第66話 始業式の談話
こんにちわ!
放送後、例の2作品はどうなったのでしょうか?
冬休みが終わり、大谷津学院は3学期を迎えた。3年生は受験勉強の追い込み時期、そして1,2年生は部活の大会や学年末テストなどそれぞれ色々な目標を抱えている中、真樹は冬の寒い朝の下、白い息を吐きながら学校へ向かう。凍てつく寒さの中、いつものように駅で電車を待ち、入線してきた電車に乗り込んだ。丁度開いている席があり、隣には女性も座っていなかったのでそこに腰を下ろした真樹。すると、隣から楽しそうな声が聞こえてきた。
「先週のハーモニーエンジェルはご覧になったか?」
「無論だ!トライスターズ3人がメインなアニメを見逃す訳が無かろう!」
それは以前と同じく、電車内でアニメ雑誌を読みながらトライスターズの話をしていた学ランを着た二人組の男子高校生だった。この日はアニメ雑誌は持っていなかったものの、相変わらずトライスターズの話をしている。
「新年一発目からいいものを見れた!」
「サクラちゃんマジ天使!やはり悠ちゃんの歌声は可愛くて癒される!」
「モモちゃんのコスチュームで悩殺された!そして春香ちゃんの声もあって殺人的な可愛さだ!」
「ハーモニーエンジェルこそ、今期…いや今年の覇権アニメ間違いなし!」
「そうだ、異論は認めん!」
案の定、二人はハーモニーエンジェルを推しているようだった。真樹は冷めた表情で二人の話を聞き流していたが、心の中では不敵な笑みを浮かべている。
(フン。そう言っていられるのも今の内だぜ。悪いが、ハーモニーエンジェルは人気作にはなれない。絶対にだ。)
真樹は自信満々で心の中でそう言い、成田駅に到着後電車を降りる。そして、改札口ではいつものように…。
「おっはよー、真樹!それと、明けましておめでとう!」
「おはよう、オニィ!新年の挨拶ならケータイで済ませただろ。」
「直接言うのは初めてでしょ!僕、冬休みはずっと埼玉のお爺ちゃんの家にいたんだし。」
慶が満面の笑顔で挨拶してきた。どうやら彼女は年明けに祖父母の家に帰省していたようだった。そして、真樹はあの話題を出した。
「そう言えば、オニィ。ダイノイド見たか?」
「見た見た!すっごい面白かった!メカはカッコいいし、話は面白いし!それに、智子さん、すっごくデリジノイドにぴったりだったね!来週が楽しみでしかたないよ!」
「俺もだ。次回はダイノイド達が変形合体するみたいだからな。待ち遠しいぞ。」
慶も勿論、帰省先にてダイノイドを視聴していた。真樹と同様、ダイノイドの内容にはまっただけでなく、無事デリジノイドを演じ切った智子を嬉しく思っていた。そんな感じで話しに花を咲かせている内に二人は学校に到着し、再び学校生活を始めるのだった。
「えー、新年明けましておめでとうございます。3年生は受験シーズンでもありますので、引き続き体には気を付けてください。それでは今年もよろしくお願いします。以上。」
終業式同様、全校生徒達が体育館に集められた後、校長先生の話を聞き終えた。そして、ぞろぞろと各クラスの教室に戻る中、一際賑やかな一段がいた。
「裕也くーん!」
「明けまして、おめでとう!」
女子生徒達が学年一のイケメンである裕也に、黄色い声を出しながら寄ってきたのだった。裕也の方も嬉しそうに微笑みながら返事をする。
「明けましておめでとう!今年もよろしく!いやー、久々に皆の顔見れて嬉しいよ!」
「私も嬉しー!」
「裕也君、サッカー頑張ってー!全国行ったら応援行くわ!」
「ありがとう、みんなの期待に応えられるように頑張るよ!」
「キャー!」
「新年からカッコいい―!」
大勢の女子生徒に囲まれながら教室へ向かう裕也。真樹は呆れ顔でその様子を遠くから見ていた。
「相変わらずだな、あいつは。まあいいや。絡まれると面倒くさいから気付かれないように戻ろう。」
真樹は気配を消しつつそっと裕也から距離を置き、一度トイレに向かってから教室に戻ったのだった。
その後、ロングホームルーム前の休憩中にて。
「なぁなぁ、真樹!この前、俺のイチオシのハーモニーエンジェルが始まったんだけど、見た?」
杜夫が楽しそうな雰囲気で真樹に話しかける。トライスターズの浦賀美優の熱烈なファンである杜夫は放送前からハーモニーエンジェルを推していたのだが、案の定視聴していたようだった。真樹は表情を曇らせながら溜息交じりに答える。
「ああ、見たけどそれが?」
「なんだよー、ツレないなー。よかったろ?可愛かったろ?スミレちゃん、そしてそれを演じる美優ちゃん!」
「ふーん。で?」
不満げにそう聞き返す真樹。杜夫としては、トライスターズのアンチである真樹がもしかしたらハーモニーエンジェルを見て心変わりするのではないかと期待していたのであろう。しかし、勿論そんなに簡単に心変わりする真樹ではなかった。
「いや…ハーモニーエンジェルのコスチューも可愛かったし、トライスターズが歌う歌がみんなよかっただろーって…。」
「聞きたいことはそれだけか、杜夫?はっきり言うとあのアニメは論外だ。一つも褒められる所が無い!」
バッサリ切り捨てた真樹。そんな真樹の反応を見て、杜夫は唖然としつつも必死でフォローしようとした。
