第61話 緊急オーディション
こんにちわ!
大門の目にとまった智子はどうなるのでしょうか?
智子が大門からオーディションの誘いを受けたその翌日。真樹はいつも通り自宅の最寄り駅である佐倉駅から学校へ向かうべく、ホームで電車が来るのを待っている。その後、学校がある成田方面の電車が入線し、来た電車に乗り込んだ真樹。あいにく座れる所が無かったので、吊革につかまって立っていたのだが、真樹の正面に座っている学ランを着た二人組の男子高校生が声優雑誌を読みながら楽しそうに話していた。
「見たまえ。トライスターズ全員が出演するアニメ、楽しみなのだ!」
「我が推しの大津悠ちゃんの声が聞けるのならば、何でもいいぞ!」
「そうか。悠ちゃん推しだったか。我が推しの春香ちゃんもお忘れなく!」
「勿論!とにかく楽しみだなぁ!」
「ああ。トライスターズ、可愛い、天使、女神だ!」
どうやら二人はトライスターズの熱烈なファンらしく、まだ早朝なのにかなり盛り上がっていた。因みに、彼らが読んでいる声優雑誌の表紙もトライスターズが飾っている。そんな光景を見た真樹は、軽く溜息をついた後、心の中で二人を一瞥した。
(全く。何も分かっていないバカどもが。まんまと見た目に騙されやがって。演技は酷い、性格悪い、声優って職業を舐め腐っているこいつらを応援する奴の気が知れないわ。まぁ、いいさ。そのうち真の実力派が覚醒するからな。)
二人の会話と、表紙にいたトライスターズを見て真樹は少し不機嫌になった。真樹は女嫌いだが、女性に媚びる男も同じくらい嫌いだった。朝からご機嫌斜めになってしまった真樹だが、その間に電車は成田駅に到着し、下車して学校へ向かった。
その後、学校にて。
「なあ、杜夫。」
「どうした、真樹?」
ある休み時間中に、真樹は杜夫に質問をした。
「1月から新アニメいっぱい始まるけど、何か見るの?」
真間子の件から一時期不登校寸前まで追い詰められた杜夫だったが、すっかり元気を取り戻している。そんな杜夫は、真樹の質問に対してこう答えた。
「そーだな。見る作品は決まっているぞ!」
「何?」
「それは勿論、浦賀美優ちゃんが出ているアニメは全部見る!」
浦賀美優はトライスターズのメンバーだ。それを聞いた真樹は少しムッとしながら別の質問を杜夫にした。
「内容とかはどうでもいいのか?」
「そりゃぁ、だって…。好きな声優さんが出ているんなら、声が聞けるだけで耳の保養になるだろ?」
「トライスターズ、みんな演技力ゼロじゃん。」
「いいんだよ全然。可愛さと歌のうまさで全部カバーできてるから。」
「仮にも声優だぞ。」
「分かってないな、真樹は。今の時代は声優さんも可愛くて歌やダンスが上手いのは必須事項なんだぜ。そりゃぁ、可愛い子がいた方が男としては癒されるから、当然だよなぁ。」
どうやら杜夫もトライスターズ、特に浦賀美優が好きらしかった。すっかり時代に流されている杜夫を見た真樹は(分かってないのはお前だよ)と心の中で呟きながら自分の席へ戻った。
そんなこんなで日にちは過ぎ、土曜日になった。そう、この日は智子のオーディション当日だ。真樹は勿論野球部の練習に参加していたのだが、やはり智子の事が気になるようだった。
「大門さんは見どころあるって言ってたし、多分大丈夫だと思うけどな。とにかく、これ以上トライスターズ、特に大津悠が調子乗るのだけは阻止して欲しいな。」
やっぱり心の中では悠の事を許していない真樹だった。そして、悠の事を考えただけで怒りが込み上げてきたのか、素振りをする時のスイングスピードがどんどん上がっていった。案の定、伸治や武司からは…
「真樹、どうしたんだ?」
「また女子と喧嘩でもしたんじゃない?」
といった感じで不思議がられてしまったのは言うまでもないが。
「おーい、湯川!ノックやるぞ、ファーストにつけ!」
「はーい、今行きまーす!」
関谷に呼ばれて守備位置に就いた真樹は難なくノックをこなした。その後、特に問題も無く練習は終わり、部員たちは引き揚げようとする。
「あれ、真樹?」
「どうしたんだ、そんなに急いで?」
「ごめん、今日急いでるから先帰るよ!ばーい!」
素早く着替えた真樹は荷物を持って駆け足で部室を飛び出した。その後、電車に乗ったのだが佐倉駅では降りずにそのまま東京方面へと向かったのだった。
「あ、真樹!」
「おーい、こっちだ!」
そう真樹を呼んだのは慶と秀太だ。真樹も駆け足で駆け寄る。そこには慶と秀太の他に、智子と宮沢マネージャーがいた。
「すんません。急いだんですけど。」
「いいのよ。わざわざ応援に来てくれてありがとう!」
智子は真樹に優しくそう言った。東京都杉並区の荻窪駅前。今回大門が使うスタジオの最寄り駅なのだが、真樹は練習後に約二時間かけてここまで来た。人数が揃った所で、宮沢が声をかける。
「じゃあ、行きましょう!智子ちゃん、リラックスよ!」
「はい!」
こうして一行は荻窪駅からすたジをに向けて歩きだす。宮沢はリラックスと言ったが、やはりそう簡単にいく訳が無く全員から緊張感が溢れだしていた。そして、スタジオに到着し、玄関ロビーに入ると大門が笑顔で迎えてくれた。
「やあ、待ってましたよ!稲毛さん、あなたの声を早く聞かせておくれ!湯川君達も遠くからわざわざ来てくれてありがとう!」
「とんでもないです!本日は宜しくお願いします!」
智子と大門はそう挨拶を交わした。その後、改めて説明を受けた智子は奥にあるアフレコブースへと何ないされたのだが、真樹達はここで止められる。
「ごめんね、湯川君。この先は関係者以外は入れないから、ロビーで待っててくれないか?」
「分かりました。こちらこそ押し掛けちゃったみたいですみません。」
こうして、大門は智子とマネージャーの宮沢を置くにつれて行き、真樹達は誓うにあった椅子に座って待つことにした。
「あー、どうしよう!僕が受ける訳じゃないのに緊張してきたよ!智子さん、頑張ってほしいな!」
「お、落ち着こうぜ、オニィ!」
「だ、だってぇ…何だろう?昔見たオーディション番組じゃないけど…それと同じか、いやっもっと緊張するよ!」
慶は緊張のあまりアタフタしていた。そして、秀介はまるで祈るようにベンチで大人しく座っていた。
「先輩も、やっぱり緊張しますよね。」
「勿論だ。これで、俺の姉ちゃんの声優人生が決まるんだからな。」
「でも、信じてますよね。智子さんの事。」
「当たり前だ。身内を信じられなくてどうする。」
「俺もですよ。」
そんな感じで会話をしている間にも、オーディションは進んで行ったのだった。
一方こちらはアフレコブース。智子は一人で台本を片手にブースに入る。大門を含む数人のスタッフや宮沢は隣の部屋でその様子を見るのだ。智子は台本の最初のページを開き、深呼吸をした。そして、大門がマイクで声をかける。
「稲毛さん、準備は宜しいですか?」
「大丈夫です。お願いします!」
目の前の画面に映っているキャラクター、デリジノイドが動き出したことにより、アフレコスタート。人生をかけたオーディションの幕開けである。
こんにちわ!
すみません、また変な所で切ってしまいました。
次回は結果発表です!
お楽しみに!




