表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真樹VS女子  作者: 東洋連合
Episode5 アイドル声優を潰せ
69/328

第68話 恐竜ロボ、荒らされる

こんにちわ!

前回不穏な空気が流れていましたが、果たしてどうなってしまうのか?

 1月も終わり、寒い天気が続くまま2月を迎えた。冬アニメの放送開始から1カ月が経過し、各作品の評価が固まり始める頃合いでもある。ダイノイドはその後も安定してファンの人気を獲得し続け、放送される度にネットのトレンド上位を独占するようになった。一方、鳴り物入りで放送されたハーモニーエンジェルは2月になっても相変わらずの低評価だ。熱心なファンによる好意的なレビューこそあるものの、やはりただトライスターズを全面に押し出している感じが否めないが故、目が肥えたアニメファンは離脱する者が多かった。そして、トライスターズファンの中には彼女達に低評価を下したことを許せない者がおり、後の騒動に発展してゆく。


 ここは愛知県名古屋市に本社を置くテレビ局、中部テレビ。ダイノイドの制作局である。昔からよく夕方アニメを作っており、当たり作品も多いことからアニメファンに親しまれている局だ。ある日、局に一通の封筒が届いた。宛先はプロデューサーだった。

「プロデューサー、郵便です。」

「ありがとう。でも何だろう?」

 女性職員は郵送された封筒をプロデューサーに渡す。封筒に送り主の名前は無く、プロデューサーは不審に思いながら丁寧に封筒を開く。中身を出した瞬間、局内が騒然となる。

「キャー!」

「な、なんだこれは…?」

 茶封筒の中身から出てきたのは、一本のカミソリだった。更に紙が一枚入っており、そこには赤いマジックらしきもので『ダイノイドの放送をヤメロ!』と書かれていた。あまりにも物騒な状況にざわつく局員たち。そして、プロデューサーは苛立ちながら手紙を机に叩きつける。

「クソ!今週で7回目だぞ、これ!誰だか知らんが、いい加減にしろ!」

 どうやら初めての事ではないらしく、その場にいた局員たちも勘弁してほしいと言いたげな表情を浮かべていた。しかし、こんな手紙の相手をする訳にも行かないので、プロデューサーはすぐに警察に通報し、他の局員たちも自分たちの仕事に戻った。


 ある日、学校にて。

「いや、おかしいだろこれ!そうだよな、真樹!」

「おかしくもなんともない。極めて正しく、順当な評価だ。」

 休み時間、杜夫が悲しそうな表情を浮かべてアニメ雑誌を片手に真樹にそう訊ねたが、真樹はさらりと返答した。やはり、熱心なトライスターズファンである杜夫も、ハーモニーエンジェルが低評価されている現実が受け入れられないようだった。アニメ誌の人気投票ではハーモニーエンジェルが24位なのに対し、ダイノイドは4位。最早、差を埋めることすら困難な状況だ。悲しむ杜夫に対し、真樹は更に続ける。

「仕方ねぇだろ。ただ派手な衣装来た女がやかましく歌ってるだけの声優ゴリ押しアニメじゃぁ、いずれはこうなるって。トライスターズのファンだけなら喜ぶけど、一般受けはまずないな。」

「そ、そんな…こんなに可愛くて歌上手いのに。」

「だから、そこじゃねぇって。」

 しゅんとした杜夫に真樹は突っ込む。ヒートアップしている真樹と杜夫の様子は、やはり教室内の一部の女子から白い目で見られている。そんな中、慶が二人の元に近づいてきた。

