第70話 悪口は許さない
こんばんわ!
今回、事態がいよいよ動き出します!
冬の新作アニメの放送が始まってから1ヶ月半が経とうとしている2月下旬。ダイノイドは否定派のアニメファンによる嫌がらせにも負けず、安定して人気を上げている。一方、ハーモニーエンジェルはというと、トライスターズファン以外からはすっかり見向きもされなくなっていた。新作アニメはDVD、ブルーレイの第一巻が発売を始めるころなのだが、予約数でもダイノイドはハーモニーエンジェルにダブルスコアの差を付けている。ハーモニーエンジェルの方も負けじと、トライスターズが歌う主題歌のCDにライブの握手件を付けるなどしているものの、一般受けの悪さ故にあまり効果が出ていなかった。そんな状況が続き、トライスターズファンの行動はますます過激になっていくのだった。
ある朝、真樹が成田駅に着いて改札を出ようとした時…。
「真樹、おはよう!」
「おう、オニィか。おはよう!」
いつものように慶が真樹に声をかける。しかし、慶の方はなぜか困ったような顔をしていた。不思議に思った真樹は首をかしげながら尋ねる。
「どうした?元気ないな。」
「いや、ちょっとね。昨日の夜ネットサーフィンしてたらとんでもない物を見つけちゃったんだ。」
「とんでもない物?」
真樹が更に首をかしげていると、慶はスマホを起動させて画面を見せる。そこにはあるSNSアカウントだったのだが、そのアカウント名が『ダイノイドを潰せ』という酷い物だった。更に、そこには沢山の書き込みがあったのだが、どれも目を当てられない物ばかりだった。
『ダイノイドとかいうクソアニメ!』
『時間帯に恵まれているだけで、楽しくない!』
『キャスティングが無名ばかりでクソ!』
『かわいい女の子が出て来ない、見る価値ゼロのアニメ!』
『アニメファンをバカにしている!』
『時代遅れ過ぎる!今の時代はロボよりかわいい女の子!』
『流石、大門とか言う老害が作ったアニメ!』
『かわいいヒロインを出して、キャストを変えるなら見てやってもいい!』
『ダイノイドはカス、ハーモニーエンジェルが日本一!』
書き込みはダイノイドだけでなく、監督である大門への悪口も含まれていた。そして、ハーモニーエンジェルを持ち上げるコメントが多く見受けられるだけでなく、SNSのアイコン画像もハーモニーエンジェルの主人公、サクラだったことから、このアカウントの主は過激なハーモニーエンジェルファンであると推測できた。
「酷いな、これ。アイドル声優ファンってこんなのしかいないのか?」
「全員じゃないと思うけど、応援したいって言う気持ちが暴走しちゃったのかな?だからって、僕はこういうことは許せないけどね。」
「当然だ。」
「大門さんや智子さん、大丈夫かな?」
「大丈夫だとは思うけど、ダイノイドは人気上がっているのに、裏でこんな騒動起こるのは悲しいよな。」
そんなことを話しながらが学校に到着した真樹と慶。昇降口を抜けて教室に向かうと、既に登校していた杜夫が話しかけてきた。
「よう、真樹に鬼越!」
「おはよう、杜夫。」
慶はいつも通りに杜夫に挨拶したが、真樹は少し暗い表情で杜夫に質問した。
「なぁ、杜夫。ちょっといいか?」
「どうした、真樹?」
「お前、このSNSにコメントしたか?」
真樹はそう言って、先程慶が教えてくれたSNSアカウント『ダイノイドを潰せ』を見せる。それを見た杜夫は慌てて首を振りながら否定した。
「してねぇよ。する訳ないじゃん!」
「お前を疑いたくはないが、一応確認だけ取りたくてな。」
「思いっきり疑ってんじゃん!確かに、みんなが美優ちゃんの可愛さを分かってくれないのは悲しいけど、俺はこんな悪口ネットに書き込まないって!」
「ならいいけど、くれぐれもこんなことするなよ。誹謗中傷の怖さは、お前が一番知っている筈だ。」
「う…それは言わないで。あん時は、俺も不注意だったけどさ…。」