「そ、そんなことないだろ?作画も良かったし、歌も中々心に刺さる物だっただろ?それに、一生懸命戦うハーモニーエンジェルを応援したいって気持ちにはならなかったのか?」
「ならないね。展開意味不明すぎるし、みんな甲高い声張り上げて歌ってるだけだからむしろ耳障りだったわ。」
「全く同意見だよ。」
杜夫と真樹が話している中、入ってきたのは慶だった。彼女も真樹と同様、終業式の時に杜夫からハーモニーエンジェルを薦められていた。
「杜夫がお勧めっているから試しに僕も見て見たんだけどね。言葉にならないくらいひどかった。歌ってばかりで肝心の内容はスカスカだし、トライスターズの宣伝道具感がすごかったと思ったよ。同じ日の夕方に放送されたダイノイドの方が内容もしっかりしてるし、声優さんもキャラにはまっててずっとよかった。ダイノイドは僕個人としては今年一番の作品の可能性あると思うけどな。」
慶は真樹以上にバッサリと批判し、変わらずダイノイドを推していた。実際、ダイノイド放送後の反響は大きく、ネット上では「カッコよかった」「迫力あって面白い」「この先の内容が気になる」「今年のダークホース」という好意的な意見が占めていた。そして、杜夫は一番期待していたアニメを友人二人に否定的に受け取られ、焦りながら反論した。
「な、なんだよ二人揃ってボロクソに言って。い、今はまだ1話目だからこれから面白くなる!それに、俺もお前らが推していたダイノイド見たけど、声優さんが無名ばかりで全然華が無いし、ロボットばかりで可愛いヒロイン全然いないし、内容難しくて俺の心の癒しには程遠いな。やっぱ、好きな声優さんが出ているだけでどんな作品もいいと思えるんだ!」
「表面的な所しか見えてないんだな、杜夫。」
「ホント。さっきから声優さんの話ばかりで内容は二の次だもんね。」
真樹と慶は、熱くなる杜夫に対して冷めた表情でそう言った。真樹と慶は純粋に内容を楽しみたいと考えているのに対し、杜夫の方は好きな声優、そして可愛い女性キャラが見たいと考えているあたり、アニメに対する楽しみ方が正反対だった。そんな感じで3人がアニメ談義をしていると、思わぬ人物が割って入ってきた。
「甘いわね!3人とも!」
そう言われて振り返った3人。するとそこには自信満々な笑みを浮かべた学級委員長、美緒が仁王立ちをしていた。美緒は3人に近づくと、スマホを起動させながら言った。
「あんた達が今期何のアニメを推しているかは分かったわ。でもね、今日から私のイチ推しアニメが始まるのよ!これを見たら、考えがきっと変わるわ!」
美緒はやけにテンションが高い様子でそう言うと、スマホであるページを開いた。それはアニメの公式ホームページで、タイトルを『ハイスピードスパイク』と言うものだった。イラストを見る限り、どうやら男子バレーボールのアニメの様だが、それ以前に真樹達は美緒が楽しそうにアニメの話をしているのが意外すぎてポカンとしている。固まる3人を見て、美緒はムッとしながら言った。
「何よ、その顔は?」
「いや。菅野はアニメを見る奴だと思わなかった。子供っぽいから嫌とか言って否定するイメージしかなかったからな。」
そう言ったのは真樹だ。これに対し、美緒は顔を赤くしながら反論する。
「失礼ね、勝手なイメージ植え付けて。私だって、面白いと思ったらアニメでも何でも見るわよ!」
「まぁまぁ、菅野さん。このアニメ今日からなんだ。バレーアニメの様だけど聞いたことない作品だな。」
慶が真樹と美緒の仲裁に入りながらそう言った。それを聞いた美緒は再び笑顔になって説明を始めた。
「フフフ。それなら教えてあげる!このアニメはマンガ原作なんだけど、バレーボールに情熱を注ぐ男子高校生たちの熱くて感動的な物語なのよ!私は原作好きで全巻読んでるんだけど、ようやくアニメ化決定してその放送日が今日なの!楽しみでしかたないわ!」
美緒はイキイキとした表情でそう話した。美緒自身がバレーボール部に所属していうこともあって、話に共感できる部分が多かったのであろう。しかし、真樹と慶は意外と興味津津だった。
「男子高校生の部活ものか。確かに面白そうだ。一度見てみる価値はあると思う。」
「僕もそう思う。スポーツアニメは昔から結構見てるし!」
「そう?もし見た後気に入ったら、原作も読んでみるといいわ!」
共感してくれた真樹と慶に対し、美緒は嬉しそうにそう言った。しかし、ここで杜夫が余計なひと言をいう。
「えー、こんなムサ苦しい男ばかりのアニメ嫌だよ。こんなの女性しか見てて楽しく思えないじゃん。やっぱり男としては、美優ちゃんみたいな可愛い子が演じる可愛いヒロインが出てこないと!よって、ハーモニーエンジェルが一番!ハイスピードなんとかが一番論外だよ。」
それを聞いた瞬間、美緒の中で何かが切れた。そして、真樹の机の上に置いてあった教科書を持ち、それで思い切り杜夫の頭を叩いた。
「痛ぇー!」
「もう、言いたい放題言って!見なかったことを後悔するわ、公津君!」
それだけ言うと、美緒はプンスカしながら自分の席に戻ってしまった。新作アニメがたくさん始まる時期、真樹と慶はダイノイド、そして智子の快進撃を信じていたのだった。
こんにちわ!
アニメの楽しみ方が真っ二つに分かれてましたね。
智子、そしてトライスターズはどうなるのか?
次回をお楽しみに!