「どうしたの、二人共?」

「おお、オニィか。いや、杜夫がハーモニーエンジェルが低評価過ぎておかしいとか言ってるからよ。」

「メンバー全員使って、キャラクターも可愛くて歌も名曲ばかりなのに、誰がこんな低評価予想出来るんだよ。」

 杜夫は尚、哀しそうな表情でそう続けた。慶は二人が見ていた雑誌を手に取り、ランキングのページを少し読んだ後、うんうんと頷きながら言った。

「まあ、これは当然の評価だね。にしてもダイノイド4位か!やっぱり名作になるよね、あれ!」

「オニィもそう思うか。ストーリー、作画、声優の演技、どれをとってもダイノイドはスゴいな。さすがは大門さんだ。」

「…。ハーモニーエンジェルだって美優ちゃんのヴァイオレットエンジェルが可愛くて歌上手くてハマり役なのに、何でみんな分かってくれないんだよ。」

「杜夫、そこじゃないと思う。僕もそうだけど、ただ歌ってるだけのアニメじゃ見ててつまんないもん。」

 慶もあっさりとした様子で杜夫にそう返し、杜夫は段々ぐうの音も出なくなってきた。そんな状況の中、慶が深刻な顔でスマホを出しながら言った。

「そう言えばさ。ダイノイド大丈夫かな?人気が出てきている中、こんなニュースが増えてくるなんて…。」

 慶が開いたのはネットニュースの記事だった。そこには『人気アニメの制作局。相次ぐ脅迫で被害届提出』と言うタイトルの記事があった。真樹達は更に記事の詳細を読んでいく。


-人気アニメ『機動恐竜ダイノイド』の放送局として知られる中部テレビ(愛知県名古屋市) に、カミソリや脅迫まがいの手紙などと言った不審物が送りつけられる事態が頻発している。昨日も局内に『ダイノイドの放送をヤメロ』という手紙と共に、カミソリが送り付けられた。当局では、ここ一週間以内に同様の事案が7件発生しており、警察に被害届を提出。愛知県警の調べでは、送り主は不特定多数の物であり、更に7件のうち5件の脅迫文の中に『ハーモニーエンジェルこそ正義、ゴミクズアニメのダイノイドは消えろ。』という文章があった事から、犯人は同じ曜日の放送されているアニメ『聲天使ハーモニーエンジェル』の熱狂的なファンであると仮定。今後、本格的な調査と共に犯人の特定を急ぐことを発表。また、当該アニメの制作会社であるプロダクションHD(ハード)(東京都杉並区)や、他作品の放送局や制作会社にもいたずら電話や脅迫文の送付といったことが頻発しており、警視庁も本格的な捜査を開始すると発表した。-


記事を読み終えた真樹は静かに顔をあげ、ちらりと杜夫の顔を見ながら言った。

「まさかとは思うけど杜夫、お前やってないよな?」

「ま、まさか!やる訳ねぇだろこんなこと!そりゃぁ、ハーモニーエンジェル…美優ちゃんが評価されないのは悲しいけど他の作品陥れる事なんてしないってば!」

 真樹の問いに、杜夫は首を振りながら否定した。真樹の方も、小心者の杜夫にそんなことができる訳がないとよくよく思い返し、安心した様子で言う。

「まぁ、そうだよな。疑ったのは悪かった。」

 杜夫に謝罪する真樹。そして、慶の方は苛立ちながら話し始めた。

「にしても、自分の好きな作品の人気が出ないからって同じ曜日の人気アニメを陥れようとするなんて許せないよね!本当にサイテーだと思う!大門さんや、智子さん達大丈夫かな?せっかくの名作品だから、こんな奴らに潰されないで欲しいよ!」

「全く持ってその通りよ!」

 慶の怒りの声に反応する者がいた。後ろを振り返ると、美緒が怒り心頭な様子で立っていた。彼女は3人の元に近づき、不満そうに話し始めた。

「私が好きなハイスピードスパイクの放送局や制作会社にも嫌がらせのメールがきたみたいね。でも、一番許せないのは主人公の声優さんのSNSまで荒らされたことよ!全く、中身がない作品が好きな人って自分の脳みそもないのかしら!」

 随分ボロクソに美緒はそう言い切った。どうやら彼女が好きな作品であるハイスピードスパイクも荒らし行為の被害に合っていたようだった。美緒は杜夫が持っていた雑誌を開き、呆れ顔で呟く。

「ハイスピードスパイクが人気投票で上位に食い込んだのは嬉しいわ。だけど、ハーモニーエンジェルより人気があるってだけで荒らされるのは悲しいの。早く逮捕して欲しいわ!」