杜夫は以前、C組の市川真間子の偽ラブレターの罠に引っ掛かり、ネットに晒されたことがある。なので、熱狂的なトライスターズファンの杜夫が陰でダイノイドの批判をしてないことに安心した真樹だが、ファンとして真樹は早くこの騒動が鎮まって欲しいと思っていた。
数日後、事態は急変する。ある日の週末の夜、真樹が家にいると携帯電話が鳴った。慶からの着信だ。真樹が電話に出たが、慶の様子がどうもおかしい。
「どうした、オニィ?」
「大変だよ真樹!ちょっと、見てもらいたいサイトがあるんだ!」
慶はかなり焦っているようだった。真樹は何事かと思い、とりあえず慶が言っていたサイトを部屋にあるパソコンで検索する。すると、そこには…。
「智子さんのことか?何かあるけど。」
「そう!とにかく開いてみて!」
「分かった。」
慶に言われて真樹はサイトを開く。それはとあるネット掲示板なのだが、タイトルが『ダイノイドのヒロイン、稲毛智子とかいう声優』となっていた。内容を確認すると、管理人はどこからか手に入れた智子の顔写真、プロフィール、過去の出演作品などを掲示板にアップしている。そして、その後に「何でこいつ、急に出てきたの?」と書かれていた。更に他のコメントを確認すると、酷い物ばかりだった。
『いい声だから美人だと思ったのに残念』
『うわぁ、地味過ぎて萎える』
『今頃天狗になってるんだろうな』
『もっと若くて可愛い声優さんいただろ。何でこいつなんだ?』
『演技は上手いけど、上手さを見せつけてる感じがしてムカつく!』
『可愛げがない』
『今時声だけ声優なんていたんだ。』
『ぽっと出なのにメインキャラとか生意気。若くないのに!』
『やっぱりトライスターズだよな。可愛くて歌上手くてダンスもキレキレで完璧!』
『枕営業乙www』
智子への悪口の他、ありもしない噂まで書き込まれていた。そして、やはりトライスターズを持ち上げるコメントも見受けられる。一方で、そんな酷いコメントに対する反論もあった。
『これはとんでもない掘り出し物だ!』
『普通に演技上手いやん!』
『いい声!デリジノイドはハマり役!』
『洋画の吹き替えとかいいと思う!』
『ダイノイドの声優さんって無名だけど、みんな上手だよね!』
『ケロ子ちゃんの人?びっくりした!全然気付かなかった!声優さんってすごい!』
『売れてなかったのが不思議!声よくて演技上手いのに。』
『顔だけアイドル声優より百倍マシ!将来が楽しみ!』
バッシングされている智子を庇う肯定的なコメントもあったのだが、否定派は当然それを面白く思わず、彼らに対する反論のコメントを書き込んでいた。
『ニワかは引っ込んでろ!』
『上手さなんて二の次なんだよ!』
『女性声優は可愛くてナンボ!じゃないとファンの夢が壊れる!』
『頭の中昔で止まってるんじゃない?今の声優は歌って踊れて見た目が良くないとダメなんだぞ!』
『やっぱダイノイドのファンってゴミだわ!』
『お前らみたいなファンのせいで、トライスターズがどれだけ苦しんでるのか分かっているのか?』
あまりの酷さに真樹は呆れて言葉を失ってしまった。そして、電話越しから再び慶の声が聞こえる。
「見た?いくらなんでも酷すぎない?智子さんが可哀想…。」
「ああ。こんなにバカなやつが多いとは驚きだ。」
「にしても、枕営業なんてよくそんなこと言えるよね!智子さんは大門さんに実力を見込まれて役を勝ち取ったのに!」
「馬鹿な奴らはそんなこと分かんないんだろ。とりあえず、自分の推しの声優が少し前まで無名の声優に押し退けられているから、適当な理由作って叩きたいだけだと思う。」
「それにしても、この間のSNS然り、今回の掲示板然り、誰がこんな酷い物をアップしてるんだろう?」
「そこまでは分からないけど、とにかく智子さんが心配だ。日曜日智子さんの家に行ってみようぜ!」
「うん、そうだね!」
それだけ言うと、真樹は電話を切る。そして、この裏には何かとんでもない物が潜んでいるじゃないかという予感がした真樹は、心配が拭えないまま眠りに就いたのだった。
こんばんわ!
酷い人がいっぱい出てきてしまいましたね…。
智子が心配ですが、果たして大丈夫なのか?
次回をお楽しみに!




