第69話 言いがかりはよせ
こんにちわ!
大変なことになってしまいましたが、果たしてどうなるのか?
2月も半ばに差し掛かろうとしている中、冬アニメの騒動はいまだに収まらない。ダイノイドはテレビ局や制作会社に嫌がらせの手紙やメールが送り付けられる状態が続いているものの、依然としてファンからは高評価されている。だが、皮肉なことに人気が出れば出るほど、トライスターズファンからのバッシングは酷くなっていったのだった。
ある日の休日。真樹はこの日野球部の練習が無かったので、家でくつろいでいた。正三と多恵は地元の老人会に出掛けているので、今は真樹一人だ。この後特に予定もなく、真樹は携帯ゲームで遊んでいたのだが、そんな時にインターホンが鳴った。
「ん、誰だ?」
真樹はゲーム機を置いて玄関へ向かう。新聞の勧誘なら断ろうと思っていた真樹だったが、ドアを開けるとそうでないことが分かった。そして、目の前にいた人物を見て真樹は顔を顰めた。
「久しぶりね、湯川君。」
目の前にいたのは真樹のかつての同級生で犬猿の仲でもあるトライスターズのリーダー、大津悠が鬼の形相で立っていたのだ。正直に度と会いたくなかった真樹は溜め息交じりで睨みつけながら悠に問う。
「何だよ。人気声優さんが俺に用でもあるの?つーか、どこで俺の家調べたんだよ?」
「どうでもいいでしょ、そんなこと。」
悠は真樹に質問には答えず、喧嘩腰で言い返した。そして、悠はさらに目を吊り上げながら続ける。
「よくも私達の邪魔をしてくれたわね。害虫のくせに。」
「何の事だよ。知らねぇよ、お前らの事なんて。」
「とぼけないでよ。記事読んだんだから!」
悠はそう言うと、鞄から雑誌を取り出して真樹に突き出してきた。それはアニメ専門誌で、悠が開いているのはダイノイドの特集ページだった。
「やっぱりあんただったんでしょ?」
「だから何の事だよ。話が見えねーっつうの!」
「じゃあ、ここ読みなさいよ。」
真樹は渋々、悠が指差した場所を読む。そこに書かれていたのは、大門へのインタビュー記事だった。そこにはこう書かれていた。
「ダイノイド、人気が上がっていますが、いかがです、監督?」
「とても嬉しいいです。最初はハプニング続きで無事放送できるかどうか心配だったんですけど、ファンの皆さまから好意的な意見をたくさんいただいて何よりです。」
「今回の制作、そんなに大変だったんですか?」
「ええ。登場キャラが独特故にキャスティングが難航しましてね。悩んでいる中、何かいいことがないかと思って母のお墓が近くにある成田山新勝寺にお参りに行ったんです。」
「そうでしたか。そこでご利益はもらえたのですか?」
「ご利益といえるかどうか微妙なんですけど、帰ろうとした時に石段に躓いて、鞄に入れていた資料集を落としてしまいましてね。おまけに足も擦り剥いてしまいました。」
「ええ?!大丈夫だったんですか?」
「そしたら、近くを通りかかった地元の高校生が助けてくれたんです。そして、僕がアニメ制作者だと分かると、『放送楽しみにしています。頑張ってください。』って言ってくれましてね。それを聞いて、やる気が出ました。その後、無事にキャスティングも完了し、放送に間に合ったのでよかったです。」
「素敵なお話ですね。」
「ええ。とにかく僕は、このダイノイドという作品をもっとよくしていきたいと思います。その為に、声優陣及び制作スタッフが一丸となって今後も頑張って行きたいと思います。」
「私も応援してます。ありがとうございました。」
「こちらこそ、ありがとうございました。」
インタビューの記事はここで終っていた。確かに大門は新勝寺で転倒し、真樹と慶に助けられたことを語っていたが、二人の名前は出していない。なので、どうして悠が真樹に言いがかりをつけてきたのか分からないでいた。