「俺もハイスピードスパイクは見た。主人公達が本気でバレーの全国大会を目指していくのはアツいし、同じ運動部の男として共感できる。いいアニメだ。」

「僕も見たよー!やっぱ、スポーツ物っていいよね!すっごく面白いし、主人公達を応援したくなっちゃう!次回が楽しみだよ!」

 真樹と慶はハイスピードスパイクを結構気に入ったらしく、美緒に勧められてから毎週視聴していた。因みに、アニメ史の人気投票では作品部門でダイノイドと並んで4位、男性キャラ部門でも主要キャラが主人公を含めて二人上位に食い込んでおり、着々と人気をあげている。二人の反応に美緒は思わず笑みがこぼれた。

「湯川君も鬼越さんも魅力が分かってくれて嬉しいわ。公津君も見ればいいのに、面白いわよ。」

 美緒は杜夫にそう言ったが、杜夫は何とも云えない顔をしていた。そもそも杜夫のアニメを見る基準は好きな声優(特に浦賀美優)が出演するか、もしくは可愛い女性キャラクターがいるかいないかであるので、男子バレーが題材のこの作品は当然ながら視聴していなかった。そして、杜夫は不満そうにこう返した。

「そりゃぁ、菅野の言い分も分かるけどよ…。やっぱり人それぞれ好みがあるってゆーか…俺は普段から女の子と絡む機会が全然ないから、せめてアニメの中では女の子が見たい。そして、一番好みの美優ちゃんが出ていることだけは絶対に外したくない。分かってくれよ。」

 そう切り返した杜夫。因みにハイスピードスパイクの主人公が通う学校は男子校なので、女性キャラクターはほとんど登場しない。杜夫の反応に呆れていると、更に二人が話の輪の中に入ってきた。

「よお、真樹。なんだか賑やかだな。」

「何話してんだよ。楽しそうだな。」

 クラスは違うが、野球部の仲間である伸治と武司がA組にやってきた。真樹は微笑みながら二人に事情を説明する。

「おお、伸治に武司。いやー、みんなで好きなアニメの話してたんだ。」

「そうなのか?因みに俺はハイスピードスパイクかな。普通に面白いわ、あれ!」

「さっすが、中山君!分かってるー!」

 伸治はハイスピードスパイクが気に入っているらしく、それを聞いた美緒は嬉しそうにそう言った。そして、武司は少し考えながら答えた。

「うーん、俺はキャッスルプリンセスだな。あと、小学生の弟が見ているダイノイドも好きかな。」

 キャッスルプリンスとは悪魔にさらわれて魔界の白に幽閉されたお姫様を、現実世界から迷い込んだ現代人の主人公が色々あって救いに行く異世界ファンタジーで、雑誌の人気投票で1位を獲得した。さらに、好きな作品の中にダイノイドも入っていて、真樹と慶は嬉しそうに「うんうん」と頷いた。そんな中、杜夫が食いついた。

「なぁなぁ、二人はハーモニーエンジェル見てるか?キャラも可愛くて、声優さんが歌う歌もいいからお薦めなんだけど。」

 杜夫はそう聞いたが、伸治と武司は少し困った表情を浮かべ、申し訳なさそうに杜夫に答えた。

「それか。中学の友達がいいっているから見たけど、つまんなかった。歌ばっかで内容頭に入んないわ。」

「俺は夜中にテレビつけたときたまたまやってたから見たけど、10分で見るのやめた。大声で歌ってばっかでむしろやかましかったし。」

「はぁ、周りに美優ちゃん達の魅力を分かってくれる人がいない。」

 二人の答えに杜夫は残念そうに肩を落とした。色々な意味で大波乱を生んだ冬アニメ。そして、騒動はこれだけにとどまらなかったのだった。

こんにちわ!

大変なことになってしまいましたね。

ダイノイドは無事に制作を続けることができるのか?

そして、これから起こる更なる悲劇とは?

次回をお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