第63話 終業式にて
こんにちわ!
今年ももうすぐ終わりですね!
智子のダイノイド出演が決定してから数日が経った。あれから智子は年明けの放送に間に合わすため、かなりの急ピッチでアフレコしているようだ。今までの彼女からすれば考えられないような生活なのだが、忙しくとも充実している現場に智子自身はかなり満足しているようだった。智子の演技は大門だけでなく、他のスタッフや出演声優からも好評で、自信を取り戻した智子はすっかり現場になじんでいた。そして、そんな彼女達に助け船を出した真樹は今、学校で終業式を迎えていた。
「えー、明日から冬休みに入ります。寒くなっているので日座など、体調言管理に気を付けてください。3年生は受験が迫っていますが、自分たちの実力を発揮できるよう頑張ってください。以上です。」
真樹達は体育館に集められ、校長先生の話を聞いていた。そして、特に何事もなく終業式を終えた全校生徒達はぞろぞろと自分たちの教室に戻っていた。その途中、真樹はある人物に絡まれる。
「よう、残念湯川君!今年最後なのに相変わらず気持ち悪いな!」
振り返ると裕也がいた。真樹としては、最近は裕也の事を全く相手にしていなかったが、やはり目が合うと裕也は真樹に対してマウンティングを取っている。真樹は溜め息交じりに応える。
「何だよ?意味分かんない。」
「もうすぐクリスマスだな。俺は女の子と楽しくパーティするけどお前はどうすんだ?」
「家で家族とケーキ食えば充分だろ?」
「うわー、寂しい!高校生にもなってクリスマスデートもできないなんて!お前って本当に終わってるな。女の子から相手にされず、孤独死確定だよお前!」
「意味わかんねぇ。用がすんだらどっか行け。」
「ちっ。マジムカつくわ、お前。努力もしないで女の子に嫌われるようなことばかりして…。あろうことか何人も停学に追い込んだしな!あー、うぜぇ!何でこんな奴と高校生活送んなきゃいけないんだか!」
それだけ言い捨てると裕也は前を歩いていた女子グループに合流し、教室に戻ってしまった。そして、真樹も教室に戻り、ホームルームが始まった。立石が教壇に立って話し始める。
「えー、皆さんお待たせしました。今から通知表を返しますんで呼ばれたら取りに来て下さい。」
終業式の恒例イベント、通知表返却だ。次々と返却され、真樹の番が来た。
「湯川君。」
「はい。」
「よく頑張ったわね。調子乗らずに成績を維持し続けるよう頑張って。」
「分かりました。」
真樹は通知表を受け取ると、静かに自分の席に戻った。その間、女子達から「成績いいのムカつく。」「もう、あいつだけ転校させて欲しい。」「とにかくうざい。」と文句を言われてしまったのだが。真樹は気にせず自分の席に着き、再び立石の話が始まる。
「みんな。冬休みだからって遊びすぎないようにね!宿題もちゃんとやるのよ!」
立石は真樹達にそれだけ言い、ホームルームは終わった。終わった後、杜夫が真樹に近づき、話しかけてきた。
「なぁなぁ、真樹。これ見てみろよ。」
杜夫はそう言ってスマホ画面を見せつける。画面にはアニメの公式ホームページが出ていたのだが、それは…。
「聲天使ハーモニーエンジェル…。これがどうした?」
「反応鈍いな。俺が大好きな浦賀美優ちゃんが出ているアニメの中で一番期待しているのがこれだ!しかも、トライスターズ結成後に初めて3人がメインヒロインをやる。ああ、なんて豪華なんだ!」
宿敵とも言えるトライスターズ3人がそれぞれ主要キャラを担当するアニメ『聲天使ハーモニーエンジェル』のホームページだった。真樹は不満そうな表情で杜夫に質問する。
「面白そうにみえないが、褒められる要素があるのか、これ?」
「何言ってんだよ!キャラクターがみんなトライスターズを意識していてかわいいし、作中じゃみんなの歌声が聴ける!年明けから美優ちゃんの歌声がいっぱい聞けると思うともうたまらん!ライブやるなら絶対行かなきゃ!」