「これが何だよ?」
「あんたの事でしょ?この監督が言ってる成田の高校生って。」
「成田に高校生なんて沢山いるだろ。何で俺なんだ?」
「とぼけても無駄よ。次にここを見なさいよ。」
悠は次にダイノイドのキャストコメントのページを開き、デリジノイド役の智子の場所を指さした。そして、目を吊り上げながら続ける。
「年末、WEBラジオの生配信の帰りに、荻窪駅の近くでこの稲毛って言う声優さん見かけたんだけど、そのグループの中にあんたによく似た人がいたわ。そして、荻窪はダイノイドの収録スタジオがある場所。あんたがこの監督と声優さんに肩入れして私達の邪魔してるんでしょ?」
「ずいぶんな言いがかりだな。人気声優の名を聞いて呆れるぜ。」
悠が言っていることは大分当たって入るが、真樹は当然肯定しない。もしここで正直に言ってしまえば、大門や智子達にどんな被害が出るか分からないからだ。答えようとしない真樹に対し、悠は真樹の胸倉をつかみながら詰め寄る。
「生意気言ってんじゃないわよ、このクズ野郎が!何でこんな時代遅れの恐竜アニメが売れて、私達のハーモニーエンジェルが低評価されないといけないのよ!」
「単につまんないからだろ。実際俺も面白いと思わなかったし。」
「よくも言ったわね!いい。私たちトライスターズは、時代にあったアイドル声優として多くのファンが付いてくれているの。内容云々より、私達みたいに人気知名度がトップクラスの声優をキャスティングするだけでアニメの価値は上がるのよ!こんな無名なキャストばかり使っているダイノイドは人気になっちゃいけないの!それに、この稲毛って言う声優さん全然可愛くないし、地味だし、若くないし、アイドル性ゼロね!こんな人は一刻も早く声優やめるべき!時代が求めているのは私達みたいに若くて可愛い声優なの!」
自分勝手なことばかり言う悠に真樹は呆れて言葉も出なくなっていた。そして何より、本格的な実力は声優である智子がようやく引退回避したばかりだというのに、智子の悪口ばかり言う悠に腹が経ってきた。真樹は胸倉をつかんでいた悠の手をひり払い、苛立ちを込めながら言った。
「ふぅ。何にも変わってないんだな、大津って。本当に自分勝手で傲慢なやつだ。自分の実力のなさを棚に上げて、年上の声優さんを侮辱するなんて、どこまで性格腐ってんだ?」
「実力がない?よくも言ったわね!私達は歌も踊りも自信あるし、音楽番組だっていっぱい呼ばれてる!それを実力不足って言うなんて、あんたの目こそ腐ってんじゃない?」
「演技力の話だよ。お前は同じ声、似た様なキャラばかりやってて個性はゼロ。それに対し、智子さんは本当にいい声だし演技力も抜群でデリジノイドのキャラにしっかりハマっている。所詮、アイドル売りばかりしてろくに演技の勉強もしないつけが来たんじゃねぇの?」
悠に何を言われても、真樹は負けじと言い返した。そして、悠の方もやってられなくなったのか、溜息交じりに呟く。
「もういいわ。せっかく休みだから来たけど時間の無駄だったわ!でもね、これだけは覚えておいて!人気者に楯突いたら、ただじゃおかないから!」
「あっそ。用がすんだら帰れよ。」
「ふん!帰るわよ!バーカ、キモ男!さっさと死ね!」
悠はそれだけ言い捨てると足早に帰って行った。そして、今回の悠を見て真樹は彼女が今後大成することは無いと確信した。だが、後日更なる悲劇が待ち受けていたのだった。
こんにちわ!
回想以外で真樹と悠が話すのは初めてでした。
にしても、悠は怖かったですね。
そして、これから起こる悲劇とは何なのか?
次回をお楽しみに!




