奈達国際科女子生徒達。そして、裕也は国際科に来た用件を話し始める。

「あのね、今回来た留学生ってどの子なのかな?女の子って聞いたんだけど。」

 裕也の言葉に茉莉奈達は一瞬表情を曇らせた。そして、茉莉奈は無言で窓側の席を指差す。そこには次の授業の予習をしている沙崙が、熱心に教科書と電子辞書を見ながらノートにメモを取っていた。そんな様子を見た裕也は少し驚いた表情で聞く。

「は、あの子がそうなの?」

「そうよ。名前は陳沙崙っていう子で、台湾から来たんだって。」

 茉莉奈が裕也にそう説明している。一方沙崙は勉強に集中している為なのか、後ろで裕也達が自分の事を話しているのに気付いていない。茉莉奈の説明を聞いた裕也は眉を顰めながら言った。

「うわぁ。俺あの子の雰囲気無理だわ。何あのガリ勉アピール。優等生ぶって自分より成績悪い男を見下してそうな感じがする。顔可愛いのに親しみやすさが無い、ウザい香りがプンプンするわ。クソみたいな陰キャ女だな。」

「流石裕也君、鋭ーい。私もどんな子が留学してくるか楽しみだったんだけど、何か見ててムカつくのよね。去年来てた子がお姫様みたいな美人で楽しい子だっただけに、余計あの子の外れ感が目立つわね。顔の可愛さを雰囲気で全部台無しにしているわ。」

 女の子大好きな裕也ですら沙崙をボロクソに言い、それに対し茉莉奈は賛同する。沙崙本人は自分が裏でそこまで酷評されているとはまだ気付いていなかった。

「じゃあ、俺教室戻るわ。またねー!」

「じゃあねー、裕也くーん!いつでもおいでねー!」

 教室に戻った裕也を茉莉奈が手を振りながら見送る。どうも沙崙にとって、この留学生活は幸先がいいものではなさそうだった。


 昼休み。真樹は慶、杜夫と共に教室で昼食をとっていた。すると、教室の外から声がした。

「おーい、真樹ー!」

「ちょっといいかー?」

 入ってきたのは同じ野球部のチームメイトである武司と伸治だった。1年生の時と同様、2年に進級後もクラスが違かった。

「おう、武司に伸治じゃないか。どうしたんだよ?」

「なぁなぁ、3人とも。飯食い終わったら一緒にD組の教室行こうぜ。」

「留学生の子が来たんだって。どんな子なのか気になるだろ?」

 武司と伸治は留学生の事が気になっていた。そして会いに行こうと誘ったのだが、真っ先に手を上げたのは慶だった。

「はいはーい、行く行く!実は僕も気になっていたんだ!」

 そして、杜夫も続いた。

「俺も。可愛い女の子だったらいいな。」

 二人は賛同したが、真樹はかなりしぶっている。

「俺もまぁ、男か女かは気になるけど、D組の教室とか一番行きたくないわ。俺野次られてゴミ投げつけられるし。」

 やはり女子が一番多いクラスの国際科には行きたくない真樹だった。それを察した一同は少し悩んだが、伸治が一つ提案した。

「じゃ、じゃあ俺らが身隠しになってこっそりのぞくだけなら大丈夫だろ?」

「ま、まぁそれならな。」

「決まり!じゃあ、食い終わったら行こうぜ!」

 そうして昼食後、真樹は4人に囲まれる形で国際科の教室を目指す。そして、何とかD組の教室に辿り着いた。到着後、慶が教室から出てきた女子生徒に聞く。

「ねぇ、ちょっといい?」

「何?鬼越さん。」

「留学生ってどの子かな?ちょっと気になってて。」

「ああ、あの子よ。台湾出身で陳沙崙っていうんだって。」

 女子生徒はそれだけ言うとトイレの方へ行ってしまった。真樹達は言われた方向を見て、椅子に座って昼食を取りながら単語帳を捲る沙崙を確認する。真樹はそれを見て複雑な表情で言った。

「なんだ、男じゃないのか。はぁ…。」

 その様子を見て4人は苦笑いしていたが、沙崙に対しては興味を持っているようだ。

「まぁまぁ。でも、可愛いし、いい子そうじゃん。スポーツ美女って感じだね。今度話しかけてみようかな?」

 といったのは慶だった。更に杜夫も。

「台湾の子か…。でも、優しそうで良いかも。」

 少し下心が無くもなかったが、至って肯定的だ。そして、喜んだのは武司と伸治だ。

「おお、可愛い!健康的な美女って感じだな!今度話しかけて見るわ!」

「俺もいいと思う!近寄りがたい雰囲気とかもなさそうだし、国際交流してみたいな!」

 国際科の女性陣及び裕也とは対照的な意見だった真樹一同。沙崙の方も、早く学校の雰囲気に慣れて授業にもついていこうと必死で取り組んでいる。しかし、後日彼女は洗礼を受けることになるのだった。

こんばんわ!

長くなってしまいましたが、沙崙は無事に留学生活を送れるようになるのか?

次回をお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[一言] わかってたことだが。 この教室にはバカしかいないのか。 (一部除く) もうこの時点で盛大に地雷を踏みぬいているが、エスカレートのしようによってはただごとでは済まんのだが。 管理職が無能かど…
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