興奮気味に話す杜夫に対し、真樹は呆れた表情を浮かべ、周囲にいた他の女子生徒達は明らかに引いている。真樹は試しにストーリーの部分を開いてみた。
サクラ、モモ、スミレの3人は歌やダンスが大好きな仲良し3人組の女子高生。しかし、異次元国家のノイズ王国が地球を侵略しようと進行。彼女達も襲撃を受けるが、ミオンと名乗る妖精が現れて言った。『あなた達の歌声、いつも聴いてました。その美声と歌唱力で世界を救ってください。』そう言われた瞬間、彼女達は可愛らしい衣装をまとって変身した。世界を救うために歌え、聲天使ハーモニーエンジェル。
読み終えた真樹は呆れて言葉を失ってしまった。読んだ所で真樹にとっては意味不明な内容である上、どうしてアニメ見て大嫌いな大津悠の歌声を聞かされなきゃいけないのかと思った。このようなアニメを支持する人の気が知れないと真樹は考えていた。すると、真樹はスマホを開き、杜夫に画面を見せる。
「お前がそれに期待してるんなら、俺が一番期待しているのはこれだ。」
見せた画面は勿論、真樹が助太刀して放送が間に合ったアニメ『機動恐竜ダイノイド』である。ホームページも以前から更新され、キャラクター情報とキャストコメントが追加されていた。勿論、智子のコメントもある。杜夫はそれを見ると、不思議そうに言った。
「ん?恐竜ロボのアニメ?初めて聞いたな。声優さんは知らない人ばかりだし、可愛い女の子のキャラが全然いない。ないな、このアニメはパスだ。」
「興味無いのか。だが、メカニックデザインもいいし、ストーリーも奥が深そうで期待できると思うけどな。それにこの監督、上手い声優さんしか使わないことで有名だから全体的な完成度は高いと思うぞ。」
真樹はそう言った。実際、大門は作品作りに関しては徹底した実力主義を貫いており、それが原因でキャスティングを巡ってスポンサーと喧嘩したこともあった。他のダイノイドの声優たちも智子と同じように、人気作品への出演及び主人公などメインキャラを担当したことが無い無名の若手ばかりだった。しかし、オーディションで大門が見込んだだけあって、演技力にはかなり期待できそうだった。そんなことを話していると、慶が近づいてきた。
「真樹、杜夫。何話してんの?」
「オニィか。今こいつと1月のアニメの話していたんだ。」
「俺はやっぱり美優ちゃんが出るハーモニーエンジェルが期待大だと思ったんだけど、こいつの紹介したロボアニメ、何がいいのかよく分かんねえぇんだ。」
「そうなんだ。僕はやっぱり真樹が言っているダイノイドかな!ロボットかっこいいし、ストーリーや戦闘シーンも見てて面白そう!」
「さすがオニィ、分かってるな。」
真樹は笑顔でそう言い、その後に杜夫が慶に問う。
「じゃ、じゃあさ。ハーモニーエンジェルはどうだ?名前の通り、天使みたいにかわいい女の子が歌声で世界を救うんだぜ!勿論、視聴者も!」
杜夫はそう言ったが、慶は困り顔で首を振りながら言った。
「えー、これは無いかな。僕、昔から女の子がやたら出てくるアニメ苦手なんだよね。感動するとか熱くなる要素があればいいんだけど、このアニメはそんな雰囲気じゃなさそうだよ。」
「ちぇっ、こんなかわいい美優ちゃん…トライスターズの魅力が分からないなんて、可哀想な奴らだ。」
慶にバッサリ切り捨てられて不満そうにそう言った杜夫。一方、真樹と慶はダイノイドの内容だけでなく、引退を回避した智子の覚醒に期待していたのだった。
ダイノイド紹介
ティラノイド
・ティラノサウルスのDNAが組み込まれた1号機。パワフルな熱血漢で、正義感が強く仲間思いな所もあって他のダイノイド達からも慕われている。パワー、スピードにおいてかなりバランスがよく、いかなる相手でも立ち向かっていく。メインカラーは赤。
スピノイド
・スピノサウルスのDNAが組み込まれた2号機。知的で冷静沈着なクールガイで、丁寧な言葉遣いで話すのが特徴。水中戦が得意で、10000mの水圧にも耐えられる他、200ノットで泳ぐことができる。ピンチになっても動じず、仲間たちの危機を救う。メインカラーは青。




