第77話 新学期を控えて
こんにちわ!
前回諸事情で更新できなかったことをお詫びします。
トライスターズのメンバーが全員逮捕され、自信を付けた智子が声優として覚醒することができた。そして、真樹達は3年生の卒業を見送り、4月から2年生へと進級する。そんな真樹は今春休み中だが、この日は他校との練習試合だった。
「よーし、いけ!武司!」
「このチャンスを逃すなよー!」
「おう、任せとけ!」
今回の試合は大谷津学院のグラウンドではなく、相手である東京都荒川区の三河島高校で行われている。現在3回表、1アウト1,3塁。バッターボックスには武司がいて、3塁ランナーには真樹がいる。因みにスコアはまだ0-0なので大谷津学院は先制のチャンスだ。
(武司、頼んだぞ。なんとしてもホームに帰るんだ。)
真樹も3塁から心の中でそう願った。その後、武司は追い込まれながらもライトへ打球を飛ばし、犠牲フライとなって3塁ランナーの真樹がホームイン。大谷津学院が先制した。
「よーし、良いぞ武司!」
「真樹もナイスランだ!」
先制できて喜ぶ大谷津ナイン。相手校である三河島高校は甲子園に出たことは無く、強豪校と言う訳ではないが、近年徐々に力をつけており昨年は東東京大会で過去最高のベスト8まで残った。本来なら毎年県大会で3回戦止まりの大谷津学院が試合を組むには早過ぎるような気もするが、顧問の関谷が少しでも強い学校と闘わせて野球部を強くしたいということで試合を申し込んだのだった。明らかに格上の相手に先制点をたたき出して喜ぶ大谷津ナインだったのだが、そうは上手くいかなかった。その後は息を吹き返した相手打線に先発した伸治が捕まり、5失点。大谷津学院はそれでもあきらめずに反撃をし、9回までに1点差に迫ったのだが…。
「真樹ー、行けー!」
「ここで一発頼む!」
「分かってる。ここで打たなきゃ男じゃない!」
9回表2アウトランナーなし。真樹はバッターボックスに立っている。1発出れば同点と言う場面で真樹の狙いは勿論ホームランだ。何とか打席で粘る真樹。そして、最後の球…。カキーン!
「抜けろぉぉぉ!」
芯でとらえた打球はレフト方向へ。真樹は懸命に走ったのだが…。
「ああっ!マジか…。」
相手のレフトがダイビングッキャッチを決め、試合終了。真樹はがっくりと膝を落とし、暗い表情でベンチへ戻ってきた。その後、両行整列して挨拶を済ませ、大谷津学院は引き揚げる準備をする。その前に顧問の関谷が部員を集めた。
「みんな。今日は負けたが、相手は去年の東東京ベスト8だ。格上相手に先制できたことは立派だし、よく諦めずに粘った。伸治も球は悪くなかったし、失点気にすんな。」
「はい…。でもすみませんでした。」
「それと真樹。最後は惜しかったな。でもこんな事で腐らず、自分の野球をしろ。いいな。」
「はい…頑張ります。」
関谷に宥められた真樹と伸治。一方、三河島高校側も大谷津学院にここまで追い詰められるとは思っていなかったらしく、驚きを隠せないでいた。
「危なかった。」
「すごい粘りだったよな。」
「ホントに元女子高かよ?」
「意外と強えーじゃねーか。」
そんな声が三河島ベンチから聞こえてくる。その後、大谷津ナインは三河島高校を後にし、電車で帰ることに。帰りの電車内でみんな談笑していた。
「真樹、ドンマイだった。あんまり気にすんなよ。」
「いやー、流石にいったと思ったんですけど相手が上手すぎましたね。参りました。」
真樹に話しかけてきたのは、3年生に進級して新キャプテンに任命された堀切だった。堀切は真樹を慰めていたが、打たれた伸治も結構へこんでいるようだった。
「いやぁ…やっぱ打たれると、心折れそうになるな。」
「まぁまぁ、格上なんだからこういうこともあるって。」
堀切は伸治の肩に手を置いて慰める。雰囲気的には少し暗めだったのだが、もっと強くなりたいと部員たちの心に火が付いたのか段々明るさが戻ってきた。すると、堀切がある話題を切り出した。
「そう言えばお前達。4月から2年てことはあれがあるんじゃないか?」
「ん、何の事ですか?」
真樹は堀切の言葉に首をかしげる。そんな真樹に堀切は説明する。
「留学生だよ留学生。俺の代もそうだったけど、うちは2年の国際科に留学生を一人、1年間招き入れるじゃん。」
堀切の言葉に反応したのは武司だった。
「あー!そうだった!確かにいましたね!イギリスから来ためっちゃ美人な女の子!」
「うん。エリーちゃんな。ついこないだ帰国しちゃったけど、お姫様みたいな感じですごい人気だった。」
堀切の言う通り、大谷津学院には普通科の他に国際科が設置されており、通常教科に加えて本格的な英会話やフランス語やスペイン語といった第二外国語の授業も行われている。そして、国際交流の場を設けたいとして、女子高時代から二年生の国際科に留学生を1名以上招き入れているのだった。
「今年はどんな女の子が来るのかな?去年よりも美人な女の子来たら嬉しいな。」
「おいおい、伸治。留学生がみんな女だとは限らないだろ。そうですよね、先輩。」
伸治に突っ込みを入れた真樹は堀切の方を向いて質問した。
「ああ。一昨年、つまり俺が1年の時、国際科にいたのはアメリカから来た女の子だったけど、その前の年はオーストラリアから来た男の子だったって先輩が言ってたぞ。女子がみんなキャーキャー言ってたんだとか。」
「ほらな。それに、俺達は普通科だから別に留学生と絡む機会なんかないだろ。まぁ、だとしても面倒くさい女が増えるのは嫌だから、俺は男が来て欲しいけどな。」
「2年になっても相変わらずだな、真樹は。」
「ホント。ここまで女嫌い激しいと、むしろ見てて清々しいわ。」
とげとげと話す真樹に、少し呆れる武司と伸治。その後、大谷津学院の野球部員達は話に花を咲かせながら千葉へと帰って行った。
その夜。真樹は部屋で慶と電話で話していた。
「真樹、練習試合どうだった?」
「負けたわ。悔しいなぁ。1点差まで追い詰めたんだけど。」
「うわぁ。惜しかったね!でもこれで、公式戦で奮起できればどっこいどっこいじゃん!」
「まぁ、そうなんだけどな。」
「僕も今年は本気で全国行きたいから頑張んなきゃ!」
「オニィなら心配いらないだろ。」
互いの部活の事で話しに花を咲かせる二人。そして、真樹は慶にある話題を切り出した。
「そう言えば、オニィ。」
「どうしたの?真樹。」
「俺ら、4月から2年じゃん?」
「うん、そうだね。」
「まぁ、普通科だから絡む機会ないと思うけど毎年2年生の国際科に留学生来るのは知ってるよな?」
「そう言えば、そうだったね。去年もイギリスから一人来てたよね。すごい美人だったから覚えてるよ。」
「ああ。そして今年は俺らの代だ。どんな奴が来るか、何か聞いてないか?」
「いやぁ、僕は何も知らないな。でも真樹がそんなこと気にするの珍しいね。」
「なぁに。これ以上女子を増やされたら困るから、留学生は男が来て欲しいなって思っただけだ。」
「ハハハ、真樹らしいね。うーん、でもやっぱり特に噂みたいなのは聞かないな。男か女かも分かんないし。」
「そっか。済まないな、変なこと聞いて。」
「ううん、大丈夫!じゃあ、また始業式で!2年になっても頑張ろうね!」
「ああ、じゃあな!」
そう言って二人は電話を切る。真樹は練習試合で疲れたのか、そのまま布団に入り、熟睡してしまったのだった。
そして、迎えた新学期。
「ここが大谷津学院。今日からこの学校に通うのか。」
桜が咲き乱れる大谷津学院の校門の前で、一人の生徒がそのようなことを呟いた。大谷津学院の制服を身につけているが、どうやらこの春からこの学校に通うようだった。
「どんな人たちがいるんだろう。せっかくここまで来たし、仲良くなりたいな。」
そう言いながらその生徒は校門をくぐる。しかし、これは新たな悲劇の始まりだとは誰も思わなかったのだった。
こんにちわ!
新章スタートです。
2年生になった真樹はどんなことに巻き込まれるのでしょうか?
次回をお楽しみに!




